消えゆく「エロ本自販機」 ロードサイドの掘っ立て小屋を追え!

鬱蒼とした森の近くにたたずむ「エロ本自販機」(提供:黒沢哲哉さん)

なぜ、こんなところにエロ本が? 田舎の道路を車で走っていると、ふいに姿をあらわすエロ本の自販機の小屋。いまはもう消えつつあるその風景を撮影し、記録している人がいます。ライターで編集者の黒沢哲哉さんです。1980年代後半、『週刊少年ジャンプ』のゲーム紹介コーナー「ファミコン神拳」に登場した「てつ磨」といえば、「あ、あの人か」と思い出す方もいるかもしれません。

昭和のレトロなおもちゃやマンガのコレクターでもある黒沢さん。なぜエロ本の自販機に注目したのでしょうか。エロ本自販機はいま、どのような状況に置かれているのでしょうか。黒沢さんの膨大なコレクションを収めた部屋を訪ね、話を聞きました。

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エロ本自販機で手に入れたエロ本やアダルトグッズに囲まれながら語る黒沢哲哉さん

全国のエロ本自販機を巡るのは「一種の使命感」

ーーそもそも「エロ本自販機」とは、どのようなものでしょうか?

黒沢:エロ本を売る自販機です。著書では「エロ本自販機」という言葉を使っていますが、いまはDVDやアダルトグッズを売る自販機が多いので、実際は「エロ自販機」ですね。そんな自販機を置いた小屋を取材しています。なかには1000円で何が出てくるかわからないエロ本自販機もありますが、商品に当たりはずれがあって。「はずれ」だと、パンティとなぜかハンドスピナーがセットになって出ることもあるんです。

ーーどうやってエロ本自販機を見つけているのですか?

黒沢:平日はライターや編集の仕事をしていますから、金曜の夜に家を車で出て、車中泊しながら土日で探します。2014年からこれまで、ネットの情報などをたよりに500カ所くらい訪れました。そのうち100カ所くらいは、小屋自体がなくなっていましたね。残る400カ所のうち、50カ所は自販機が稼働していない状態。「あ、あった!」と思って、Uターンして引き返したら、卵の無人販売所だったこともあります。あれはよく騙されるんです。

廃墟にしか見えない建物でも、ちゃんと営業している場合があるという(提供:黒沢哲哉さん)

ーーなぜ、エロ本自販機に注目したのでしょうか。

黒沢:僕は昭和のおもちゃコレクターでもあるんですが、高価なものではなく、銀玉鉄砲のような駄菓子屋のおもちゃばかりを集めています。そういうのは、きっと誰も集めない。だったら僕が集めるしかない、と思ったからです。その視点から、いまは「昆虫採集セット」を集めています。昭和40年代まではよく見かけましたが、もうほとんどありません。たぶんセットの注射器が危険だとか、そういう理由でしょう。だからおそらく、いまは僕が日本で一番「昆虫採集セット」を持っている人間だと思います。400種類くらいありますから。エロ本自販機の記録も同じことです。最初は「懐かしいな」と思って撮っていただけなんですが、どんどんなくなっていることがわかって。これはもう僕が撮るしかないという、一種の使命感です。

エロ本自販機は「エッジ」に多い

ーーエロ本自販機が隆盛を誇ったのは、いつですか?

黒沢:1980年代の初頭でしょうね。「自販機本」という一般的な雑誌の流通にのらない自販機専門のエロ本があったんです。表と裏がどちらも表紙になっていて、過激度が違うんです。住宅街ではソフトなほうを向けて、郊外では過激なほうを表に出すという風に使い分けていたようです。当時の価格で1冊400円から500円。オールカラーだと600円くらいでしょうか。そのあたりまでは、わりと歴史に残っています。当時、自販機本で仕事をしていた人が本を出していたり、当時のことを語ったりしてるんです。ところが、80年代半ばごろからエロ本自販機が排除されだして、街中から消えていった。みんなそこで終わったと思ったのか、そこから資料がないんです。でも、調べてみると、日本じゅうでひっそりと生き残っていた。むしろそこからが、僕が面白いと思っているところです。

いわゆる「自販機本」。通常の流通にのらないので、バーコードや雑誌コードがない

ーー街から排除されたエロ本自販機は、その後どう生き残ったのでしょうか。

黒沢:エロの商品が、本からビデオになったんです。最初のころは裏ビデオを扱っていたんで、すごく売れたようです。その裏ビデオが規制されると、入れ替わりでDVDがでてきた。DVDって原価が安いじゃないですか。だから、そこから2000年ぐらいまで、市場がどんどん大きくなった。するとまた、2001年くらいから規制が厳しくなって

ーー規制とのいたちごっこなんですね。

黒沢:業界も自主規制をして、自販機に免許証を入れて認証させるようにしたり、ネットで遠隔監視をしたりして、対策をしていくんですけど、それでも行政の手は緩まない。自治体によっては「有害自販機の撤去状況」というのを発表しているところがあって、エロ本自販機の数が推測できるんですが、僕が調べた範囲では、2005年ごろを境に急激に減少に転じています。

ーーエロ本自販機が完全に消えた県もあるわけですね。とすると、逆にその周辺地域には、たくさん……。

黒沢:あります、あります。もともと、エロ本自販機は「エッジ」に多いんですよ。区境とか市境とか、行政の境界線。おそらく自治体の中心部は監視が厳しい。だから縁(へり)にいく。「なんとか市」って書いた看板があるじゃないですか。その真下近くにエロ本自販機が立っていることがあるんです。ほんとギリギリ。そうなると行政もいちいち取り締まるのが面倒じゃないですか。業者も「うちはむしろあっちの自治体に近いから、あちらから客がくるんだ」という言いわけもできる。あと、単純に地価も安い。そんな風に、いろんな推理が成り立つんです。

ーー業者もいろいろと考えているんですね。

黒沢:エロ本自販機のピークのとき、500億円市場とか言われていたんですけど、DVDの時代は商品の価格が高いので、実際にはおそらく、その3、4倍はいっていたんじゃないでしょうか。めちゃくちゃ景気がいいのに、ほとんど誰も気づかなかった。知っていたのは、業者とお客さんと行政だけだったんですね。

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