元ベイスターズ・小杉陽太が目指す「面白い生き方」

プロ野球選手をはじめとするスポーツ選手の「セカンドキャリア」は、本人にとって大きな問題です。スキルがないから転職できない。志半ばで戦力外になったから競技を諦めきれない。そんな苦悩の姿は、しばしばテレビ番組でも取り上げられます。

しかし、中には華麗な転身を遂げる人も。昨年、横浜DeNAベイスターズを去った小杉陽太さん(32)もその一人です。現役時代は、187センチの長身から投げ下ろす速球や、落差のあるフォークを武器とした投手でした。そんな小杉さんが戦力外通告を受けたのは、2017年10月。そのわずか1カ月後には、株式会社リュニックを設立しました。広告代理店業や映像などのクリエイティブを手掛ける会社です。

起業はこれまでのプロ野球選手にはあまりない選択です。小杉さんはなぜこの道を選んだのか。じっくりと話を聞きました。

セカンドキャリアではなく、「転職」というつもり

――もともと、ビジネスに興味があったんですか?

小杉:僕は2008年に横浜ベイスターズに入団したんですが、2012年に親会社がDeNAになり、球団名も横浜DeNAベイスターズになりました。そうしたら、雰囲気がガラッと変わって。まず、春季キャンプのミーティングで、オーナーの南場さんや当時の社長の池田さんから、どういう戦略を取って観客を増やすかというマーケティングの話や、チケットやグッズの売上などビジネス観点の話をされたんです。そのときに「こんなにおもしろい世界があるのか!」と思って、ビジネス書を読み始めました。

もちろん、「野球に関係ない話をしてる」と思っていた選手もいたと思うんですけど、なんだか、自分にはすごく刺さったんですよね。僕が読んでいる本を見て、先輩や同期が「何読んでるの?」と話しかけてきてくれたりして、選手同士でビジネスの話をすることもありました。

起業という選択肢を選んだ小杉陽太さん(撮影・佐伯航平)

昨年戦力外になりましたが、いわゆる「戦力外の男たち」みたいな悲壮感は全然ありませんでした。同期や先輩が戦力外になっていくのを見て、「ああ、そろそろ自分の順番だな」とわかっていたので、「来たな」という感じで。もちろん、チームを離れるのは寂しいという気持ちがありましたけど、次に何をやりたいかが自分の中にしっかりあったから、楽しみのほうが大きかったかもしれないです。

よく、「アスリートのセカンドキャリア」って言うじゃないですか。でもそれって、なんか違うなと。そもそも、「ファーストキャリアが野球なの?」というところもありますし。2つ目のキャリアを作るというよりは、なんだろう、普通の人の「転職」に近いイメージです、自分としては。

人の心を動かして、熱量を広げていく仕事をしたい

――具体的には、どういうビジネスを?

小杉:「人の心を動かす仕事」をしたいと思っているんです。ファンもたくさん球場に来て喜んでいる姿を見ていたので、自然とそう思うようになりました。今は、マーケティングという視点からいろいろと考えています。

コミュニティを作って、その熱量の輪を広げていく、というのがイメージです。たとえば今は、自然食品でつくられたオーガニックなお菓子「cerbona(セルボナ)」のプロモーションをやらせてもらっているんですけど、まずは自分がSNSで「この商品に関わっている」というのをどんどん発信していったんです。そうすると、僕のファンや、ベイスターズのファンの方が「小杉が関わっているなら、ちょっと買ってみよう」みたいな感じで買ってくれて、それをSNSにアップしてくれました。僕は、「小杉」とか「cerbona」でエゴサーチして、全員にいいねやリツイートをしたり、フォローしてくれる人はフォローバックしたり。

――えっ、全部見て、自分で「いいね」やフォロー、リツイートを?

小杉:はい(笑) ちゃんと読んでますし、リプライを送ることもありますよ。僕と同じように関わってくれている人を、どんどん巻き込んでいきたいと思ったんです。

そうやって地道に続けているうちに、みんながどんどん自発的にcerbonaの写真をアップしてくれるようになったんです。「このお店で見つけた」とか「観戦のお供に持ってきた」とか。商品そのものというより、商品に「小杉」というストーリーが乗っていて、それを自分ごととして感じてくれたり、それに対して対価を払ってくれるという流れができたと思っています。

この熱量をもっと広げるために何かしたいと思って、リアルイベントも企画しました。イベントの当日は、できるだけ参加者同士が交流できるように心がけました。商品という1つの共通した話題から、気の合う人を見つけてもらって、もっとリアルの輪を広げてほしいなと思ったんです。思った以上に盛り上がって、手応えを感じました。

これだけネットが発達している時代ですけど、結局人と人との触れ合いが一番だし、ライブ感も大事にしたいし、アナログに戻ってくると思うんです。だからこそ、「居場所」みたいなものをみんなが作れたらいいなという気持ちがありました。仕事の帰りにちょっと寄って、気の合う人と1杯飲んで、っていう場所やコミュニティを作っていけたら最高ですよね。

「元プロ野球選手」の肩書

――正直、「元ベイスターズの小杉陽太」という肩書を利用していることもあるんですか?

小杉:戦力外になった直後だから、ベイスターズのファンの方も気にしてくれているところもあると思いますし、仕事で出会う人も「元プロ野球選手なんだ」って、最初に興味を持ってくれることは多いです。でも、自分から振りかざすようなことはしないし、知っている人のほうが少ないですね。

結局、仕事につながるかどうかは実力次第だと思うんです。「ベイスターズの小杉陽太」とか「元プロ野球選手」って賞味期限があると思っていて、もしあるとしたら、使える場所では使っていきたい。それで仕事に対するスキルがある、リアルな情報をキャッチアップできているというところもしっかりと見せて、元々僕がプロ野球選手だったとかは関係なく、「あの会社だから頼みたい」「小杉だから頼みたい」と言われるようになっていきたいですね。

すべてが「削ぎ落とされた」今、野球が楽しい

――すごく精力的に仕事をしているイメージですけど、休日はどう過ごしていますか?

小杉:実は今はほとんど休んでいないんです。休むと怖いというか、この時間で何かできたんじゃないか、誰かと会えたんじゃないか、って焦っちゃう。家族にはいろいろ言われたりもするけど、最終的には理解してもらってると思います。

唯一と言ってもいいリフレッシュは、土曜の夜にやっている草野球です。IT系企業のチームが多く集まっている「ITリーグ」に入れてもらっているんですが、僕のチームは独走状態で超強いんですよ。もちろん僕のおかげですけど(笑)

不思議なんですけど、今はいろんなものが削ぎ落とされて、本当に野球が楽しいと思えています。しかも、信じられないぐらい調子が良いんです。もちろん現役のとき、プロとしてプレッシャーを感じながら野球をやるのも楽しかったのですが、それとはまた違った純粋な気持ちになれるというか・・・。「本当の自分」になれる時間かなと思います。

――いずれは古巣と仕事をしたいという気持ちもありますか?

小杉:それは、もちろんあります。やっぱりベイスターズが好きだし、僕にこういう道があるんだって気づかせてくれたDeNAのことも好きなので。

これは僕が勝手に思ってることなんですけど、野球選手を辞めた後のことを変えていきたいなと。もっともっと、面白い生き方ができるんだぞ、というのを見せていきたいと思っています。

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