大相撲「ひとりマス席」で生観戦 相撲ビギナーでもこんなに楽しめる!

大相撲名古屋場所五日目、結びの一番で阿炎関が鶴竜関に金星をあげ、大量の座布団が土俵に投げ込まれた。

7月22日に幕を閉じた大相撲名古屋場所は、関脇の御嶽海関が初優勝を果たしました。平成生まれの日本出身力士が優勝するのは初めて。長野県出身力士が優勝するのも、優勝制度ができた1909年以降では初めてだといいます。

優勝が決まって土俵の外に降りたときは、キリリとした表情のままの御嶽海関でしたが、花道の奥で付き人と抱き合う瞬間は笑顔に。インタビュールームに移ってから、その様子は一変します。「嬉しいです」の一言の後は言葉が続かず、あふれる涙を手で拭いながら、NHKのインタビューに応じる姿が印象的でした。

一連の様子を私はテレビで見ながら、自分も五日目、現地ドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で観戦していたのを思い出していたんです。ああ、あの場にいたなぁ、と。

生観戦した日は、先場所から人気急上昇中の阿炎関が横綱・鶴竜関に勝利し金星をあげるなど、熱い現場をこの目で見届けました。そのほか、土俵外のドラマもあふれていた生観戦。その模様や「ひとり観戦」の魅力をここにつづらせていただきます。

『相撲めし』を読んで大相撲に興味

大相撲の話を同世代の20代、30代の人にすると、たいてい「見たことがない」「へえ、相撲好きなの? 意外」といった反応をされます。相撲にふれたことがない人は、思いのほか多いのでしょう。

私もそのひとりでした。昨年12月に『相撲めし』(著:琴剣淳弥、扶桑社)という1冊の本に出会うまでは。タイトルの通り、相撲とグルメにまつわる本。力士行きつけの店や何を食べて体を大きくしてきたか、某相撲部屋でのちゃんこの作り方などが収録され、食べることと男同士の闘いが好きな人間であれば、確実に相撲への興味関心を引き起こす内容でした。

昨今、大相撲本場所のチケットは大人気で、2カ月ほど前に発売されるやいなや、即完売します。一月場所は両国国技館で開催されますが、当然のごとく、チケットはとれません。私は泣く泣く、一月場所と大阪で開催される三月場所は、全15日間の序の口〜結びの一番まで無料で生中継する「AbemaTV大相撲チャンネル」で観戦し、ようやく五月場所で念願だった生観戦を叶えたのです。

足場下の暗がりを通って、力士も使う食堂へ

序二段の取り組み中、会場となるドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)に到着

そして、今回の名古屋場所です。私が観戦したのは7月12日でした。この日は木曜日で平日でしたが、勝手に「相撲休暇」と称して、前日までに必要な仕事を終わらせ、夜まで仕事はしないと決めていました。朝8時過ぎの新幹線で東京を発ち、会場に到着したのは10時半頃。序二段の取り組みも見たかったのですが、混み合う前に食堂「ORYMPIA」へ向かうことに。

今年の春、相撲漫画『好角家 愛敬紗英 今日の一番』(コミック アース・スター)を描いている、漫画家の林ふみの先生を取材したことがあります。愛知県在住の林先生からは、「名古屋場所の会場内の食堂は、力士も使うんですよ。普通に力士がごはんを食べていて、お客さんと会話していることもあります」と伺っていたので、その現場を見てみたかったのです。もちろん、18時までの観戦に向けて、名古屋グルメで腹ごしらえもしたくて。

入り口を過ぎたところにある足場。この上にマス席などがある。

入り口で親方にチケットをもぎってもらい、東の方角へ進んでいくと、鉄骨で組まれた足場が見えます。「←レストラン」の張り紙があり、そこを進んでいくのが正しいはずですが、本当にこの足場の下を歩いていっていいものか、不安にさせる雰囲気がありました。「入ってきちゃだめです」と言われないか、心配になりながらも歩いていきます。

力士たちの間をすり抜けた先に食堂が

足場の隙間から土俵や溜(たまり)席、マス席に座るお客の姿がちらちらと見えます。さらにしばらく歩くと、取り組み前に控える序二段の力士たちと遭遇。5〜6人が並んでいます。取り組みの制限時間は幕内で4分、十両で3分、幕下以下は2分以内と定められています。序二段の位となると、一つひとつの取り組みが素早く終わるということ。そのため、けっこうな人数の力士が自分の出番よりもかなり前からスタンバイしているようです。

絶対にそんなことはしませんが、まさに手を伸ばせばタッチできる距離。本当に力士たちのすぐそばを通るというか、脇をすり抜けるといった感じなのです。たとえば「身長190cm、体重150kg」のような、現実世界ではなかなか出会わない分厚い巨体を間近で目にして、よくぞここまで体を大きくされている……さすがお相撲さん……と感動しながら通り過ぎました。

自身の取り組み前に控えている力士。これから花道を歩いていく。

足場の下を抜けた先に、件の食堂「ORYMPIA」はあります。決して広くはなく、席数は100〜150席程度。そのなかに、お相撲さんが……やっぱりいました。取り組みを終えた後なのか、あるいは幕下以下の力士で取り組みがない日なのか、ゆったりと過ごしていて、みそかつ定食ときしめんを食していました。一般人であれば組み合わせないセット。やっぱりお相撲さんだと、大食感っぷりに顔がほころびます。

数時間後にスイーツを食べるため、再び食堂を訪れたところ、若い力士が3人かたまって、飲み物を飲みながら皆スマホに目を落としていました。手にしたソフトクリームが異様に小さく見える巨体な力士に、「かわいい!」と言いながら近寄っていくファン、静かにひとり食事をとる力士……お客さんと力士がふれあう光景がそこかしこで見られました。

好きな力士の四股名で声援を送る喜び

やはり注文が多く入っていた、人気の名古屋メシ・みそかつ定食。

話を戻します。せっかく名古屋に来たのだからと、みそかつ定食(1000円、税込)をオーダー。申し訳程度に添えられた漬物から哀愁が漂うものの、外はサクサク、中はジューシーな肉とこってりした濃厚なソースが絡み、これにして良かったと思いました。

会場でもらえる取組表と毎年発売される力士名鑑、双眼鏡、ボールペンは、相撲観戦の必需品。

お腹が満たされた後は、いよいよ観戦開始。今回座るのは東12列のひとりマス席。マス席という構造はどこの席にいようと、視界を遮られることなく、土俵の上を眺めることができます。とはいえ、土俵上の力士と私との間には、最前列となる土俵際の溜席から数えると16人ほどの間があって、力士は小人のように見えます。この距離だと双眼鏡は欠かせません。力士の動きだけ見るぶんには、双眼鏡は不要ですが、取組中の力士の表情や筋肉の付き方、肌の美しさやハリなどを細かく見たいときには、あったほうがいい。2000円くらいで買ったものですが、十分すぎる活躍をしてくれるアイテムです。

三段目以降の取り組みは、推し力士たちがたくさん出るので、なるべく長く見ます。その間、腹から声を出すようにして、力士の名前を呼びます。普段、敬意を込めて幕下以下の力士には「さん」付け、十両以上の力士には「関」を付けて呼んでいますが、声援を送るときばかりは四股名で呼び捨てをします。それが力士のもとへ届いているはずだと信じて、四股名を大声で叫ぶのは気持ちいいし、何より傍で応援できている喜びがあるのです。だから、好きな力士の名前は必ず呼ぶことにしています。

尻が痛いから、館内を歩き回らざるを得ない

1時間弱見た後、「休憩」と称して館内をぶらつくことにしました。座布団が用意されているとはいえ、和式の座り方をしていると、尻と腰が痛くてどうしても立ち上がりたくなるのです。

名古屋場所のドルフィンズアリーナにも売店は複数ありますが、品揃えが充実しているのはやはり両国国技館です。新聞社が売っている人気幕内力士らのブロマイドも、残念ながら名古屋では販売されていません……。写真を集めたい者としては非常に残念。代わりに豆うちわを購入。こちらも描かれている力士が限られていて、売られていたのは御嶽海関や遠藤関ら、数種類のみ。

3階を歩いていると、無料の記念撮影コーナーを発見しました。長蛇の列を作っているのが見事に女性ばかり。横綱稀勢の里関や遠藤関、千代丸関など人気力士がフレームになったプリクラ風の写真機で、私も例に漏れず並んでみます。

遠藤関のフレームでプリクラ風の写真を撮影。

合間に元横綱朝青龍関の甥で、三段目42枚目の豊昇龍さん(19歳)の取り組みを双眼鏡で眺めます。首投げを決めて、会場は沸きに沸きました。正直、三段目の取り組みもじっと座って、取組表や名鑑を見ながら観戦したいのですが、実際ずっと座っているのは尻や腰がしんどく、こうして適度に息抜きをする時間も必要なのです。

ひとりマス席だからこそ生まれる出会い

席に戻ると、隣席に私の母親くらいの年代であろう女性が座っていました。しばらくすると、「おねえさんは、誰が好きなの?」と地元の言葉で話しかけてきてくれたので、「幕内だと新入幕した琴恵光関、竜電関、玉鷲関、輝関、幕下だと安芸の花さん、琴鎌谷さん、三段目だと陽翔山さん、塚原さん、福ノ富士さんあたりが好きです。郷土力士の西大司さんも応援しています」と答えました。

美男子ばかり挙げる、ミーハーなヤツだなと思われたかもしれません。こちらからも質問を返すと、女性は魁聖関や逸ノ城関、宝富士関などを応援していて、中でも最も好きなのは嘉風関だとか。

「私もね、お相撲を見るようになったのは、2年くらい前でけっこう最近なの。入院していたときに本場所開催中で、ちょうど同室に相撲好きな人がいてね、解説してくれてすっかり好きになっちゃって。嘉風の、前に出る相撲、正々堂々と勝負する相撲を見て、生きる元気をもらってるの。今場所はちょっと元気がないから、がんばってほしいね」

今場所不調だった嘉風関を推す女性ファンが手作りしたうちわ。

目をキラキラさせて、とても嬉しそうに話します。前夜に作ってきたという、ピンクに白地のオリジナル・嘉風関うちわは、愛であふれていました。その後もちょうどいいバランスで言葉を交わしたり、真剣に見たり、ときにお互いの荷物番をしたりと、気楽な交流が続いたのでした。

ひとりでふらっと相撲を見にいって、ひとりマス席に座ると、こんなに心地よい出会いもあります。だから、ひとり観戦はやめられません。

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