「働かざる者」がいるからホッとできる…新聞社を描いた注目マンガの作者に聞く

(C)サレンダー橋本/小学館クリエイティブ

会社に巣喰う働かない人びとを描いたマンガ『働かざる者たち』。新聞社に入社して2年目の主人公・橋田は、仕事をサボることに情熱を注ぐ先輩と出会い、「自分もいずれそうなるのか?」と不安を抱き、葛藤します。

舞台が新聞社であることや、その内部の描写が生々しいことから、ネットで公開されるとジャーナリストをはじめとするメディア関係者のあいだで話題になりました。

作者はサレンダー橋本さん。会社員として働きながらマンガを描き続ける「兼業漫画家」です。8月27日に『働かざる者たち』の単行本が発売されるのを前に、サレンダー橋本さんに会って、話を聞きました。

サレンダー橋本さんは、会社に「働かざる者」がいることで、他の人は自分が最下位になることをまぬがれることができ、「ホッとする」のだと語ります。

【中身をチラ見】新聞社を描いたマンガ『働かざる者たち』第1話の冒頭

社会人になって「石をひっくり返して裏をのぞき見た」

ーー会社のなかの「働かざる者」に注目したのは、なぜですか?

サレンダー橋本(以下、橋本):自分が社会に出たとき、「同じ給料をもらうなら働かないほうが効率がいい」と思ってるような人がいるのを知って、カルチャーショックだったのが最初です。土日に出社しているとき、競馬が始まる時間になると「タバコ吸ってくる」って、いなくなるとか。

あと、他の漫画で描きましたが、ビジネスホテルで「クオカード付きプラン」のあるところがあるんです。そんなとき、会社には出張の宿泊代1万円で経費精算するんですが、泊まると1000円とか2000円のクオカードがもらえるので、その分、得をする。なかには「5000円のカードがもらえるプラン」の宿だけをリストアップしているおじさんがいて、みんなその人に聞きにくるんですよ。「この地域にいい宿ない?」って。

ーーそういう人たちに、嫌悪感はありますか?

橋本:経営者として見たら、絶対ダメですよね。でも、なんか人間味があっていいなと安心する一面もありました。3泊して1万5000円。それをもらうために必死でセコいことをやってるってんだなっていうところに哀愁が漂うというか、ブルースですよね。サラリーマンって、バリバリ働く人だけだと思ってたんですけど、いろんな人がいるんだなって。石をひっくり返して、その裏を覗き見たみたいな感じです。

(C)サレンダー橋本/小学館クリエイティブ

ーー漫画『働かざる者たち』の舞台が新聞社なのは、なぜでしょう。

橋本:働かない人を描こうと思ったとき、言っちゃ悪いですが、斜陽な業界のほうが「働かない人がいる」ことが際立つかなと考えました。あと、知人に新聞社で働いている人間がいたので、取材がしやすいのでいいかなと。

ーーちなみに、モデルは朝日新聞社ですか?

橋本:そこは「取材源の秘匿(ひとく)」でお願いします(笑)。でも「毎日新聞を描いていると聞いた」という人がいたり「日経新聞のことだ」という人がいたりで、新聞社って、結局どこも一緒なんだなとは思いますね。

ーー「新聞社ならでは」と思ったのは、どういうところですか。

橋本:職種がいっぱいあって、組織がピラミッド構造になっているところですね。新聞は夜作られるので、大変だなって話を聞いて思いましたけどね。特殊な世界ですよね。

ーー会社にいる「働かざる者」をどう考えていますか?

橋本:会社にいるのが優秀な人ばかりだと、自分が最下位になっちゃう可能性がある。でも、ダメだけど愛嬌のある人がひとりいると、みんなでその人を叩きはするんですけど、どこかでほっとしているところがあると思うんです。少なくともブービー(最下位から2番目)でいられるから。余裕のある会社ならではなのかもしれませんが、そういう人の役割ってのもあるんじゃないかというのが、なんとなく考えていることです。

一流の世界でしのぎを削ってる人にとっては「そんな奴いらねーよ」って感じでしょうけど、大多数は普通で弱い人。自分がビリになったり集団のなかで最下位になることをすごく恐れているじゃないですか。営業とか成績がわかりやすい世界では特に。だから、「働かざる者」にも、いる意味はあるかもしれないなと。

(C)サレンダー橋本/小学館クリエイティブ

「仕事がつまらなくて“なんかやらなきゃ”と、ギャグ漫画家に」

ーー橋本さん自身、会社員でもありますが、1日をどのようにすごしているのですか?

橋本:会社は基本的にカレンダー通りで、10時~18時。残業はあったりなかったりです。やっぱりはずせない行事があって。歓迎会とか送別会とかですね。お世話になった人の会だと出なきゃならないから、そこが締め切りとかぶると、お酒を控えて、2次会までのあいだにスッと帰ったりとか。そういうことをしなきゃならないんです。

ーー漫画を描き始めたのは、なぜですか?

橋本:それもよくわからないんですが、25歳のとき、「そろそろなんかやらなきゃな」って思って、ネットに4コマ漫画をアップし始めたのがきっかけなんで。いま思うと仕事がつまらなかったんでしょうね。自分のなかであまりピンときてなくて、「これを40年やっていくのか……」っていう風に思ったのかも。

ーー会社員と漫画家、どっちが楽しいですか?

橋本:難しいですね。両方やってていいなって思うのは、漫画が受けないときもあって、そういうときは「いやこれは本業じゃないから」「自分は会社員だから」って気持ちで自分を支えている。逆に仕事がうまくいかないときは「いや、漫画家だから」って。常に自分を守り続けられるというか。

ーー『働かざる者たち』の主人公・橋田と自分が重なるところはありますか?

橋本:特にポリシーがないところですね。哲学があるようでない。状況に合わせていろんなものをミックスしたり変えたり。都合よく採用していく。あとは、作中にもあるんですけど、都合のいいときだけダメさを笑いに変える。それで自分を肯定している、このセコさ。そこですよね。

ーー漫画を描くときは、誰に向けて描いているんですか?

橋本:それは完全に自分です。自分が読んで面白いかどうかだけで、それ以外は何もないです。

ーー対象は担当の編集者でもないんですね。

橋本:編集者でもないです。結局、普通の感性なんでしょうね。普通の人間だから、ある程度いろんな人に読んでもらえるものが描けている。そういうことなのかなって気がしています。

 

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