世界で5番目に小さな国「サンマリノ」 絶景の城塞都市だった

グアイタの塔とサンマリノの旧市街(2018年9月5日、チェスタの塔から撮影)

目の前には、圧倒的な絶景が広がっていました。高さ約200メートルの切り立った崖の上に、中世の塔がそびえ立っています。赤い屋根のきれいな街並みを城壁がぐるりと取り囲んでいます。まさに難攻不落の城塞都市。この光景を見るために、生まれて初めてヨーロッパまで来た甲斐がありました。

サンマリノ共和国とは?

サンマリノの位置(Google Mapsより)

ここは、サンマリノ共和国。国際的に認められた独立国としては、世界で5番目に小さな国です。面積は約61平方キロと、東京都世田谷区と同じくらい。人口は3万3000人ほどです。周囲はイタリアに取り囲まれており、いわばイタリアの地方都市が独立したようなものですが、その歴史は1700年近くもあると言われています。

4世紀初頭、ローマ皇帝のキリスト教徒迫害から逃れたマリーノという石工が、海抜700メートルのティターノ山にたてこもり、付近の羊飼いや農夫にキリスト教を説いて信徒の共同体を形成しました。建国の父であるマリーノは、やがて「聖マリーノ(サンマリノ)」と称えられ、共同体は「サンマリノ共和国」と名乗るようになりました。これが建国の伝説です。

サンマリノを守る3つの塔。左からグアイタ、チェスタ、モンターレ

近隣の都市国家の襲撃から防衛するために、サンマリノの町は要塞化しました。10世紀から14世紀にかけてティターノ山頂にはグアイタ、チェスタ、モンターレの3つの塔が築かれました。サンマリノの国旗にも3つの塔が描かれていて、国のシンボルになっています。

グアイタの塔に掲げられたサンマリノ共和国の国旗

難攻不落と謳われた城塞のおかげで、サンマリノの町は独立を守り抜き、逆にふもとの町まで領土を広げました。19世紀半ばには、イタリア統一の立役者となったジュゼッペ・ガリバルディを一時かくまった功績から、イタリアと友好条約を結んで、現在に至っています。

直行便なし、日本からは不便なアクセス

夏休みを利用したひとり旅だったのですが、ここに来るまでは大変でした。この国には、日本から直行便が出ていないからです。サンマリノには国際空港もなければ、鉄道すら通っていません。では、どうやって来たか。

僕の場合は、こうです。成田空港からアムステルダムのスキポール空港で乗り継ぎ、イタリアのボローニャ空港まで約18時間かけて到着。ボローニャで一泊後、アドリア海に面した町・リミニまで特急列車で約50分。リミニの駅前から、サンマリノ行きの直通バスに50分ほど乗ります。

イタリアからサンマリノへの入国は、スムーズでした。国境で一瞬バスが止まっただけで、乗客がパスポートの提示を求められることもなく、入国できました。山頂の城の方に向かって、いろは坂のようにクネクネとした坂を登っていくと、ようやくサンマリノの町に到着しました。

バス停から少し歩くと、中世のような街並みが見えてきます。城壁に囲まれたサンマリノの旧市街です。2008年には「サンマリノの歴史地区とティターノ山」として、世界遺産に指定されています。

国全体が免税店

サンマリノの旧市街

旧市街は、石畳の狭い坂道が、迷路のように入り組んでいました。石造りの古風な家が建ち並び、とても風情があります。ただ、びっくりしたことに、そのほとんどが時計・バッグ・衣料品などのブランドショップか、人形や模造刀などの土産物屋なのです。

それには理由がありました。サンマリノ共和国は、消費税がないからです。周囲を取り囲むイタリアでは、製品の種類によって4〜22%の消費税がかけられていますが、サンマリノ共和国で買えば税金がかかりません。いわば、国全体が免税店というわけ。しかも、通貨はユーロでイタリアと同じです。

こうした事情もあって、年間約300万人の外国人観光客が、サンマリノ共和国を訪れますが、その大半はイタリア人だそうです(1985年のデータだと総計280万人のうち80%がイタリア人)。僕も数人の観光客に話しかけましたが、ほぼイタリア人でした。彼らにしてみれば、国内観光に来たようなものでしょう。

ある時計店では、ブランド物の腕時計の横に「TAX-FREE」と大きく書いてありました。もともと消費税0%なのに、わざわざアピールしているのです。日本で言えば熱海市全体が免税特区になった上で独立国家になっているようなもの。なんとも微妙な印象を受けたのでした。

サンマリノ旧市街にあった時計店のショーウィンドー

そして城塞へ

しかし、今回の目的はサンマリノの城を訪問することです。気を取り直して、「第一の砦」グアイタを目指します。旧市街のもっとも高い場所にあるこの塔は、すぐ近くにあるように見えますが、まっすぐ向かうルートはありません。急坂すぎるからです。

街中の狭い道を15分ほど右左に折れ曲がりながら登っていくと、勇壮な塔が迫ってきました。この日はカラっとした青空が広がり、グアイタの塔の渋い姿がより一層際立ちました。

近くから見たグアイタの塔

塔のうち、グアイタとチェスタは有料なので、合わせて5ユーロ(約650円)の入場料を払ってチケットを購入します。

グアイタの塔はサンマリノの城塞でもっとも有名ですが、実はいつ築かれたのかは、はっきり分かっていません。1371年にローマ教会のアングリコ枢機卿が「大きな丘の上に3つの要塞が立っている」と書き残していることから、建設開始は10世紀ではないかと考えられています。何度か修復された後、1960年代までは監獄として使われていたそうです。

グアイタの塔の内部

高さ200メートルの崖っぷちにあるグアイタの塔ですが、しっかりとした造りで怖くはなかったです。塔の内部は5階建てで、狭い部屋があるだけです。2階の入口から入って3階に上がるときは、ほぼハシゴのような直立した階段を上るので、頭をぶつけないように注意が必要でした。小さい窓からサンマリノの国土が一望できました。

普通に考えてみて、こんな急な崖を敵がよじ登ってくることはありません。眺望の良さを利用して、迫り来る敵をいち早く見つけるための監視の砦だったと考える方が良さそうです。

グアイタの塔の隣にある展望台から風景を眺める人々

さて、このグアイタの塔の最も美しい姿は、この塔自身から見ることはできません。20分ほど歩いた先にあるチェスタの塔から、抜群のロケーションで撮影することができます。

崖っぷちにそびえるグアイタの塔と、サンマリノ旧市街。中世ヨーロッパにタイムスリップしたようです。数年前に、コンビニで買った『世界の美しいお城』(学研パブリッシング)で写真を見て、生きている間に一度はサンマリノを訪れたいと思っていたけれど、ついに念願をかなえることができました。

約20キロ先にあるアドリア海は、おぼろげに海岸線が見える程度。でも、海の方向から気持ちの良い風が吹いてきて、汗だくになった体を冷やしてくれるのを感じました。

グアイタの塔とサンマリノの旧市街(チェスタの塔から撮影)

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