「朝読んで元気になる作品を書きたい」 漫画家ふじもとゆうきさんの思い

冬太郎を抱く千波、そばに立つ壱星と宝

現在第1巻が発売中のコミック『シェアハウス金平糖北千住』(白泉社)は、題名の通り「シェアハウス」を題材とした漫画です。これだけだとよくある話のようですが、変わっているのはシェアハウスの一員になる条件。それは「赤ちゃんをみんなで育てる」ことです。

島育ちで、高校進学を機に東京に出てきた主人公・千波は、その条件に驚きつつも、住人であるアイドルの卵・壱星や宝、小説家でもある大家の仁平さんとともに、育児や日常の生活に奮闘をつづけます。

作者のふじもとゆうきさんはこれまで、『となりのメガネ君。』『キラメキ☆銀河町商店街』など、幼なじみ同士の友情や恋愛をテーマにした作品を執筆してきました。ゼロから人間関係をスタートさせる物語ははじめてと言います。そんなふじもとさんに、これまでと違ったテーマにした理由や今後の展望などについて聞きました。

「ゼロからの人間関係」への挑戦

初期設定でのキャラクター表

――構想のきっかけから教えていただけますか。

ふじもと:「共同生活を題材にしたい」と思ったことがスタートですね。アパートや寮での、さまざまな人たちの共同生活を題材とした少女漫画は多く、私自身も子どものころから親しんできました。漫画家になってからも、いつかアパートものを描きたいと思っていて。そこで、『ただいまのうた』(『花とゆめ』2009~2014年連載)の終了後、担当編集の方に相談してみたんです。そうしたら、「今の時代ではシェアハウスがいい」と言われて。そこから具体的に、作品の内容を詰めていきました。

――住人みんなで赤ちゃんを育てるというアイディアは、どこから来たのでしょうか。

ふじもと:ちょうど、娘を出産したころでしたので、「赤ちゃんを入れましょう」という提案が担当編集者の方からあったんです。私自身も、親となった今なら、赤ちゃんが描ける気がすると思って。赤ちゃんの冬太郎に、娘を反映している点はあります。たとえば冬太郎はおじぎが深くて、頭が床につきそうになるんですけど、娘にも同じ傾向がありました。夫が読んだときに、「まんまうちの子じゃないか」と言っていたりもして(笑)

――各キャラクターの造形は、どのように考えられたのですか。

ふじもと:主人公の千波は、まず髪型から入った感じですね。ベリーショートの女の子を主人公として描きたいという思いがあって。冬太郎は最初目がぱっちりした赤ちゃんで、髪も普通だったんですけど、細目で天然パーマのような形にしたのは、“キャラ立ち”を意識したことが大きいですね。

大家の仁平さんは、着物にビン底メガネでいかにも小説家なイメージ。アイドルの壱星と宝は、双方のバランスを考えました。髪の色や目の形もそうですし、性格的にも、自己主張が強い壱星とは対照的に、宝はふんわりとした感じの、優し気なイケメンにしようとか。シェアハウスが持つ多様性を考えるうえで、各人物の年齢のバラエティにも配慮はしています。

――ふじもと先生は、幼なじみの男女の友情や恋愛をテーマにした作品が多いですが、本作はこれまでの環境を離れ、新しい人間関係を築こうとする女の子が主人公ですね。

ふじもと:意図的にテーマは変えました。これまでの私の作品は、ずっと幼なじみの男の子と女の子や、家族を中心としたストーリーだったので、“昔からの絆”をいちど封印しようと思って。幼なじみが中心の話だと、過去のエピソードとかも後から出したりできますし、書きやすいんですけど、ゼロからの人間関係のスタートを、いちど書いてみたいと思ったんです。

朝に読んで「今日も頑張ろう」と思える漫画を

ふじもとゆうきさんの仕事部屋

――ここからは、普段のお仕事のスタイルについてお伺いしたいと思います。一日の内で、執筆をする時間や執筆場所などは決まっていますか。

ふじもと:娘がいるので、保育園に預けている時間ですね。9時から17時ですけど、家事などもありますので、7時間執筆できれば理想的です。場所は自宅の仕事部屋でやるのが基本ですけど、ネームの段階では、家だと意識がいろんなところに行ってしまうので、近隣のカフェに行ったりします。今の家に引っ越す前は、ミスド(ミスタードーナツ)が仕事場でした。何時間いるんだよというくらいにミスドに張りついて、カフェオレをおかわりしまくってましたね(笑)あ、混んできたら退散しますよ!

――ずっと「ひとり」で作品に向き合わなければならないぶん、どうしても気乗りしないときや、スランプの時もあるかと思います。そのような時はどうしていますか。

ふじもと:朝ドラを見ると、調子が良くなることは多いです。今日も頑張ろうと、前向きになれる作品づくりを目指しているので、「そう!こんな感じ」と雑念を払ってくれるというか。朝に読んでから学校に行きたいと思えるような漫画を描きたいという思いがずっとあって。私自身は中学生の時、漫画を読んでから学校に行くのが好きだったんですよ。中学のころ、やまざき貴子さんの『っポイ!』や、猫山宮緒さんの『今日もみんな元気です』など、「花とゆめ」系列のさまざまな漫画に元気づけられてきました。私の作品はすべて「花とゆめ」系列の雑誌に掲載されていますけど、中学時代がきっかけで、いつかは「花とゆめ」に描きたいと思うようになったんです。

――少し抽象的な質問になるのですが、ご自身の漫画家としての矜持(きょうじ)をお伺いできますか。

ふじもと:今の話とも関連しますけど、朝、学校や会社に行く前に読んで、元気になるものを書きたいとはずっと思っています。『ただいまのうた』を描いたころ、プライベートでいろいろとあって、すごく打ちのめされたときがあって。誰でもいいから優しくしてほしいと思った時に、フラフラとコンビニに入ったんです。店員さんが良いことを言ってくれたというわけではなく、普通にレジ打ちをして、「温めますか?」と言われただけだったんですけど、物腰や言葉づかいが、すごく優しい感じで癒されたんですよね。

店員さんはきっといつも通り接客をしていて、私が勝手に感じた優しさであって、自分の心の状態に左右されたのだとは思うんですけど、あの店員さんみたいな役割が漫画でできたらいいなと。「優しくされたいときに、ページを開いてもらえる漫画」を描けたらいいなと思っています。

――漫画家人生のなかで一番嬉しかったこと、辛かったことは何ですか。

ふじもと:読者の方にサイン会でお会いしたり、お手紙をいただいたときは嬉しかったですね。自分の書いたものを読んでくれる人がいるんだとわかる。自分の漫画の発売日に書店に行っても、自分の本を手に取ってもらう瞬間を目にすることなんて、1回あったかなかったかくらいでしたので(笑)

また、Twitterをやっているんですけど、『銀河町』(ふじもとさんの作品に出てくる架空の町)の絵を描いてアップした時に、「中学の時の私の青春でした」とか、「学校で友達と感想を話しました」などのリプライをもらったりして、主人公と同じ世代の人が楽しんでくれていたことは励みになります。将来の夢を書いてくれる人もいます。漫画のキャラが頑張っているのを見て、自分も夢に向かって頑張ろうと思った、と言ってくださって。書いたものがひとの人生に少しでも関われたことがわかるときは、やっぱり幸せを感じます。

「シェアハウス金平糖北千住」の住人たち

――これから描いてみたいのはどんな作品ですか。

ふじもと:部活ものに興味があります。私は中学・高校と演劇部だったんですけど、その頃は部活のために学校に行っていたようなものでした。年に5回ほど公演があって、そのために毎日練習して。幕が上がる前の緊張感とか、終わった後の爽快感とか寂しさとか。鮮明に覚えています。

先輩や後輩、仲間と部活後にジュースを飲んでいろんなことを話したり、牛丼を食べたり、ラーメンを食べたり(笑)かっこいい先輩にときめいたり。何気ない日常もやっぱり大切な思い出ですね。男子シンクロを題材としたドラマ『WATER BOYS』(フジテレビ系)がすごく好きで、あのようなテイストの作品が憧れです。日常の描写も大切にしつつ、部員たちが大きな舞台のために尽力する話をやりたいと思っています。

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