体は女だけど、心は男――明るい”オニイタレント”が語る「自分らしく生きること」

「オニイタレント」のハル

体は女だけど、心は男。「男か女かどっちなの?」ってたまに聞かれることがあります。自分はそれを、人と違う個性だと思っていますーー。

「女性の自由と孤独」をテーマに、女装する小説家・仙田学がさまざまな女性にインタビューする本連載。今回は、生まれ持った女性としての体のままで、男性として生きていくことを選んだ「オニイタレント」のハル(29)に話を聞いた。

「自分が何者なのか、わからなかった」

自分は人と違う、と感じるようになったのは、小学校6年生の頃だとハルは言う。

「初めて人を好きになったんですけど、その相手が女性だったんです。担任の先生で、すごい美人で人気者でした。自分は女性だけど、女性に興味がある、人と違うんだって気がついたのはその頃です。女友達が集まって『あの人かっこいい』とか噂していても、どう反応すればいいのかわからなくて、ひとりで悩んでました。『あんたはどうなの?』って聞かれると、冗談ぽく『男でも女でもどっちでもいけるよ』って濁したり」

当時はLGBTという言葉もまだ一般に知られておらず、ハルは自分がどうして人と違うのか、つまり自分が何者なのかがわからなかった。

「枠から外れるといじめられると思ってましたから、隠すしかなかったです。いじめられたくないから本当のことを言えない。いつも嘘をついていないといけない。それが苦しかったですね。他にも好きになった女性は何人かいましたけど、本当のことは言えませんでした。好きな気持ちは、自分のなかで終わらせてきました」

自分は人と違う、という違和感を抱えたまま、ハルは子どもの頃から憧れていた芸能界に足を踏み入れる。地元の沖縄を離れ、各地を転々とした後に、24歳からは東京で「男装タレント」として活動を始めた。だが違和感は消えなかった。

「カミングアウト」を受け入れてくれた母と友

26歳の頃、ハルは不意に思い立って大阪に引っ越した。直感的に「大阪で暮らしたい」と思ったのだという。

「母に打ち明けたのは、その頃です。これで最後になるかもしれないと覚悟しました。『お前なんていらない』って言われるかもしれない、と。でも母は、『いいと思うよ、そんなことであんたのこと嫌うわけない、自慢の子どもなんだから』って。親に認められたことで、変われた気がします。どんなことがあっても、親がいるから大丈夫だって」

「あなたは人と違う個性を持ってる。それを活かしなさい。一度きりの人生、どうせなら明るく生きなさい」。母親はそう言って、ハルを受け入れた。

「まわりの人たちにも同じ頃に打ち明けたんです。離れていく友達もいたし、『これからも友達でいるよ』って連絡をくれた人もいました。意外と受け入れてくれる人が多くてびっくりしました。逆に『なんでいままで隠してたの』って、怒ってくれる人もいたり」

母親とまわりの人たちに受け入れられたことが自信になり、ハルは「男装タレント」としてではなく、オネエタレントならぬ「オニイタレント」として芸能活動を続けていくことにする。

他にはいないキャラクターのタレントとして、興味を持たれることが増えた。ハル自身も自分らしいところを表に出せるので、以前のような違和感を抱かなくなった。ありのままの自分を受け入れてくれた家族や友人のためにも、自分らしく生きることを何よりも大切にしているハルは、性別適合手術をするつもりはない。

「体は女だけど、心は男。それが自分なんです。だから手術はする必要がない。いま手術すれば、男として見てほしいからすることになってしまう。人の目を気にして生きるなんて、つまらないじゃないですか。人にどう見られようが、これが自分の個性なんです。オニイタレントとして興味を持ってもらえたり、覚えてもらえたり、得してるなと思うときもあります」

「同じような悩みを抱えている人たちに勇気を与えたい」

一貫してハルの声は明るく、迷いがない。「人と違う」ということをこれほど前向きに強く捉えられるのはどうしてなのだろう。

「母が超ポジティブな人だからかもしれないです。『あんたは人より強い個性をもってるんだから、そのぶん明るく楽しく生きたほうがいい』って、いつも言われます。自分の人生なんだし、やりたいことをやって楽しく生きたいって、自分でも思いますし。自分の人生を他人のせいにしたくないんです。自分みたいな人の中には、まわりに受け入れてもらえない人もいるかもしれないけど、それはたまたま、まわりに理解者がいなかっただけで、受け入れてくれる人はどこかに絶対いると思います」

家族やまわりの人々に受け入れられることで、ハルは「人と違う自分」を肯定することができた。オニイタレントとして、今度は同じように悩んでいる人々に勇気を与えられる存在になりたいと言う。

「オネエタレントって言われる人たちが出てきて、生きやすくなった人はたくさんいると思うんです。だったら、その逆のオニイタレントがいてもいいんじゃないかって。種類が増えれば、それだけ救われる人も増えますしね。オニイタレントには、そういう役割があると思うんです」

「オニイタレント・ちくし春」として、ハルは司会や舞台の仕事をしたり、オーディションを受けたりする日々を送っている。芸名の「春」は本名から一文字をとったもので、「ちくし」は、父親が最初にハルにつけようと考えたが、やめた名前だという。

【連載】女性の自由と孤独

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