太ったオッサンが「堕天使」になって自分を展示してみた~元たま・石川浩司の「初めての体験」

(イラスト・古本有美)

以前このコラムに書いたが、妻と一緒に「ニヒル牛」というレンタルショーケースのお店をやっている。いまは西荻窪にある1店のみだが、実は以前、2号店があった。10年ほど経営したが、戦前からあった木造のボロボロの建物だったため、残念ながら老朽化で解体されてしまい、いまはもうない。

押し入れを展示スペースに

古い木造長屋を3部屋つなげたような造りで、壁を取っ払って「ニヒル牛」の店舗にしていた。部屋の中には押し入れスペースがあり、そこを月替わりの展示会場として、奇妙な企画展やいろんな作家の個人展などを開催していた。

そんなある日、「ニヒル牛」のオーナーである妻から声がかかった。

「ダンナも何かやりなよ」

ちなみにこの「ダンナ」というニックネームは旦那様という意味ではない。僕の20代の頃からのあだ名だ。当時は友達から「ダンナ」と呼ばれていた。つまり結婚する前から、当時は彼女だった妻やその母親から「ダンナ」と呼ばれていたのだ。

話を戻すが、妻から「何か展示しろ」と言われたものの、僕は昔から手先が不器用。とても作品を作る腕はなかった。

小学校の工作で、軽石に彫刻刀で自分の顔を彫る授業があった。僕は石を彫ろうとしているのだが、なぜか自分の左手を彫ってしまった。血だらけになって保健室に運ばれ、「いっ、石川くんはもう何もしなくてもいいから」と授業を受けることすら拒否された。

また、家庭科の時間で雑巾を縫う実習があったが、1時間かかっても針に糸すら通せず、雑巾にする布を触ることさえなかったほどの、ウルトラ不器用だったのだ。なので当然個展といっても作品など作れない。

天使となった自分を展示!?

そこで僕が考えたのは、「自分を展示する」ということだった。

しかしこの「自分展示」は、ちょっと実験的なことをしたい美術系の学生によって散々手垢のついた手法であることも分かっていた。そこでさらに考えた。

まず、この太ったオッサンである自分から一番遠いものは何か。それは天使。どう考えても天使の要素がない僕だからこそ、逆に天使になってみようと思ったのだ。

しかしキラキラの優しい天使になるにはあまりにも無理がある。そこでグータラな堕天使になることにした。

天使の衣装は安いシーツを使い、背中の羽根は100円ショップで買った靴の中敷を使った。頭上の輪っかは作るのが面倒だったので、「輪っかをなくした天使のおっさんのひるね屋」という名前の展示をすることにしたのだ。

グータラな天使の格好をして、押入れでお客さんに尻を向けて昼寝をしている僕。お客さんの注文で叩き起こされると、短冊に書かれたパフォーマンスメニューを渋々やる。そういった趣向の展示だった。

パフォーマンスは金額ごとにさまざまあった。メニューの一例を紹介したい。

(1)100円のメニュー

頭触り(僕の坊主頭を触れる。家内安全・合格祈願に効くと言われている)
腹触り(僕の太鼓腹を触れる。安産・結婚・出会い祈願に効くと言われている)
ハグ(ソフト・ハードも希望によって)
小鳥鳴き声(ピーチクさえずる)
小猫鳴き声(かわいい鳴き声から喧嘩まで)
豚鳴き声(鼻を激しくフゴフゴ鳴らす)
腕おなら(腕に口をつけてリズムに合わせて鳴らす。腕が唾でビショビショに)
いびき(ゴーカイにかく)
女性ほほキッス(男性ほほキッスは嫌なので500円)

(2)300円のメニュー

へなちょこ笑い(もんどり打って奇声を発しながら大声で笑い転げる)
お姫様だっこ
(体重100キロはさすがに無理だった)
咳き込み
(激しく咳き込んで苦しみ悶える)
あえぎ声(隣に聞こえたら絶対に勘違いされる本物感)
おやじギャグ
(その場でとにかくダジャレを連発)
尻相撲
(お尻をくっつけて倒した方が勝ち)
しっぺ
(天使の腕にシッペができる)
痴漢
(天使の尻を思う存分、なでまわせる)
腹踊り
(腹にマジックで顔を描いてもらい踊りまくる)
あなたの好きな言葉を耳元で囁く
(低音の魅力・卑猥な言葉も可)

お姫様だっこをする筆者

(3)500円のメニュー

へなちょこ踊り(店内をまわって激しいへなちょこ踊りをする)
(その場で思いついた嘘をさも本当のように5分ほど話す)
駄々っ子降臨(ものすごい駄々っ子になって真剣にわめき散らす)
愚痴老人降臨(老人になりきって愚痴を延々とつぶやく)
田中角栄降臨 (注文した人の出身地などを含めた日本改造論を即興で話す)
生「着いた~!」 (「さよなら人類」をお客さんに歌ってもらい、十八番の「着いた~!」の合いの手を入れる)

(4)800円のメニュー

お告げ(突然背後霊を透視し、その人が今後何をやるべきかを語る)
ニックネーム命名(顔や名前などからニックネームをつける。その後、実際に自分のニックネームにした人多し)
土下座(謝る理由をその場ででっちあげ、泣きながら床に頭をこすりつけて許しを乞う)

(5)1200円のメニュー

似顔絵(中学時代、美術の成績がクラスでただひとり「1」だった僕が、ヘタ絵の似顔絵を描く)
即興お題歌(お題をもらって、即興でギター弾き語りで歌を作って歌う)

この他に、もちろん自分の本業である持ち歌も演奏する。曲の長さにより1曲500円~1000円で歌った。

余談になるが、店舗にやって来るお客さんによると、僕の歌声やアブナイ奇声が、お店から100メートル以上離れた場所からも聞こえていたという。建物の撤去の本当の理由は老朽化ではなかったかもしれない...。

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