ネタとシャリの一体感に浸る「至福の時間」 私が通い詰める名古屋の「寿司屋」

食事はお腹を満たすだけでなく、心も満たすもの。妻や恋人、気の合う仲間との食事も楽しいが、ひとりメシもまた一興。料理と向き合い、舌と鼻、目のみならず耳、皮膚と五感をフルに使って堪能するのだ。

【連載】魅惑の名古屋グルメ

ひとりメシに向いているのは、料理人との距離が近いカウンター席がある店。例えば、寿司屋。庶民にとってハードルが高いイメージだが、それは都心にある高級店の話。飲み代込みで1万円以内の店も探せばある。今回、本当は教えたくなかったのだが、最近私が通い詰めている寿司屋を紹介しよう。

隠れ家的名店で味わう至福の料理たち

場所は名古屋駅太閤通口から徒歩3分ほど。ビジネスホテルや居酒屋が数多く建ち並ぶエリアにある『寿司と酒 十六夜(いざよい)』。1階に鉄板居酒屋が入るビル横の階段を上った3階にある。

初めて訪れたときは、本当にこんな場所にあるのかと不安になったが、わかりにくい場所でひっそりと営業しているというのも期待が膨らむ。そんなことを考えながら店まで移動するのもまた、ひとりメシの楽しみである。

出迎えてくれたのは、店長で、運営会社が手がけるグループ店全11店舗の総料理長も務めている伊藤篤幸さん。寿司屋や海鮮居酒屋で長年にわたって修業しているので、魚の目利きはかなりのもの。

カウンター席に案内されて、全9品のおまかせコース『真珠』(4980円)をオーダー。コースはほかにも『珊瑚』(全8品・2980円)と『瑠璃』(全9品・3980円)などがある。飲み物は芋焼酎「赤霧島」(グラス700円)をロックで。※価格はすべて税別。

まず、出されたのは、つまみ3品。内容は日替わりで、この日は「赤ナマコポン酢」と「真鱈の白子ポン酢」、「ワカサギの南蛮漬け」。若い頃は旨いと思わなかった、むしろ嫌いだったナマコや白子が50歳に近づいた今、とても美味しく感じる。年をとるのは嫌なものだが、味覚の幅が広がったことは素直に歓迎したいと思う。

つまみの中で美味しさのあまり思わず唸ったのが、「ワカサギの南蛮漬け」。ワカサギそのものの旨みを引き出す、合わせ酢の酸味が絶妙なのだ。これと「赤霧島」のペアリングは最高としか言いようがない。つまみ3品で1杯目を飲み干して、おかわりをいただいた。

「ワカサギは今が旬ですからね。このサイズのワカサギは2日間寝かせてから使うんです。十分に旨みが引き出されていますから美味しいですよね」と、伊藤さん。

続いて、お造り盛り合わせ。この日は、真鯛と伊勢マグロトロ、ミル貝、アルプスサーモン、シメサバ、ヤイトカツオ、ブリの7種。伊勢マグロは三重県・南伊勢町で養殖されたマグロ。アルプスサーモンも長野県で養殖されたニジマスである。

いちばん驚いたのは、マグロのトロのように脂がたっぷりのヤイトカツオ。しつこくはなく、口の中でスッと消えていく。この、上品で繊細な味わいがわかるのも年をとった、いや、オトナになった証拠だろう(笑)。

焼き物。この日は「きんきの一夜干し」。身が締まっているにもかかわらず、脂もしっかり。頬張るごとに広がる濃厚な旨みを堪能しつつ、それを「赤霧島」で洗い流す。何だか、もったいないような気持ちになるが、このループが止まらない。2杯目のグラスが空になった。

絶品の寿司を堪能

ダシがきいた茶碗蒸しをはさんで、いよいよ寿司。基本的には10貫の皿盛りとなるが、カウンター席の場合、店が混雑していなければ、1貫ずつ握ってもらうことも可能だ。今回は撮影のために皿盛りにしてもらった。

この日は、(写真左上から)伊勢マグロトロ、ヤリイカ、アルプスサーモン、ホウボウ、平目、海老、イクラ、穴子、コハダ、雲丹。もう、惚れ惚れするほど美しい。皿盛りなので、順番を気にせずに食べてもよいのだが、ここはセオリー通り、淡泊な味のものから食べることに。

ほのかに甘く、ねっとりとした食感のヤリイカを堪能した後は、私の大好物の平目。おおっ、昆布締めにしてあるではないか!昆布の味と香りがふわっと広がって、鼻から抜ける。あまりの美味しさに唸りつつ、3杯目の「赤霧島」をあおる。うん、まさに至福のひとときだ。

さらに驚いたのは、ホウボウ。これまでイタリアンのアクアパッツァや唐揚げ、煮魚で食べたことはあるが、寿司は初めてだ。ねっとりとした食感の後からくる濃厚な旨みが、口の中でほどけるシャリの旨みと一体になる。今でも思い出しただけで目尻が下がるほどだ。

ネタの質や細やかな仕事ぶりもさることながら、その旨みを引き出すシャリや醤油にもこだわっているのだろう。伊藤さんに聞いてみると、

「シャリは岐阜県産米のハツシモを使っています。粒が大きくて粘りが少ないのでシャリに向いているんですよ。短時間で手早く磨いて、昆布とともに炊き上げます。味付けは甘さ控えめにしてありますが、その分、数種類ブレンドした醤油をやや甘めにしました」

とのこと。やはり、シャリも醤油も工夫を凝らしているのだ。

ツメではなく、塩と柚子皮、ワサビでいただく穴子。絶妙な締め具合で酸味と旨みのバランスが取れたコハダ。どれも私好みの味だった。

ツウの方に叱られるのを覚悟で言う。やはり、圧巻は伊勢マグロトロだ。口の中の体温で溶けた脂が、ほどけたシャリの一粒一粒をコーティングする。それを噛むと何とも上品な甘みがふわっと広がって、スッと消えていく。

これ! これなのだ! 誰に邪魔されることなく、この極上な瞬間を独占できるのが、ひとりメシの醍醐味なのである。この後、赤だしとフルーツが出たが、寿司の余韻は残ったままだった。お腹も、心も満たされて店を後にした。

【追記】白子ポン酢の記述に誤りがありましたので、修正しました。

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