100種類以上の「パスタ」で作る幸福感いっぱいのアートがすごい!

名古屋在住の上原美紀子さん(42)の肩書きは、おそらく日本で唯一の「パスタアーティスト」。スパゲティに使うロングパスタや、ペン先のような筒状の「ペンネ」、耳たぶの形をした「オレキエッテ」など、大小さまざまなパスタを使い、アート作品を制作しています。

「イタリア」という作品。20種類以上のパスタが使われている

100種類以上のパスタが並ぶ工房は、まるでイタリアンレストラン

上原さんが営むパスタアートのアトリエ&教室「常熱工房」 を訪れると、そこは工房というより、まるでイタリアンレストラン。瓶に入ったパスタのおびただしい数に驚かされます。その数は100種類以上。この部屋から、オーダーメイドを中心に、作品が言わば「調理」されてゆくのです。

100種類以上のパスタが並ぶ工房は、イタリアンレストランかと見まがう雰囲気
色も形状が異なるペンネや、貝殻の形をしたコンキッリェなどが種類ごとに瓶詰めされている

上原さんは2007年に工房をオープン。これまで手掛けたパスタアートは約250作品。アトリエの壁には、フィレンツェの教会、ピサの斜塔、ローマの世界遺産「コロッセオ」などなど名だたる景勝地が。思わず「ブラーヴォ!」と拍手したくなるほど、見事にパスタで表現されています。

「コロッセオ」。パスタの並べ方を工夫することで、まるで奥行きがあるかのように見える

いったい、なぜパスタで造形作品を? おいしそうな創作物を生みだす上原さんに、お話をうかがいました。

恩師の言葉に励まされ「パスタアーティスト」に

――そもそも、なぜ「パスタ」でオブジェを作ろうと思ったのですか?

上原:ある飲食店が「リニューアルオープンする」というので、新たに壁に掲げる絵の制作を依頼されたんです。「飲食店に飾るんだったら、いっそ画材も食べ物にしてしまったら面白いんじゃない?」とひらめいて。それでパスタを選びました。

そうして、作りながら、「あ、これ楽しい!」って、なんだか勢いがついてしまって。それがパスタアートを始めたきっかけですね。

――さまざまな食べ物があるなかで、パスタを選んだ理由は。

上原:パスタなら、はじめから乾燥しているので、下紙に貼りやすいかなと考えたんです。

実際、とても使いやすいです。初期の作品でも、いまだにまったく腐らず、カビも生えず、「パスタってアートの素材としてぴったりだな」と思います。

――それにしても「飲食店に飾る絵だから、パスタを画材にしよう」って、大胆な発想ですね。

上原:今考えたら、そうですよね。パスタアートを作り始めた2004年の当時は、広告デザインの会社を辞めてフリーランスになったばかりの頃。「どんなご依頼でも、お引き受けしますよ」という気持ちだったんです。平面デザインに限らず、自由に、いろんなものづくりにチャレンジしてみたい時期でした。だから物怖じせずにやれたのでしょうね。

――パスタアートを、ご自身の「専門」分野にしようと思ったのは、どうしてですか。

上原:パスタがかもしだす温かみのある色合いがけっこう評判がよくて。さらに私の恩師である日本グラフィックデザイナー協会の山田正彦先生が「上ちゃん、世の中にクリエイターはたくさんいるけれど、パスタで造形をしている人なんて他にいないんだから、専門にしたほうがいいよ」とおっしゃってくださって。不安だったけれど、背中を押してもらいました。

飲食店のリニューアルオープン記念に制作を依頼されたデビュー作「収獲」(2004)
さまざまなパスタを駆使した「仏眼仏母」

名古屋の商店街は「多国籍なパスタ」が入手しやすい

――この「常熱工房」には100種類以上のパスタがストックされているそうですが、どこで買い求めているのですか。

上原:多くは名古屋の商店街とスーパーマーケットです。名古屋って、多国籍な食材を扱う輸入食料品店がとても多いんですよ。「トルコ料理専門の食材店」とか。このあいだもインドとチュニジアのパスタを購入しました。

あとは、ワークショップの生徒さんが「旅先のお土産物屋さんで、こんなパスタを見つけました」といって珍品を買ってきてくれる場合も。そのように種類がどんどん増えてきて、これ以上もう置くところがないです(苦笑)。

――パスタに関する知識は、もともとあったのですか。

上原:ちょっと、ありました。フリーターだった頃、イタリアンのお店で働いていたんです。そのお店のシェフがパスタにとても凝る方で、キッチンに初めて見る、色とりどりな珍しいパスタがたくさん置いてあったんです。「こんなに種類があるんだ!」って驚いて。その頃の記憶を頼りに買い集め始めました。

――作品はオーダーメイドが多いそうですが、お客さんからはどのような要望がありますか。

上原:多いのは、「結婚式のウェルカムボード」ですね。新郎新婦の顔や、おふたりの趣味であるバイクやギター、飼っているチワワだったり猫だったりをパスタで描きます。

あとは、ニューオープンのお祝いです。飲食店へのプレゼントがほとんどですが、なかには美容室や洋服屋さんへ贈る作品もあって、「私でいいのかな。洋服屋さんにパスタでいいのかしら」と思いながら作ってます(笑)。

もっとも多い依頼は「結婚式のウェルカムボード」。パスタがもたらす多幸感
「オートバイ」。依頼主の趣味をオーダーされることも多い

パスタの太さを変えながら遠近感を表現する

――パスタは、どうやって土台に貼り付けているのですか。

上原:接着は木工用ボンドです。パスタと木工用ボンドは相性がよくって、一度貼ると剥がれないんです。15年前の作品でも、ずっとくっついたままです。

――パスタで遠近が表現されていて、すごいです。いったいどうやって距離感を表しているのですか。

上原:たとえばロングパスタなら、太さを微妙に変えながら、まるで奥行きがあるかのように錯覚させているんです。他には「コンキリエ」という、貝殻を思わせる形のショートパスタもよく使います。これもサイズや色の濃淡を変えながら貼ることで、空間の奥深さを表現できるのです。

――なるほど。ロングパスタひとつとっても数種類を使い分けているのですね。ひとつの作品に、どれほどの種類を使っていますか。

上原:大きな作品で20~30種類かな。曲線はマカロニのカーブを利用して。色は、ほうれんそう、赤唐辛子、バジル、日本の蕎麦粉など、練りこまれた食材の発色をそのまま活かしています。なかには薔薇の花びらを練りこんだきれいなパスタもあるんですよ。

オーダーメイドの場合は必ずしもこだわりきれないですが、できる限り、パスタの形や長さ、色はそのまま加工せずに使用しています。

取材日は「雛人形」を制作中。ショートパスタをピンセットで貼りつける繊細な作業

――パスタを加工せずに使うとなると、表現に制約が生まれますね。

上原:そうなんです。作りはじめる前に一応ラフなデザイン画を描くんです。けれども、なにしろ使うのがパスタなので、思い通りにはならないですね。

でも、そこがいいんです。「あ、この部分は、ネジネジしたパスタを使ってみよう」「ここは鳥の巣のようにぐるぐる巻きのカッペリーニを使ったらどうだろう」って、作りながら考える場合も多いです。できあがりを完全には想像できないけれど、途中でひらめいたアイデアを織り込めるところが、パスタを使う面白さですね。

奥行やグラデーションもパスタそのものの色や形で表す。「思い通りにならないのが面白い」

――では、パスタアートを作る難しさは、どこにありますか。

上原:難しさというか、もっとも困るのは「製造中止」です。たとえば、以前からよく使っていた小さなハート形のショートパスタが製造をやめてしまって、それがショックで……。4つ合わせてクローバーの葉に見立てたり、小さな魚の尾にしたり、使い勝手がとてもよかったんです。業者さんに尋ねても、もう製造する予定はないらしくて。

――「パスタアートの魅力」とは、なんだと思いますか。

上原:パスタアートがあると、その空間が温かく感じられるところかな。パスタの色合いって素朴で、温かみがあるでしょう。工房名を「常熱」にしているのも、そのためなんです。テーブルに茹でたての熱いパスタがあると、ほっとするし、幸福感があるなと思って。そんなホットな雰囲気を表現したいといつも思っています。

パスタアートはやはり食卓がある部屋にマッチする

――確かに上原さんの作品を観ていると、幸福感と、心地よい空腹感をおぼえます。ご自身はパスタを食べるのは好きですか。

上原:大好きです。パスタ大好き。イタリアン大好き。実は私、結婚1年目なんです。キッチンが広くなって、パスタも以前よりも茹でやすい環境になって。これまで作品に使うだけだった珍しいパスタも、実際に食べるようになりました。夫と「なんでわざわざこんな形にしたんだろうね~」って話をしながら食べてます。パスタに触れることが最近ますます楽しくなってきて。「舌でも目でも味わえるパスタって最高だな」って思います。

――いやあ、もう、ごちそうさまです!

 

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