僕がライダースを着る理由 「コム・デ・ギャルソン」の川久保玲に憧れて

先日、TBSラジオ平日夜のニュース番組「荻上チキ Session-22」に急遽、パーソナリティとして出演した。荻上さんが急病になってしまい、代わりに番組を回す人が必要となった。そこで、以前にも代打を務めた僕に声がかかったというのが事の経緯だった。

あと数分で本番という時、一緒に番組を進行するアナウンサーの南部広美さんとこんな話をしていた。

「石戸さん、いつもライダースでこの番組に来ますよね」

「そうなんですよ。自分のユニホームというか、験担(げんかつ)ぎみたいなもんで……」

「いいですね。この人と言えば、これってイメージができますもんね」

本番前でかなり緊張していたので、うまく説明できなかったのだが、要するに人前にわざわざ出て話をするときには、可能な限り、普段通りでいないとうまく話せない。僕にとって、ライダースジャケットは平常心を保つための衣装、小道具であるというのが表向きの理由。

しかし、そこで説明できなかった大事な理由が、実はもう一つある。川久保玲の影響だ。

「ぶっ飛んだ」デザインに衝撃

もし今生きている人で誰か一人、自由にインタビューしていいと言われたら誰を選ぶか。メディア業界にいたら、誰もが一度はこんな話で盛り上がったことがあるだろう。僕の答えはファッションデザイナーの川久保玲、と決まっている。

彼女は僕にとっていつだって憧れの存在で、社会人になったときの目標は、自分で稼いだお金でコム・デ・ギャルソンの服を買うことだった。

どこが好きなのか。あえて一点だけに絞ると、強いクリエイションとビジネスを両立させたことにある。もう少し踏み込むと、新しいことに挑み続けるという「ビジネスモデル」を勝手に学んだ。

川久保はパリコレクションに衝撃を与えた、前衛的なデザインで知られるコム・デ・ギャルソンのデザイナーにして、ビジネス部門も統括する「社長」である。

1942年東京生まれ。大手繊維メーカーを経て、スタイリストとして独立後、1969年からフランス語で「少年のように」を意味するコム・デ・ギャルソンという名前で洋服を作りはじめる。

1981年にパリ進出を果たし、翌年にゆったりとしたシルエットに穴をあけた黒いニットを発表した。これが激しい批判を浴びた。

女性の身体に沿ったライン、多くの色を使う華やかな服が主流だった欧米のファッション界に対して、黒でゆったり、しかもボロボロという真逆の価値観を突きつける。いま見ても、反骨心の塊のようなコレクションだった。

ファッション史で必ず言及される「黒の衝撃」である。巻き起こった批判と美学を貫いた川久保、どちらが「新しい」ものだったかは歴史が証明した。

メンズでも常に新しいもの、既成概念にとらわれない自由な服を打ち出す。いち早くスカートを取り入れ、男と女の境界を軽々と超えるような服を発表していた。僕は高校生ながらに「ぶっ飛んでる」と思った。

ぶっ飛んだデザインで一回だけ衝撃を与えることなら、もっと多くの人にもできる。だが、それをずっと継続し、しかも売り上げを確保しながら、新しいチャレンジを続けることはどれだけの人にできるのか。

前衛と対極にあるベーシックな服も

一般的にコム・デ・ギャルソンと言えば、黒の衝撃に代表されるような前衛的で、着られるのか着られないのかわからないような服ばかりを作っているようなイメージがある。実際にそれは一方で正しい。

だが、店舗に行けばわかるように、前衛と対極にあるようなコム・デ・ギャルソン流のベーシックな服も市場に送り出している。

強い服はブランドの姿勢を示す象徴的なものと位置づけ、コンセプトを反映させた手に取りやすいものも同時に店頭に並べる。基本を大事にしているからこそ、大胆な冒険ができるのだ。

1997年のダイレクトメールにある言葉を引用すれば、「すでにみたものでなく、すでに繰り返されたことでなく、新しく発見すること、前に向かっていること、自由で心躍ること」を体現しているのが、コム・デ・ギャルソンということになるのだろう。

川久保玲はライダースを着ている

さて。滅多にメディアの前に姿を見せない川久保だが、たまに出てくる写真を見ているといつの時代もライダースを好んで着ていることがわかる。

2017年にメトロポリタン美術館で開催されて大きな話題になった「川久保玲 / コム・デ・ギャルソン」展の会場に姿を見せた時も、黒のライダース姿だった。

あれだけ前衛的な服を世に送り出し、常に賛否両論がつきまとうコム・デ・ギャルソンのデザイナーが身につけているのは、シンプルかつ完成されたデザインのライダースというのが面白いし、かっこいい。

今年、コム・デ・ギャルソンは誕生から50年を迎えるメモリアルイヤーなのだが、動きはまったくない。そんなところも川久保らしい。彼女はそんなものは周囲が押し付ける「物語」であり、自分のクリエイションにはなんの関係もないと思っているのだろう。

コム・デ・ギャルソンはいつだって周囲にこびることなく、我が道を行く。

フリーランスになってから、ある雑誌でコム・デ・ギャルソン特集をやろうという話で盛り上がった。特集で絶対に欠かせないと考えたのが、川久保の独占インタビューだった。依頼書を送り、検討をしてもらったのだが、スケジュールの問題もあり、その時は実現しなかった。

いっときの流行や勢いに流されることなく、誠実な仕事を積み上げた先にいつかどこかで……。企画がいつ実現してもいいように、もう最初の質問は決めている。

川久保と同じように、「すでにみたものでなく、すでに繰り返されたことでなく、新しく発見すること、前に向かっていること、自由で心躍る」仕事をすべく、僕もまたライダースに袖を通す。

 

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