深煎りアイスコーヒーに思い出ぎっしりサンド 老舗秘伝「かえし」ドリップで

濃厚ホットコーヒーを氷のグラスに注ぐ

去年の夏、撮影の仕事で東京の飲食店を巡った。現場に到着したが、アポの時間まで30分以上ある。この日は猛暑で店の前の日陰に入っても汗がダラダラ。たまらず近くの喫茶店に飛び込み、席に着くなりアイスコーヒーを注文した。

【連載】魅惑の名古屋グルメ

店内はエアコンが効いていて生き返ったような気分。ふと、テーブルの上のメニューに目をやると……ん?アイスコーヒーが800円!? 涼しさを通り越して寒くなった(笑)。

レトロな雰囲気の老舗喫茶

昭和22年創業の『コンパル大須本店』

800円のアイスコーヒーはたしかに旨かったが、喫茶王国・名古屋にはもっと安くて、もっと旨いアイスコーヒーを出す店がある。それが約1200の店と施設が軒を連ねる名古屋中心部の大須商店街にある昭和22年創業の『コンパル大須本店』だ。

ベロア生地のソファが並ぶ店内はレトロな雰囲気

ベロア生地のソファが並ぶ店内はレトロな雰囲気。大須という場所柄、客層は若者からお年寄りまでさまざま。「アイスコーヒー」(400円)と、お腹も空いていたので「ミックスサンド」(610円)を注文した。

濃厚ホットコーヒーを勢いよくグラスに

ホットコーヒーをグラスに注ぐのが『コンパル』流

小さなデミカップに入ったホットコーヒーと、氷がぎっしり入ったグラス、クリームが運ばれた。ホットコーヒーは注ぐお湯の量を減らして濃いめに抽出。ストレートで味わってもよいが、私は砂糖をスプーンに1杯だけ入れる。それをグラスに注ぐのが『コンパル』流なのである。

勢いよく一気に注ぐのがコツ

しかし、ためらいながら慎重に注ごうすると、カップからコーヒーがこぼれてしまう。勢いよく一気に注ぐのがコツだ。とはいえ、ときどき私もやらかしてしまうが(笑)。

グラスに注いだら、まずはひと口。ホットコーヒーを氷で瞬時に冷やすので、香ばしい風味と深みのあるコクはそのまま。うん、これが名古屋のコーヒーの味だ。

香ばしい風味と深みのあるコクはそのまま

名古屋の喫茶店のコーヒーはやたらと濃い。豆味噌を使った料理やあんかけスパなど、もともと濃い味を好むのも理由の一つだが、「せっかくお金を払うのだから濃いのが飲みたい」という、客からの要望に応えたものではないかと私は思う。

『コンパル』はコーヒーの淹れ方にもこだわりがある。それは、ネル(綿)ドリップでポットに落としたコーヒーを温めて、再びドリップする“かえし”と呼ばれる独特の手法だ。自宅でコーヒーを淹れるときに、この“かえし”を真似てみたことがあった。しかし、雑味が出てしまい、かえって不味くなった。“かえし”をすることを前提にコーヒー豆を焙煎しているのだ。

クリームは乳脂肪分が高くて濃厚

三口ほど飲んだら、クリームを入れる。普段ブラックで飲んでいる方も是非味わってほしい。このクリーム、乳脂肪分が高くて濃厚。深煎りでコクのあるここのコーヒーと実に相性が良いのだ。クリームをくわえることでコーヒーのポテンシャルがすべて引き出され、本当に美味しくなるのだ。

幼き日の思い出サンドイッチ

具がぎっしりのミックスサンド

アイスコーヒーを堪能していると、ミックスサンドが運ばれた。パンにはコールスローサラダとキュウリ、トマト、ハム、タマゴサラダがぎっしり。口を大きく開けて食べないと、コールスローサラダをテーブルや床にこぼしてしまうので要注意だ。

キャベツの甘みとキュウリのシャキシャキ感、トマトの酸味、ハムの塩気、タマゴサラダのなめらかな舌触りが口の中で一つになる。見事なまでに調和しているのは、ドレッシングやマヨネーズの加減が絶妙だからだろう。

このサンドイッチには忘れられない思い出が

このサンドイッチには私自身、忘れられない思い出がある。私の母が名鉄ホールや御園座、中日劇場へ観劇に行くと、必ず名古屋駅の地下街にある『コンパル』でサンドイッチをお土産に買ってきてくれた。

今でこそ私はフードライターとして何でも食べるが、幼い頃は偏食の上に食が細かった。それを母はとても心配して、いろんなものを買ってきては私に食べさせようとしたのだが、食べること自体にあまり興味がなかったのである。しかし、『コンパル』のサンドイッチは別だった。

「こんな旨いものが世の中にあったのか!」と感激しながら、夢中で頬張ったことを今も鮮明に覚えている。ひょっとしたら、家以外の食べ物で初めて美味しいと感じたのがこのサンドイッチなのかもしれない。母は7年前に亡くなったが、『コンパル』へ足を運ぶたびに、幼き日のことを思い出す。

 

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