「ひとりを楽しむ人」と一緒にいたい プロ広報・田尻有賀里さんの人生観

田尻有賀里さん(撮影:岩下鉄)

ベンチャー広報界のプロフェッショナルとして、旬な企業を渡り歩く女性がいます。「元祖キラキラ広報」田尻有賀里さん。気さくな人柄と柔らかい雰囲気で若い同業者から慕われつつ、仕事への厳しい姿勢と芯のある独立心は失いません。

そんな彼女は日々目にするネットメディアの中でも、DANROが掲げる「ひとりを楽しむ」というコンセプトに強く共感しています。仕事からプライベート、人生に対するスタンスを貫く現代の女性の考え方を聞きました。

田尻有賀里(たじり・ゆかり)
京都府出身。立命館大学を卒業後、化粧品会社でのPR担当などを経て、2007年にグリー株式会社に入社。企業広報からイベント運営、社内広報まで幅広い広報業務に従事。東証マザーズ、東証一部と株式上場を経験した。その後、マガシーク株式会社、リノベる株式会社を経て、2018年よりリスト株式会社広報部次長。PRSJ認定PRプランナー。日本パブリックリレーションズ協会、日本広報学会所属。

競争心はないけど「自分には負けず嫌い」

趣味はアルトサックス演奏(写真は田尻さん提供)

――「ひとりを楽しむ」という言葉を聞いて、何を連想しますか。

田尻:ひとりを楽しむって、自分自身をアップデートする時間だと思います。「成長」っていうと意識高すぎな感じもしますが。

今日も仕事の後、スタジオでピアノを弾いてきたんですよ。まだ始めて8か月ですが、無謀にも夏の発表会に出ようと思って。レッスンを受け自主練をして、できなかったことができるようになっていくプロセスは、大人の能力開発の限界に挑戦しているようで楽しいです。

ひとりを楽しむ時間は大事です。よく言うじゃないですか、「自分を大切にできない人は、他人も大切にできない」って。

それと一緒で、ひとりの時間を楽しめない人は、他人といても新鮮な話題が提供できないし、相手に合わせるだけではどこかで無理が出ますよね。

自分の軸がしっかりあって、自分は何が好きで何が嫌いって自分の言葉で言える人は、すごく素敵だなと思います。それって自分と向き合っていないとできないですし、それこそ「ひとりを楽しむ人」なんじゃないですかね。

――確かに「ひとりを楽しむ」とは、自分を大事にすることと同じかもしれません。

田尻:親の育て方の影響かもしれませんが「自分は自分、人は人」という考えが強いんです。子供のころから自分を他人と比べることはないし、競争心もあまりない。でも、自分に対しては負けず嫌いなんです。これも「ひとりを楽しむ人」の特徴なのかもしれませんが。

楽器でもこういう風に弾きたいとか、仕事ではこういう人になりたいというイメージとか理想があって、それができないと、もう無茶苦茶悔しいんですよ。

ピアノの他にアルトサックスを7年ほどやってるんですが、楽器の練習って超孤独なんです。2時間とか3時間とかスタジオに籠もって、黙々と楽譜を見ながら、理想とかけ離れた自分と向き合うわけじゃないですか。本当に嫌になります。社会人にもなって、なんでこんなにも辛いことの連続をやってるんだろうと思うんですが(笑)。

でもやっぱり、理想の音だとか、こんな風に弾きたいといったイメージに少しでも近づけたり、人前で弾いたときに誰かが喜んでくれたりとか、コミュニケーションが生まれたりとか。いちど成功体験を持ってしまうとやめられないんですよね。他のものでは得られない喜びや感動が病みつきになります。

20代で大きな仕事を任せてくれたベンチャー

最初から恵まれた環境ではなかった

――田尻さんといえば、グリーの上場にも関わった「元祖キラキラ広報」を経て、いまやベンチャー広報のレジェンドとして、勉強会の講師なども務められています。どういう経緯で広報のキャリアを積まれてきたんでしょうか。

田尻:実は大学卒業時が就職氷河期だったんですが、京都から東京に来てせっかく入った最初の会社を、想定外なことが起こったこともあって1か月で辞めてるんですね。

次の会社でファッションECサイトの企画・編集の職に就いたのですが、ひたすら画像を加工してHTMLを書く仕事がつらくて。辞めたいと言ったら、グループ会社に出向して化粧品のPRの仕事をさせていただく機会を得ました。

そこでこの仕事に興味をもって、商品だけでなく企業広報寄りのこともやってみたいなと、次に選んだ会社がグリー。広報立ち上げのポジションで入社しました。

ですから、最初から恵まれた環境でやってきたわけじゃなく、置かれた場所で必死に機会を活かしてきたんですよ(笑)。当時のベンチャー企業の世界は本当に何も整っていませんでしたから、能力開発も会社に頼らず自分で学んでいくしかなかったです。

――グリーを辞めたときはどんな感じだったんですか。

田尻:そのときは「自分に対して負けず嫌い」というところが仕事で出始めたころだったんです。

それまではあまりキャリア願望がなくて、好きな仕事を楽しくしていられたらと思っていたんです。結婚して相手から専業主婦になって欲しいって言われたら、別になってもいいやぐらいの感じで。とりあえず毎日楽しく働けて、食べていけたらいいや、くらいに思っていたんですね。

それがグリーで広報という仕事に本格的に向き合って、いろんな経験をして、仕事の面白さも知ることができて、「あ、この仕事、ずっとやっていきたいな」とキャリアに対する欲が出てきたんです。

入社したころの社員は30人ほど。会社は赤字で、親も名前を知らないような会社でした。当時はまだSNSの会社で、会員数はミクシィに引き離されてどうしようという頃でしたね。でもソーシャルゲーム事業の構想はあって、入社直後に最初のリリースがありました。

そこで20代後半の5年間、本当に貴重な経験をさせていただきました。普通の会社だったら、そんな歳の子に意思決定なんて任せないじゃないですか。でも小さな会社で、広報も取締役の下にひとりだけだったので、なんでもやらせてもらえました。

もちろん、それで失敗することもたくさんあったんですけど、自分で考えてゴールを想像して、逆算して、こういう意思決定をしたらこうなるだろう、みたいな、そのプロセスが面白くて。

その後、会社が上場して、社会的な影響が大きくなったことで対応に追われることもあったのですが、毎日経験したことのない何かが起こるという感じが刺激的でしたね。

広報に必要なのは「客観性」

オフィスのある田町の街角で(撮影:岩下鉄)

――上場で会社は一気に大きくなりました。

田尻:社員が5年で2000人超えました。そのとき、先ほど言ったようなキャリアに対する欲が出てきて、わたし、もっといけるんじゃないかと思い始めて。

上場後は分業が進んで仕事が楽になりました。でもそのとき、これでは居心地が良すぎる、このままでは苦労して成長して行こうって思わなくなる、と感じたんです。

そこから転職して、2つの会社に3年ずつ勤めて、いまの会社には昨年転職しました。この仕事は今年で12年目になりますが、おかげさまで転職するたびに働く環境がとてもよくなっています。

――広報で大事なことって何でしょうか。

田尻:逆張りみたいに思われるかもしれませんが、「客観性」だと思います。

広報の人って2つのタイプがあるんですよ。ひとつは会社が本当に好きで、その会社だからこそ働ける、その会社のサービスがあるから仕事ができるタイプ。逆に好きなもの以外は広報できなくて、誰よりも会社が好きとか思いが仕事に表れる。

もうひとつは、自分のスキルをその会社の広報でどう活かすかを考えられるタイプ。わたしはこちらなんですが、自分の経験や知見やセンスを、この会社のこのサービスで活かしたらどうなるだろう、と考えるとワクワクするんですよ。

わたしはいまの仕事もいまの会社も大好きだけど、一歩引いてドライに物事を見てしまうところがある。それは、世間を含めた客観的な視点が求められる広報のプロフェッショナルとしては、合っている性格だと思うんです。これも「ひとりを楽しむ」ってことに関係しているかもしれませんね。

ベンチャーは広報も経営者と同じ目線で、とよく聞きますが、創業してきた彼らと熱意や視点は全く同じにするなんておこがましい。経営者の目線に寄り添いながら、広報のプロフェッショナルの視点で会社を発展させたいですね。

――先日も、田尻さんの会社がネットメディアで取り上げられていましたね。

田尻:いつも意識しているのが、広報として「世の中や書く人にとって価値ある情報」を提供したいということ。メディアへの露出は手段であって、大事なことはその「価値」を作ることだと思うんです。

生まれたてのサービスであれば、それがいいものか悪いものかどうかも分からない。そういう、まだ認められていないものの「価値」を生み出していく仕事が広報だと思います。それにはやはり、会社や商品、サービスを客観的に見る視点が必要です。

自立した大人の自由が大事

――田尻さんの「ひとりを楽しむ」は、「ひとりが好き」というよりも、友人やパートナーがいても、ひとりの時間を大事にするという感じですね。

田尻:そうですね。亡くなった眞木準さんがティファニーの広告につけた「ひとりで生きていけるふたりが、それでも一緒にいるのが夫婦だと思う。」というコピーがありますが、わたしはその言葉が好きなんです。

お互いに「ひとりを楽しむ人」と一緒にいることで、ひとりよりも充実した人生になるんじゃないでしょうか。

ただ、人との関係はとても大事ですが、前提として、何にも制限されない個人の身体と精神の自由は大切です。一番大事なのは自立した大人の自由。

個人の自由があってこそ、他人との関係を構築していくことができるし、社会のことも考えることができる。社会って個人の集合体なので、個人を大事にする自律した大人が、他人のことも大事にする。そうやって社会が成り立っていくのだと思います。

 

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