自分と向き合うことの大切さ 夫のモラハラを乗り越えた女性

イメージ(Photo by Getty Images)

「女性の自由と孤独」をテーマに、女装小説家・仙田学がさまざまな女性たちにインタビューをするこの連載。今回は、夫からの激しいモラハラと、2人の子どもたちの不登校を通して、女性としての価値観や生き方を見つめ直すことができたというアサコ(52)に話を聞いた。

夫からの日常的なモラハラ

29歳で結婚したアサコは、翌年に長女を出産した。最初から夫は育児に全く参加しなかった。オムツ交換や入浴などには見向きもしない。たまにあやすことがあっても、気が向いたときだけ。

「そのうち、言っても無駄だと思って頼むこともなくなりました。夫がいるのに、ひとりで子育てするのが当たり前になったんです。女がやるものだという意識が、私のほうにもあったかもしれません」

アサコは33歳で長男を出産した数年後に、鬱状態になった。

「いつも眠くて、午前中ずっと寝てる状態が何カ月も続きました。なんで子育てがうまくいかないんだろう、なんでこんな人と結婚したんだろうって、自分を責めてばかり」

やがてアサコは離婚を考え始める。夫はその間も、育児に関わらないだけでなく、アサコや子どもたちに激しいモラハラをしていた。

「家では日常的に怒鳴られていました。明らかに向こうがおかしいってわかるんですけど、おさまるまで待とうとしか思えないんです。さんざん怒鳴りつけて私を悪者にすると、夫は部屋に閉じこもります。やっと終わったと思って子どもたちを探すと、2人して脱衣室で膝を抱えて泣いていたいたこともありました。子どもたちにもしょっちゅう怒鳴っていました。考えたうえで叱っているんじゃなくて、感情に任せて怒っているだけ。無駄に厳しい割には、言うべきことを言っていないというか。子どもの失敗には逆上するくせに、自分にはとても甘いところもありました」

不登校になった2人の子ども

夫のモラハラに苦しんだアサコ

度重なるモラハラによって鬱の症状が長引いたため、アサコは知人の紹介でアドラー心理学に基づくカウンセリングを受けた。それを通して、様々なことに気がついたという。

「そもそも私自身も、子育てに向いていないと思っていたんです。独身の頃から、毎日家にいて家事をするとか考えられなかった。末っ子だったし、自分より弱い者の面倒を見るのは苦痛だと思っていました。母親は主婦の鏡みたいな人で、料理は上手いし洋裁も得意で、毎日きれいに掃除をしていました。女の子の生きる道はそれしかないんだと、母親からは教えられたんですけど、自分にはできないと思っていました」

女性は女性らしく生きるべきという、母親から刷り込まれた価値観。しかし、家事や育児に向いていない自分。こうした状況に苦しむ中、長女が不登校になる。

「娘が中1になったばかりの頃でした。いくら起こしても起きなくて、学校に行けない日が増えました。病院に連れていくと、心因性の起立性調節障害と診断されました。車で無理やり連れていったことも何回かありましたけど、娘が学校に行けたのは中学3年間で3~4カ月だけでした」

中3の終わり頃に、長女は通信制の高校に行きたいと言いだし、長かった不登校生活が終わった。ところが2つ年下の長男も、中1のときに学校へ行かなくなる。アサコはどこかで予想していたという。

「同じ家庭で育ってますからね。思春期になれば同じ問題が浮上するだろうって。息子が中2の頃、私は何度も深夜に起こされました。子どもの頃にやりたくもない習い事をさせられたとか、あいつ(夫)から怒鳴られたときに盾になってくれなかったとか、何十回も同じことを言われるんです。私が言い訳をすると、激怒しました。『じゃあお母さん離婚すればよかったの?』と言うと、『そんなこと言ってんじゃねえ』と怒鳴り返してきたり。扇風機の首を手で折ったり、押し入れや本棚に穴を開けたりもしていました。私に暴力を振るったことは一度もなかったですけどね。私が家にいるときに、子ども部屋から『死にたい』とLINEがきたこともありました。いま思えば、夫には反抗できなかったので、その感情を私に向けていたのかも」

自分と向き合うこと

自分と向き合ったアサコ

長いあいだ続いた長男の反抗は、あるときを境におさまった。きっかけはアサコが自分と向き合ったことだった。

「変わらなきゃならないのは子どもじゃなくて自分のほうだと気づいたんです。自分に自信を持たずに生きてきたんだなって。それから子どもにダメ出しをすることをやめました。その代わり、できることを認めるようにしました。それは子どものためにも、自分のためにも。私が変わると、不思議なことに夫も協力して、子どもへの接し方を変えてくれるようになりました。不登校には自分の影響がかなりあったことに途中から気づいたみたいで」

子どもの不登校を受け入れることは、アサコにとってありのままの自分を受け入れることでもあった。では、長らくモラハラに苦しめられてきた夫の存在を受け入れることはできたのだろうか。

「夫には失礼な話だけど、私は自信のなさから、結婚するとき妥協したんですよね。自分にはこのくらいの人がお似合いなんだって。でも子どもの不登校を通して私が変わって、合わないところがはっきり見えてきました。言いたいことを言えるようにもなって、関係性が少し変わってきました。その甲斐あって前よりはうまくいくようになってきました」

【連載】女性の自由と孤独

 

連載

TAGS

この記事をシェア