ひとりでも簡単うまい! 青山のバーマスターが缶詰で作る極上裏メニュー

缶詰にひと手間加えるだけで、うまいおつまみが完成。青山のバーのマスターと常連客が、夜な夜な飲みながら、缶詰を使った酒のつまみを開発しました。でもなぜ缶詰だったのでしょうか。
東京・青山にあるバー「matsu」では、マスターの島崎淳さん(45)が、裏メニューとして缶詰を使ったつまみを常連客に出していました。
ある深夜に出したメニューは、「サバ・スタッフ・ド・オニオン」。タマネギをくりぬいた中に、サバ缶の身を詰めて、約20分煮込みました。ほっこりと身体も心も温まる一品です。原価は約200円。

「うまいなぁ。こういうおいしいおつまみを集めて、本を出したいよね」。常連客には、出版社で働く人やグラフィックデザイナーなどがいて、「自分たちで本を作ろう!」と、酔っ払った勢いで盛り上がりました。
それから、メニューを開発する日々が始まりました。
まず、世の中にはどんな缶詰があるのか、いろいろと集めてきました。常連客の朝日慎介さん(36)は、もともと缶詰が大好き。いざという時に備えて、家には缶詰が段ボール箱いっぱいにあります。開発のための新たな缶詰を買いに、自転車をこいで、いままで行ったことのないスーパーなどを走り回りました。
外国の珍しい魚から、だし巻き卵、チョコチップ味のパンの缶詰まで、いろんな缶詰が集まりました。タイカレーの缶詰を食べたときには、「う~ん、やることないじゃん。このまま食べれば良いだけ」と、おいしさにうなりました。
「缶詰には広くて奥深い世界が広がっている。だからこそ、俺たちは、どこででも手に入る缶詰にひと手間を加えることで、うまいつまみに変身させようと決めたんです」(島崎さん)

ワイルドさで男を磨く
ひとり暮らしでは、フライパンがない人もいるかもしれません。缶詰ならトースターや魚焼きグリルで、そのまま火にも掛けられます。
サケ缶を開け、マヨネーズであえて、大葉を千切りして載せるだけ。お皿にも移さないで、缶詰のままで食べてしまおう。「だって、洗い物嫌いだし」と朝日さんは笑います。
「カニミソ焼き」は、カニ缶にミソを載せて、トースターで焦げ目がつくまで焼くだけ。味は味噌の辛さと相まって、カニの風味が引き立ちます。少し焦げた香ばしさもたまらない。日本酒に最高に合うつまみです。

マスターの島崎さんは「料理の楽しさを感じたら、次は包丁を握ってみてほしい。キュウリを切ってオイルサーディーンとあえたり、大根をおろして鰯の生姜煮缶に載せたり。少しずつ工夫を重ねていくと面白いですよ」。
ワイルドな男らしさを、少しずつ磨いていってほしい。そんな思いを込めて、本のタイトルを決めました。
『男を磨く缶詰レシピ 東京・青山のBAR店主がこっそり教える裏メニュー100選』。
味わい深まるビンテージ
缶詰は、月末に食費に困ったころ、ピンチを救ってくれる頼りになる存在でもあります。
1年ぐらい寝かせた「ビンテージもの」の缶詰も、うまさが熟成されて味わい深いそうです。
朝日さんはビンテージものには思い入れが深く、サバ缶は振るだけで、どのぐらい熟成されているかがわかると言います。
時を重ねることによって、味に深みが増し、まろやかさも出てくる。人も缶詰も、月日を重ねていくことで、しみじみとした滋味や魅力がにじみ出るようになるのでしょう。

男の格言で、人生を味わう
バーで酔っ払ってみんなで話していると、面白い言葉が飛び出します。「出た、名言!」と、笑い合います。翌日酔いが覚めると、たいして面白くないことでも、バーで話しているとすごく盛り上がります。昨年、「matsu」で流行った言葉は、マスターが妻から言われた一言。「消えてなくなれ」でした。
バーで話すと大爆笑。常連客に何度もリピートされて、勝手に決めた「2018年matsu流行語大賞」を見事に獲得しました。
そのノリで、缶詰料理にも名言を添えて、料理の味わいをさらに深くしようと盛り上がりました。本で紹介した100個の料理には、100の「男の格言」がついています。
「ベビーほたての白ワイン煮」につけた男の格言は、「本気ならどっぷり浸かれ」。
「いか納豆」には、「粘らなければ成功はない」。

今日もバーで、名言を繰り出しながら、酒と缶詰のつまみがすすみます。