「若者よ、選挙に行け!」 お笑いジャーナリスト・たかまつななの生き方

お笑いジャーナリスト・たかまつななさん(撮影・萩原美寛)

「若者よ、選挙に行くな!」「あなたたちは選挙には行かない」「選挙には行・か・な・い」――。3人のお年寄りが入れ替わり立ち替わり語りかけてくる動画「若者よ、選挙に行くな」が話題になっています。7月12日にアップロードされ、Twitter上での再生回数は270万回を突破。制作したのは、お笑いジャーナリストのたかまつななさん(26)。「お嬢様芸人」として一世を風靡した彼女は、現在お笑いタレント業に加えてテレビプロデューサー業もこなしつつ、自身で起業した「株式会社笑下村塾(しょうかそんじゅく)」の取締役という顔も持っています。

「笑いで世直し」の理念を掲げ、主に10代の若者に対して政治の出張授業を行うなど、精力的に活動するたかまつさん。しかしこの夏には重症の盲腸にかかり、一度退院したにも関わらず再入院。二度目の入院期間は合計一カ月に及んだといいます。ピン芸人として起業家として、走り続けてきた彼女は、自身の生き方をどう捉えているのでしょうか。

出張授業に行脚し「笑いで世直し」

――いま最も熱中している活動を教えて下さい。

たかまつ:やはり「笑いで世直し」することです。具体的には、2016年に設立した「笑下村塾(しょうかそんじゅく)」という会社で、高校生を中心にした出張授業に取り組んでいます。

――「たかまつななチャンネル」にアップロードされた「若者よ、選挙に行くな!」動画も注目を集めています。

たかまつ:日本の未来のための政策や議論が必要です。しかし、まっすぐ活動するだけではなかなか若者の投票率を上げられないため、あえて皮肉ってこの動画を作りました。笑下村塾の小さく汚い事務所で、わずか2時間で撮影したのがバレないような素敵な仕上がりになっていると思います。選挙期間中は、投票率ワースト10位の県に赴いて無料で出張授業も行っています。

――なぜ現在の活動に熱中するようになりましたか。

たかまつ:もともと政治や社会問題に興味がありました(たかまつさんは慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科と東京大学大学院情報学環教育部で政治やメディアについて学んでいた)。3年前の2016年に18歳から投票できるようになりましたよね。これを機にブームや話題を作ろう、旬を逃さないことが大切だと思って活動を始めました。この18歳選挙権に関しては、すでに世の中の注目度は下火になっています。政治に関する出張授業をメインにやっているのはうち(笑下村塾)だけ。うちが動かなくてどうする、そんな思いで取り組んでいます。

2016年に起業した笑下村塾は、現在慶応大学の同級生が代表取締役を務める(撮影・萩原美寛)

――出張授業とは、具体的にどんなことをしているのでしょうか。

たかまつ:若い人に「投票に行かないとどんなに損をするか」を体感してもらえるようなゲーム仕立てになっています。例えば『逆転投票シミュレーションゲーム』は、参加者にカードを配り、カードに書かれた10代~80代の主婦や会社員、お年寄りといった役柄になりきって、あるテーマについて意見を言ってもらいます。

「子供の公園でのボール遊びを禁止すべきか」というお題について意見を聞くとします。普通に賛否だけで集計すると10~40代の「賛成」の票数が多いのに、ここに現実にある世代別人口をポイント化したものと、投票率を掛け合わせて集計すると「反対」が多数となってしまう、といったことが起こるんです。若い人の意見が、政治に反映されなくなるということです。10代と20代の人が全員選挙に行ったら、こんなことはなくなります。

「国家予算」という大きなお財布の使いみちを決めることが政治ですから、円グラフで年間国家予算を分かりやすく説明するコーナーや、悪い政治家を見抜く『人狼ゲーム』などのコンテンツもあります。

――授業を実施してどんな反響がありましたか。

たかまつ:ある高校では、10代の平均投票率が約40%なのに対して(平成29年10月実施・衆議院議員選挙)、私たちの90分の授業をした後の投票率が84%になりました。

教材は何度もディスカッションしてブラッシュアップ(撮影・萩原美寛)

――教材を作る上で、心がけていることはありますか。

たかまつ:政治に関心がある人の意見も、ない人の意見も聞くということです。分かりやすくすると、間違いを生みやすいので気を付けています。教材は常にブラッシュアップを続けています。笑下村塾のインターンや構成作家、大学教授、お笑い芸人、小学校の先生といった様々な人たちの力を借りて作っています。

――やりがいはどんな時に感じますか。

たかまつ:生徒に届いているなと感じた時です。授業の後で「友達を誘って投票に行ってきました」と言われたことがあって、本当にうれしかった。投票するべきだ、と理想を語るだけではなかなか現実は変わらない。政治をいかに狭いローカルな世界の出来事として、自分と結びつけてもらうかが大切。学校の先生にもやってほしいですね。

当事者性と俯瞰性、両方が必要

――たかまつさんは「お笑いジャーナリスト」としてテレビを通して発信することができる立場です。出張授業という手段にもこだわるのはなぜですか。

たかまつ:手段はたくさん持つに越したことはないからです。当事者性と俯瞰(ふかん)性は両方必要。1回で1000万人に届けられるマスメディアなのか、100人にしか届けられないけれど、深く理解してもらえる出張授業なのか。手段が違うだけですし、草の根でやっていくことはとても大切です。こういった「現場」がないと、問題意識があっても、若者の腑に落ちるものを作るのは難しいのではないでしょうか。

あくまでも現場にもこだわる(撮影・萩原美寛)

――会社を設立して、よかったことは。

たかまつ:芸人として「自分自身がメディア」になるという観点からは有利なこともあります。芸人だけど会社も持っているということで、『ナカイの窓』(日本テレビ)の「昭和vs平成の女芸人」という企画で平成側の代表として呼んでいただいたり、『踊る!さんま御殿』(日本テレビ)を観た、という高校の先生から出張授業を頼まれたりしたこともあります。

――株式会社ということですが、事業収支はいかがでしょう。

たかまつ:教育機関の場合は1回10万円からお引き受けしているので、これだけだと正直に言ってかなり厳しいです。別の仕組み、例えば旅行代理店と組んで、東京に修学旅行に来た時のコンテンツに組み込ませてもらうとか、ある程度予算を持っている、大学の広報費で政治学部などに出張授業に行くとか、新たなビジネスモデルを考えています。

――これまでに4回、出張授業の資金や大学院の学費をクラウドファンディングで募っています。

たかまつ:クラファンはだいたい1回で100~150万円前後の寄付をいただいています。過去4回のプロジェクトでは、合計約500万円が集まりました。現在も「18歳の投票率ワースト10」の都道府県で「笑える!政治教育ショー」を開催するための資金を募っています。既に150万円を突破していますが、目標金額の200万円までまだまだ応援が必要です。

ただ、個人的に主権者教育(出張授業)に関しては、もっと寄付が集まってほしい。笑下村塾では年間200万人に出張授業を届けるのが目標です。資金さえあれば実現できるのに、そう簡単に集まらないんです。寄付文化が醸成されてないからだ、と言われることもありますが、やはり政治に対する注目度が低いのではないかと思っています。

焦るのは、実現した喜びを味わいたいから

動くとまだ手術の傷跡が痛むという(撮影・萩原美寛)

――今年6月には、盲腸で2度の入院をされました。何か心境の変化はありましたか。 

たかまつ:自分が健康だったから、そうではない人に冷たい自分がいたなと思います。仕事相手が「体調崩したからできません」ということがあると、それまでだと「だったらもっと計画的にやればいいのに」と思っていました。

自分の働き方や生き方についてもすごく考えました。過労が原因と勘違いをされるのですが、過労ではなく盲腸です。でも「健康じゃないとこうなっちゃうんだ」って。これまで走りすぎてきたかもしれないな、と。

――睡眠時間が1時間を切っていたこともあるとか。

たかまつ:まったくそう見られないのですが、体育会系で体を張るのが得意なんです。小学校時代はサッカー選手になりたかったし、フェリス女学院時代は山岳部の部長でした。バラエティ番組でもっと体を張ったことをやってみたいですね。絶対オファーが来ないと思うけど(笑)。

――ひとりの時間はどう過ごしていますか。

たかまつ:ひとりの時間も仕事をしてしまいますね。仕事が大好きなのと、とにかく短期間で結果を残したいタイプなので。焦りも大きいかもしれないですね。

――焦るのはなぜでしょうか。

たかまつ:実現できた時の喜びを知っているからかなと。クラファンで目標金額を達成した時の喜びや、10校に授業を届けられた時の生徒さんの笑顔。

お笑いでも、私はネタは作るのはとても苦しいと感じるタイプ。でもお客さんの笑顔を見られると、本当にすごく嬉しいです。あの喜びを早く味わいたいのかもしれません。

――孤独を感じることはないのでしょうか。

たかまつ:ピン芸人で、起業して、孤独なことばかりです。でもその分、理不尽なことはやらなくてもいい。「上司に言われたからこうしなきゃいけない」ということはない。「クラウドファンディングはやるな」とか、「やってもいいけど、政治については言及するな」とか、起業すれば言われることはありませんから。やりたいことをやれる、言いたいことを言い続けられる、そのためには努力も必要だし、捨てるものもある。でも、本当に大事なものを捨てないですむから、そのための孤独だと思っています。

――これからやりたいことはありますか。

たかまつ:早く結婚してみたいです。

結婚について聞くとこんな表情に(撮影・萩原美寛)

――お相手は。

たかまつ:いたら「書いてください」と言っていますよ(笑)。やっぱり、ひとりは寂しい時もあるんですよね。

 

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