国内専門メーカーのこだわり満載! 「1000円未満の万年筆」の完成度に驚愕

久しぶりに手書きで文字を書いてみる(イラスト・古本有美)

スマホの普及で爆発的に増えたのは、意外にも「文字によるコミュニケーション」ではなかったか。絵文字や動画が注目されがちだが、自分で文章を書き、他人が書いた文章を読む分量は、ひと昔前よりもはるかに増えた。

そんなコミュニケーションの変化で消え失せたのは、同じ文字でも「手書き文字」である。いまや自分用のメモですら、会議中にパソコンで打つのが当たり前になっている。デスクや鞄に筆記用具が1本もない人も珍しくないだろう。

セーラー、プラチナ、パイロットを比較

ただ、ほとんど使われなくなったからこそ、手書き文字の「効果」はこれまでになく上がっているのかもしれない。そんなことを考えながらネットを検索していたら、「5000円以下の万年筆」が売れ筋になっているという記事があった。

万年筆といえば、だいたい3万円から5万円はするものというイメージがある。時代は変わるものだ。しかし、それで驚くのは早すぎた。通販サイトを検索すると、なんと実売で「1000円未満の万年筆」がゾロゾロ出てくるではないか。

それも大手有名メーカーによるものである。半信半疑で目についたものを3本ばかり注文してみることにした。セーラー万年筆の「ハイエースネオ クリア」683円、プラチナ萬年筆「プレジール」723円、パイロットコーポレーション「カクノ」970円である。

手帳に向く「ハイエース ネオ クリア」

セーラー万年筆の「ハイエース ネオ クリア」

値段が一番安かったのは、セーラー万年筆の「ハイエース ネオ クリア」だ。軸が細く、ボールペンのような殺風景なたたずまいだが、キャップを外して後ろにつけると、きちんと万年筆になる。持ったときのバランスもいい。

細字は手帳やノートに小さな文字を書き込むのにちょうどいい。葉書に文字をたくさん詰め込みたいときにも向いている。今回購入した3本の中でもっともペン先がカリカリしていたが、あの感触が好きな方にはおすすめだ。

なお、久しぶりに書いてみて思い出したのだが、万年筆は筆のように軸を立て気味にして力を入れずに書くものだ。軸を寝かしたり強めに押したりすると、うまく書けない。そんなことを意識しながら道具を使いこなすのは、新鮮な感覚だ。

高級感たっぷりの「プレジール」

プラチナ萬年筆の「プレジール 中字」

2番目に安かったのは、プラチナ萬年筆「プレジール」だ。フタを閉めた状態の高級感は、とても1000円未満とは思えない。さすが社名に万年筆を掲げる会社だけあって、機能を超えた独特の造形は老舗メーカーのこだわりを感じさせる。

こちらは中字を選んだ。予想以上に太かったが、万年筆でなければ出せない味がある。ペン先の滑りもいい。手帳用ではなく、書類や荷物に同封する一筆箋などに短い言葉を添えるときに向いているのではないだろうか。

パソコンで作成してプリントした紙に「何卒よろしくお願いします」などのひとことと名前を手書きで添えてくれる人がいる。いわゆる完璧な字でなくても、人となりを表している字であれば、もらった方は嬉しいものだ。

ポップな「カクノ」の書き味は本格的

(写真説明)パイロットの「カクノ」

今回の3本の中で最も高い、とはいっても970円だったのはパイロットの「カク」だ。ケースは万年筆とは思えないほどカラフルだし、ペン先には笑顔がかたどってあるし、これはいわゆる子供向け、女性向けの商品なのかなと思った。

購入した商品は軸が透明で、どこかおもちゃを想像させる。ところが封を切って持ってみると、先入観とは大違い。軸の太さが絶妙で、フタを後ろにつけたときのバランスもいい。ペン先もしっかりしていて滑りがよく、書き味が安定している。

ベテラン作家の中には、いまも専用の原稿用紙に万年筆でないと書かない、という人がいる。そういう頑固な流儀の人でも納得するのではないか、と思わせる完成度である。色付きのインクを使えば、軸の透明さが生きるだろう。

過剰さも欠落も「味」になる

ということで、思わぬ流れで万年筆のレビューになってしまった。個人的に感じたのは、これらの商品が本格的な万年筆のエントリーモデルとして作られているのではないか、ということだ。

どの商品からも伝統とこだわりが感じられた。3社のうち2社は、いまも社名に「万年筆」を掲げている。パイロットも1989年(平成元年)に商号変更するまでパイロット萬年筆という社名だった。

初めて使ったものが安かろう悪かろうでは、万年筆なんて面倒な筆記用具は二度と使わないと悪い印象がつくだけだ。いい商品に出会えれば、万年筆は素敵なものというイメージが高まり、いつか自分も高級なものが欲しいと思うようになるだろう。

もうひとつ記しておきたいことがある。久しぶりに手書きで文字を書いてみて強く感じたのは、筆記用具は必ずしも「最大公約数的な人気のあるものだけに価値があるわけではない」ということだ。

万年筆という非日常の筆記用具には、過剰さも欠落もあっていい。それを自分のものにできれば、その人ならではの「味」になる。

万年筆で書いた文字は、伝達のための記号であると同時に、世界でひとつだけの絵画ともいえる。読みやすさ、分かりやすさだけが価値とされる世界に飽きたら、お気に入りの1本を探す旅に出てみてはどうだろう。

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