パラレルワークで将来の不安消えた 荒井宏之さんに聞く・上

荒井宏之さん(撮影・斎藤大輔)

終身雇用の崩壊、副業解禁、老後の資金の不足…。ニュースは私たちを不安にさせるキーワードがあふれています。

「会社の言うとおり働けば大丈夫」と言われるまま、頑張って働いてきたのに、いきなり「残業削減。会社は面倒みないから、ひとりで決めなさい」と言われても何をすればいいかわからない。

そんな世代に向けて、就業時間外に「ひとり」で行動したことで、新しい世界が見えてきた人に、これからの時代を生きるヒントを聞いていきます。

荒井宏之さんは2006年に大学卒業後、まだ数名だったITのスタートアップ企業にプログラマーとして就職。8社を経て、現在は複数の仕事を持つパラレルワークを実践しています。

定時出社は一切なく、資金が必要になれば仕事を増やし、旅行など休みたいときには減らす、と、完全に自分で仕事量をコントロールしています。どのようにして現在の生活が可能になったのでしょうか。

本業のパフォーマンスが上がった

――現在の生活スタイルを教えてください。

荒井宏之さん(撮影・斎藤大輔)

荒井:常に5~8個の案件を抱えています。内容は、新規事業のディスカッションパートナーや経営戦略、プロモーション戦略の策定、新規事業人材の育成研修などです。

フルコミットの案件はありません。今日は「キュレーションズ株式会社」という、大企業の新規事業を外部で開発する会社で、新規事業のプランニングのお手伝いをしています。

――パラレルワークのきっかけはどのようなことでしたか?

荒井:6年前、社会人7年目で大手のゲーム会社に在籍していたころでした。新規事業の立ち上げに関わっていたある日、「スタートアップの経営者のメンターをやらないか」と誘いがあったのです。

自分自身がスタートアップ企業3社を経験していて、業界に貢献したいという気持ちもあって、エンターテインメント事業や花のネット販売、食品ベンチャーなど、スタートアップ経営者のメンターを無償で引き受けました。

――その頃の1日のスケジュールは?

荒井:朝から会社に行って働いて、その後20時頃から終電まで、時には明け方4時ごろまで経営戦略、マーケティング戦略、商品開発、資本政策などについて、リアルに会ってずっと議論していました。

――かなりハードな生活ですね。

荒井:そうですね。でも、全く疲れは感じませんでした。この頃は本業で、年齢的にもポジション的にも中堅にさしかかり、正直、仕事に煮詰まりを感じていました。ところが、全く違う業種についてディスカッションすることで、本業の仕事のパフォーマンスが劇的に上がりました。

――具体的には?

荒井宏之さん(撮影・斎藤大輔)

荒井:新規事業を生み出すということは、すでに世の中にあるものをリフレーミングする、つまり新たな視点からとらえ直すことが必要なのです。当たり前のことを当たり前としてとらえない、というか。そうしないと、世の中をよりよくする革新的なアイデアというのは出て来ないのですね。

でも、サラリーマンとして働いていると、どうしても「井の中の蛙」になってしまう。当たり前のことを当たり前としかとらえられなくなってしまうのです。

――自分も井の中の蛙になっているかもしれない、と。

荒井:そうなんです。中学1年の時から趣味でプログラミングを始め、思春期にインターネットにどっぷり浸かっていたこともあって、インターネットについてはかなり知見があるという自信がありました。

ところが、小さな課題から経営戦略まで、スタートアップの経営者と議論してみると、新たに気が付くことがたくさんありました。

今までとは全く違う視点でインターネット事業を議論することで、自分の中に新たな価値観、多様な価値観を作ることができ、勤務していたゲーム会社の事業を新しい視点で見ることができたんですね。

昼間の仕事で精神的に辛くなって、夜は楽しいけれど肉体的に辛いことをして、翌朝は精神がラクになるっていう(笑)。そんな生活でしたね。

――その後転職して、報酬の発生する副業を始めますね。

荒井:そうです。次の会社でゼネラルマネージャーとして働いていたころ、コーポレートアクセラレータープログラムのメンターを引き受けました。大企業の新規事業を、スタートアップとコラボレーションして行うプログラムのサポートです。

新規事業の企画や計画の立て方、人材育成の手法について教えたり、企画そのもののアイデアを評価して次の施策を共に考えたりしていました。その時に初めて副業で報酬をもらいました。

――副業は、あらかじめ許可を得ていたのでしょうか。

荒井宏之さん(撮影・斎藤大輔)

荒井:転職先の会社は副業が原則禁止で、許可制でした。ただ、先方からのお誘いがあって転職したので「副業OKなら」と言って入社したのです。そのころは夜のボランティアメンターをいくつも引き受けていたので、いつかは副業したいと思っていました。

自分のやってきたことがお金になった

――副業で報酬をもらったことが転機になりましたか?

荒井:そうです。プロジェクトに参加していた大企業の社長が、メンバーに対する人材評価を気に入ってくださったこともありまして、その会社からコンサルのお仕事を頂くようになったんですね。

自分は本業以外ではスタートアップの経営者のメンターしかやったことがなかったのですが、人脈が一気に広がり「自分のやってきたことはお金になるんだ」と実感しました。

――その後、さらに転職して独立されていますね。

荒井:次の会社は転職してすぐに「仕事が合わない」と思い始めまして、2017年夏に「独立しようと思う」と、先輩方や友人に相談したところ、コンサルの案件が2件、社員にならないかというオファーが1件、合計3つの仕事のオファーがありました。

そこで、社員のオファーをしてくれた会社は週に半分出社することにして、コンサル案件も引き受けることにしました。以来、社員として働く時は事業を主体的に作り、コンサルでは事業作りをサポートするというスタイルにしています。最近ではエンジェル投資家も始めました。

――パラレルワークになってよかったことは何ですか?

荒井宏之さん(撮影・斎藤大輔)

荒井:仕事量を調節し、自分の時間をコントロールできることです。休みたいときに休めるし、新たな学びや出会いを得る時間も主体的に作れる。これは大きいですよね。

また、正社員として会える人の範囲は正社員の肩書に縛られますが、ひとりで働けば会える人の数、幅は無限大ですし、プライベートの出来事が仕事になることもあります。旅行先のインドで初めて知り合った人と意気投合して、そのまま仕事につながったこともあります。

あとは、一つの仕事で行き詰まった時にも、他の仕事で培った人脈がセーフティーネットになるということ。こうしておけば、一つのミッションが終わってからすぐに、また別の新しいミッションを受けることができるんです。将来への不安は会社員時代よりもなくなりました。

後編に続く)

 

特集

連載

TAGS

この記事をシェア