竹下隆一郎・ハフポスト編集長の人脈術「心地よい相手だけでいい」(前編)

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

英語ペラペラなアメリカ帰りで、テレビで自信たっぷりに国際情勢や最新IT事情を語る人。きっと社交的で私生活はパリピ。「ライアン」ことネットメディア「ハフポスト日本版」編集長の竹下隆一郎さんに、世の中の人が抱くイメージはこんな感じでしょうか。私もそう思っていました。

でも一緒に働いてみると、かなり人付き合いが不器用でコミュ障です。そんな彼が何と、人付き合いを指南する本を書きました。その名も『内向的な人のためのスタンフォード流人脈術』。アメリカ・スタンフォード大への留学経験を題材にはしていますが、実は生い立ちや新聞記者としての経験から、社会の変化を感じ取り、これからの時代を見通していました。

内向的な人でも人付き合いの達人になれるのか? 2回にわたって紹介します。

「スタンフォード流」今も苦手

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

竹下隆一郎(たけした・りゅういちろう) 1979年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。2002年朝日新聞社入社。経済部記者や新規事業開発を担う「メディアラボ」を経て、2014~2015年スタンフォード大学客員研究員。2016年5月から現職。近著は『内向的な人のためのスタンフォード流ピンポイント人脈術』(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)。

ーー編集部の人から聞いたけど、「スタンフォード流」と言うタイトルは自分自身、かなり抵抗があったって?

竹下:苦手ですね。今も苦手です。妻(佐賀県出身)の親戚の集まりがあったんですけど、恥ずかしくて持っていけなかったんですよ。最近のバージョンは表紙も変えて、「スタンフォード」を目立たなくしてます(笑)。

もちろん前の表紙も素敵でしたし、どっちも大好きです。留学といっても1年しか行ってないし。今でもテレビに出るときはその肩書きが付きますが「やっぱり偉そうかな」と、苦手というより、戸惑っています。

当初のカバー(左)と、新しいカバー

ーーそれは意外(笑)

竹下:僕のよくないところで、普段から「アメリカではこうだ」というのを借りて話してしまうんですよね。その方が伝わるから。もちろんスタンフォード大の留学経験は刺激的でしたけど、それに絡めて普段考えていることを吐き出した部分が大きいのかもしれない。でも、ちょっと語り口を間違えたとは思っているんです。偉そうな感じがしなければいいんですが。

ーーこのテーマで本を書こうと思った理由は?

竹下:最初「メディア論みたいな話はどうですか」と、他の出版社からも何件かお話はあったんです。でも、同じ業界話でも、例えばAIだったら、広く社会に影響するけど、メディアなんて、一般の人が面白いと思うほど洗練された業界じゃないと思うんですよね。

それより「人はこれからどうつながっていくのか」「自分はなんでこんなに内向的なんだろうとか」「なんで苦手な人が自分の中にいるんだろう」といったことが自分の中で大事だった。そういう人はきっといるはずだから、その人たちを肯定するメッセージを出したいと思いました。

心地いい相手と付き合うだけでいい

ーー私とライアンは同じ新聞社の先輩・後輩にあたる関係で、記者時代にほぼ面識はなかったけど、10年以上前にFacebookで友達申請をもらい、知人まで紹介してきたので「何て社交的な後輩だ」と思ったのが最初の印象でした。

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

竹下:そうですね。確かその前に吉野さんにメールを出して、いじめ問題か何かで「記事を送ってください」と頼んだことがきっかけだったんですよね。仕事としてはそういうの結構できますけど、そんなに好きな方じゃないですね。

ーー私もそんなに人付き合いが得意な方ではないので、気持ちはよくわかるけど、そういう性格だと新聞記者としては苦労したのでは?

竹下:特定の「この人とは共感できるな」と言う人と仲良くなったり、記者で言う「食い込んだり」というのはあったんですけど、まんべんなく人脈を作るのはできなかったですね。

最初の地方の支局で、警察官から裁判官から地検の人まで、何もないのに会いに行くとか、ご機嫌取るとか、いろんな人と「ネタ」目的だけで付き合うのがすごい苦手でした。そのための飲み会がすごく苦手で、嫌だった。

今までだったらごく少数の人しか知り合えない、記者だったら「使えないやつ」だったと思う。でも今はピンポイントで狙って、趣向の合う人に会えるようになった。自分が「この人心地よい」という相手と付き合うだけでよくなったんじゃないかと思うんですね。

ーーそれは、やはりSNSで?

竹下:SNSもありますけど、個人で何でも発信できるようになったし、面白い人や自分と合う人がより見えやすくなったということですね。今はPeatixなどの課金システムもできて、カフェでも個人で借りられて、みんな好きなところでイベントを開いている。そこに行けば好きな人と知り合える。そういう時代になりました。

手当たり次第、肩書だけを頼っても意味ない

ーーそう思ったきっかけは?

竹下:2008年ごろですかね。経済部の時に、ビール会社を取材したら、トップよりも、たまたま広報担当者の横にいて挨拶した若い社員の方が、いろいろなことを知ってたんですね。そういう人を深掘りしたほうが仕事に生かせるんじゃないか。手当たり次第、肩書だけを頼りに人脈を広げても意味ないなと思った記憶があります。

あと、別の業界で、飲み会に若手を呼ぶのが好きなおじさんがいたんですけど、この人が苦手だったんです。男性だけの集団で飲んでいるの、あまり好きじゃないんですよね。

ーーなぜ?

(Photo by Getty Images)

竹下:飲み会とかで、業界のすごいマニアックな話題になるのがすごく苦手なんですよ。やはりビール業界の人たちと飲んだとき、みんな営業論を語るんですね。「足で稼ぐのが大事」とか「居酒屋の店主の息子や娘の誕生日を覚えておけ」とか。最初の方は面白いんですけど、だんだん話についていけなくなって、他に応用もできない。

それに何か、多様じゃない気がするんですよね。同じような人とずっと長時間過ごして、話題は人の噂とか、人事の話とか、仕事のマニアックな話とか。

ーー昔の記者は、そういうのにとことん付き合えと言われたけど?

竹下:そうですね。もちろんいろんな人と付き合うのはいいんですけど、同じ集団で過ごしていると、だんだん「濃さ」をめぐる争いになる。業界の慣習とか、人事の微妙な「間」がわかって、この人が社長になったらこうなるとか、プロっぽい原稿が書けるようになる。

そこが記事になれば、「こいつわかってるな」と業界内で顔が売れるようになると思うんですけど、あまり読者のためになってないんじゃないかと思うんです。

あまりすれていない人が、その業界を「これはおかしいんじゃないか」とか「これ面白い」って言ったほうが、ずっと読者に近いと思っていたんですね。濃い集団でずっと飲んでいると、だんだんその感覚が薄れてくる。仕事としても何か違うんじゃないかと。距離感がないと文章って面白くならないと思うんです。

「業界飲み」行かなくなった

ーー人付き合いが変わってきたことで、自分の働き方も変わったりしましたか?

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

竹下:「業界飲み」に行かなくなりました。今でもよくライター飲みや、編集者同士、ネットメディア同士の飲み会に誘われますけど、断るのが苦じゃなくなった。

ーー昔は「行かなきゃいけないんじゃないか」と思った?

竹下:すごい思いました。編集長になってからもしばらく、それも仕事のうちだろうと思っていたんですけど、あまり面白くなかったんですよね。

ーーそういうところで業界はつながりを維持して、仕事につなげたりもしているけれど?

竹下:Facebookで「このメンツが集まったのはすごい」「この会話を誰かに聞かせたい」と、有名な人や、ポジションある人がずらっと並んでる写真、吐き気がするほど嫌なんですよね。2008年はちょうど育児休業を半年ぐらい取った時期でもあったので、そういうのも影響していたかもしれないです。

後編に続く)

 

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