竹下隆一郎・ハフポスト編集長が”好き”と向き合う「ひとり時間」(後編)

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

内向的な人のためのスタンフォード流人脈術』という本を書いたネットメディア「ハフポスト日本版」編集長の竹下隆一郎さん。決して人付き合いが得意でなく、気の合う人と深く付き合うことを勧めるその極意は「ひとりの時間」を確保して、自分の感情と向き合うことにありました。

【前編】竹下隆一郎・ハフポスト編集長の人脈術「心地よい相手だけでいい」

顔を思い出し、ねちっこく考える

竹下:好き嫌いとか苦手と言うと、なんだかすごく子供っぽく聞こえちゃうのかもしれないですけど、自分が「どういう人が好きか」「こういう人がすごい苦手」というのは、割と深く考えているんですね。

なんで自分はこの人が苦手なんだろうと考えていると、次に同じタイプの人に会ったときに、無理して付き合おうと思わないし、逆に「こういう人が好き、もっと一緒にいたい」というのも普段から考えているとわかるので、深く長く付き合ったり。

ーー「自分はこの人が好き、嫌い」ということをじっくり見つめる時間は、どこで作っている?

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

竹下:散歩中ですかね。こういうことを考えるようになって、休日は長く歩くようなりました。会った人の顔を思い出して、ねちっこく考えますね。なぜ僕はこの人に苦手意識を覚えるんだろうとか。ああそうか、あのときこんなことを言われたからだな、とか。

普段から、暇さえあれば1人でじっくり考えるのが好きで、たまに会社の外に出て、5分とか10分、周りをぐるっと散歩するので、そこで今日会った人とか、1週間で会った人のことを考えて、こういうところが苦手だったとか、よかったということを、すごい細かく考えるんです。

集団の飲み会もほとんど行かないですけど、行った時は、たまに相槌を売ったりするんですけど、全然違うことを考えて、1人の世界に入っていってますね。

ーー大学生の時、バイト先の社会人の先輩から「苦手な人とも、嫌いな人とも、くだらない人と付き合わなければいけないのが、学生と社会人の違いだ」と説教されて、「そういうものか」と思って社会に入ってやってきたつもりだったけど、そうではない?

竹下:僕もそういう話、よく言われました。そこまでしなくてもいいし、それでも成り立っちゃう気がするんですよね。

世の中にはいろんな人がいて、好きな仕事だけを選べない、苦手な得意先や上司に頭も下げなきゃいけないというのもわかるんですけど、無理して好きにならなくても、「無関心でいる」ことならできるし、今の世の中には他にもいろんなチャンスがあると思うんです。

「島耕作」はもう通用しない

ーー肩書上、どうしても付き合わなきゃいけない人はいて、絶対に逃れられないような気がする。「課長・島耕作」は、立ちふさがる嫌な上司やライバルたちを、努力や運で味方につけていく。そういう努力ももはや必要ない?

竹下:「島耕作」はもう通用しないと思うんですね。かつてそういう時代はあったと思うんですけど、これからは違うストーリーが必要なんじゃないかなと思います。

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

「人生100年時代」とか言われて、多分これから70歳定年の時代になるじゃないですか。80歳くらいまで働く人も出てくると思うんです。そうなったとき、垂直に出世するだけの「島耕作ストーリー」だと、上が空かなくてつまらないんですよね。

「島耕作」って新しい主要な登場人物が全然印象に残らなくて、課長時代の上司がそのままずっと歳をとって相談役まで残っていたりする。もっと横に広がるとか、上に上がって1回下がるとか、全然違う会社に行ってゼロから、とならないと、個人としても嫌だし、社会としてもまずいんじゃないかと。

ーーその点、アメリカの流動性はすごいよね。

2017年2月16日、午前4時すぎ。ニューヨークからやってきたハフポスト本国のメンバーを、築地市場の寿司店で迎える竹下隆一郎編集長(中央)と私(上)。5人ぐらい来た主要メンバーは、もう誰も残っていない…。

竹下:ほんとそうなんですよ。ハフポストに来てすぐに、日本に出張で来たアメリカ本国の人たちを、頑張って早朝の築地市場で接待したけど、半年くらいで見事にみんな辞めていなくなっちゃいましたからね。

ーー日本の会社員は2、3年で順調に出世の階段を上っていったから、肩書きでつながっていることはそれなりに重要だったんだよね。

竹下:アメリカだと「ニューアドベンチャー(新しい冒険)に出ます」というメールで退職報告するんです。そういう感覚がすごいと思いました。偉くなっていくだけじゃなくて、違う業界や会社に、横に広がっていく。で、上がぽっかり開くんですよ。そうすると、下から上がる確率も増える。

もう1回つながる社会に

竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長(撮影・斎藤大輔)

ーー日本もそうなっていくのかなあ。この本に書いてある人付き合いの方法論も、社会の根本を変えるところまでなかなか行ってないというのが、読んだ正直な感想なんだけど。

竹下:そうですね、ちょっと近未来のことを書いた感じです。

ーーそういう発想は、生い立ちから来ているの?

竹下:そうですね。3歳の時から日本とアメリカを行ったり来たりして、アメリカの中でも引っ越したりしていたんです。中学で日本に帰ってきたんですけど、小学校も中学校も3校ずつ行ってますし。だから「上に上がっていく」という感覚がないのかもしれません。

ーー同じ組織で同じ仲間とずっと歳をとるという感覚がそもそもない。

竹下:ないですね。成人式も行く「地元」がなかったし。

ーーなるほど、それは日本型企業社会とは全然合わないね。でもそんな日本型「終身雇用」も崩壊しつつあるよね。

竹下:終身雇用って大企業中心の話だったことは確かなんですけど、そういう考え方は日本社会を支配していた気がするんですよね。みんなと一緒に育っていって、みんなと20代で結婚して子供を産んで、みんなで歳をとっていくというイメージ。

ライフスタイルが固定化しないのは、個人が尊重されていい社会だと思うんですけど、これからそうした集団がバラバラになっていく。人間誰しも1人じゃ生きていけないから、それはあまりいい社会じゃない。

この本のテーマでもあったんですけど、何とかチームを維持できないかなと思ったんですよね。どういう形かわからないですけど、一度バラバラになった人たちが、もう一回つながっていく時代にはなってほしいと思っています。

 

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