浪曲は「和製ひとりミュージカル」お笑いから転身した浪曲師・玉川太福さん

(撮影・斎藤大輔)

いま、演芸の世界は、演者・客席ともに若返りつつあるといわれています。もう何回目だろうというほどたびたびブームになる「落語」をはじめ、テレビやラジオでも人気の神田松之丞さんの登場で勢いづいている「講談」、そしてにわかに盛り上がりつつあるのが「浪曲」です。浪曲とは、三味線に合わせて節(=歌)と啖呵(=台詞)を交えながらストーリーを進める語りの芸。その芸事の世界に、今年は7人の新弟子が入ってきたといいます。

「これは前代未聞のこと」と話すのは、浪曲師の玉川太福(たまがわ・だいふく)さん(40)。2007年に2代目・玉川福太郎に弟子入りし、浪曲界の若手代表として注目を集める存在です。20代後半にして浪曲にハマり、30代を浪曲とともに駆け抜けた太福さんに、浪曲の魅力や初心者におすすめの楽しみ方を教えてもらいました。

はじめて聞きにいったら「浪曲を全身に浴びた」

――まったく浪曲を知らない人に、太福さんならなんと言って説明しますか?

玉川太福さん(以下、太福):たまに言うのが「三味線伴奏付き和製ひとりミュージカル」。ひとりで語って演じて、唄いますからね。ほかには、演じ方が大仰なので、その大げさな感じが歌舞伎に近いということで「三味線伴奏付きひとり歌舞伎」という人もいます。

――太福さんの公式サイトに掲載されている「私が浪曲師になったワケ」によると、初めて浪曲を聞いたのは劇団「WAHAHA本舗」の立ち上げメンバーでもある俳優・村松利史さんに勧められたことがきっかけだそうですね。

太福:そうです。もともとお笑いに興味があったんですよね。小学生のころからコント作家になりたくて、大学卒業後は放送作家の事務所で働いたり、コンビを組んでお笑いの舞台に立ったりしていました。

そんなことをしているなかで、現代口語演劇の笑いの要素が自分に一番しっくりくるなと、演劇の笑いのほうにもハマっていって。その延長線上で村松さんにお会いして、落語や浪曲のことを教えてもらいました。

(撮影・bozzo)

――“初”浪曲はいかがでしたか?

太福:浪曲で体験した感動や衝撃は、お笑いや演劇・映画・落語・本など、それまで自分が知り得たエンターテインメントにはなかった体験でした。

そのときは浅草にある浪曲の定席(常設の寄席)「木馬亭」で生の浪曲を鑑賞したんですけど、130席くらいのキャパなので声の迫力がすごくて。振動が体に伝わるような距離で浪曲師の生の声節を全身に浴びました。

それまでは人の表現を見て「すごいセンスだな」とか「これ面白いな」とか、作り手側の目線で感心したり分析したりしながら見ていたんですけど、浪曲は童心に帰ったかのように笑いながら純粋に楽しむことができたんです。

――浪曲の声の大きさや唸り(うなり)のグルーヴ感に惹かれたんですね。

太福:それが大きかったと思います。はじめのうちは、聞き取れないところや意味がわからないところもありました。でも、よくわからなくても声の迫力や節回しだけでキャッキャッと笑っちゃうところがあるんです。

ところが、聞き終わってから作家的な目線で冷静に考えると、「この話、別にそんなに面白くないぞ」って。しかも古典への興味も予備知識もないのに、こんなに引き込まれるのはどうしてなのか。そんな“わからなさ”も含めて浪曲にハマって、中毒になっていきました。これ、浪曲にハマる人のパターンでもありますね。「なんかよくわからないけど、すごい」っていう。

自分が興味なかったお話をここまで楽しく聞かせてくれる浪曲って、話芸としてすごいぞと思い、これに自分が作ってきた現代的な笑いの要素が強い物語をのっけたらどうなるんだろうと考えるようになりました。それも浪曲師になった理由のひとつですね。

ストーリーがわからなくてもいい

――初心者が浪曲を楽しむためには、どんなところを押さえておけばよいですか?

太福:三味線を弾く「曲師」の方がいたり、色鮮やかな「テーブルかけ」が舞台上にあったりと、視覚的に違和感や物珍しさがあるかと思うんですが、基本的にはあまり考えずに感じてもらえれば。筋(すじ)を追うよりも三味線の音色や浪曲師の声節を感じてください。話があまりわからなくても、「浪曲を浴びた」という感覚が残るはずです。

最初は小さな会場がおすすめですね。それと、いきなり浪曲だけの会に行くよりも、落語など他の話芸と一緒になっている会や寄席なんかだと、浪曲も初心者向けに演じられることが多いですし、慣れていなくても「アウェイ感」が少ないかと思います。とはいえ、浪曲の定席がある木馬亭もいまはけっこう初心者の方がいますよ。私が入門したころとはだいぶ客席も変わっていますね。

(撮影・斎藤大輔)

――初めて浪曲を聞いたときは声の迫力に圧倒されたとのことですが、演じる側になって、改めて感じる浪曲の魅力はなんでしょう?

太福:やっぱり声と節、そして一番いいなぁと思うのは三味線ですね。言葉にできないような良し悪しの部分。聞いた時の印象というのは、相当な割合で三味線が影響します。

同じ三味線の師匠と演(や)るにしても、毎回お互いの呼吸やテンションが若干違うので、それだけで出来上がるものが変わってきますし、お客様や会場の大きさ、出演の順番など舞台に関わるさまざまな要素によって毎回違った感じになるので、そういったところが自分でも飽きないんですよね。

――やはり生で聞くのが浪曲を一番楽しめそうですね。とはいえ、寄席や定席などになかなか足を運べないという人もいると思います。そんな方へのおすすめのCDや音源などあれば教えてください。

太福:イチオシがありまして……。『地べたの二人』という新作浪曲シリーズを収めた私のCDを買ってもらうのが一番(笑)。すみません。真面目に言うと、YouTubeにも音源はたくさんありますし、最初からCDを購入するのに抵抗があるなら図書館に浪曲のCDがけっこうあるので、それで聞いていただければ。

物語や落語が好きな人なら、2代目広沢虎造先生の『清水次郎長伝』から入るというのが私としてはやっぱり一番いい入り方だと思います。音楽やグルーヴ感が好きという人なら、初代の京山幸枝若(きょうやま・こうしわか)先生。ただ、やはりイチオシは「地べたの二人」なんですけどね(笑)。

(撮影・bozzo)

――(笑)。そのお2人を選んだ理由は?

太福:どちらも笑いが入った芸だからです。浪曲って「泣きの芸だ」と極端に言う人もいるくらい、泣かせる芸のほうが割合としては多いんですけど、いまの時代、浪曲に馴染みのない世代には、演じ方を含めて笑いの要素のほうがリアルなので。

表現のなかに笑いが入ると古くならないといろんな人が言っていますけど、とても大事な要素だと思います。そんななかで浪曲ならではの迫力もあるし、節回しの楽しさももちろん入っていて、たまに泣きもある。バランスがいいんです。

浪曲を聞くなら、急ぐべし!

――客席にも若い人が増え、入門者も増えている。浪曲の未来は明るそうですね。

太福:いや、それが明るい面と明るくないぞという面が両方あるんです。プロの浪曲師を目指す人がここ30年くらいではありえないくらい増えているのは、喜ばしいことです。

ただ、私が入門した10年ほど前は、内弟子修行をして浪曲師になった世代の超ベテランの師匠方がいまよりもたくさんいました。浪曲全盛期の最後の香りを嗅いでいるような方々です。こうしたベテランの師匠方が高齢となりお亡くなりになるなかで、若手が圧倒的に増えた分、浪曲界全体としては芸の質やレベルは下がっているんですよね。

そして、いま弟子入りしても、芸を学べる弟子入り先がなかなかないというのも現状です。常に師匠には及ばないにしても、その時代時代で、浪曲師として胸を張れる芸をそれぞれの世代で作っていくしかないんですけどね。

(撮影・斎藤大輔)

――ということは、ある意味、浪曲を聞くならいまのうちでもあるんですね。

太福:いま、ぜひ聞いてもらいたいです。特にベテランの師匠たちを。10年後じゃ、浪曲界もかなり変わっちゃっているでしょうね。

――ベテランの師匠方のなかで、「この師匠はぜひ聞いてほしい」という方は?

太福:東京だと(2代目)東家浦太郎師匠と、澤孝子師匠です。浦太郎師匠は、浪曲全盛期のころに天才少年と呼ばれた人で、天性の声節が魅力。孝子師匠はもう80歳近いんですけど、声節の迫力とクオリティーが衰えることなく一流の状態を保たれているんですよ。師匠の2代目広沢菊春先生から受けついでいる落語浪曲は、何としても聞いていただきたいです。

両師匠とも浪曲師としてのキャリアを積み重ねることでしかたどり着けない声や節を持っている方たちなので、物語の導入部分である「外題付け」を一節聞けば理屈抜きで引き込まれます。浪曲で大事とされる「一声、二節、三啖呵」の意味がわかると思いますよ。

 

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