世にも奇妙な腕時計ギークウォッチのコレクター「独特のセンスに魅せられて」

ユニークな機能が付いた腕時計「ギークウォッチ」コレクション(撮影:中村英史)

「ギークウォッチ」。音楽を再生できたり、時刻を声で教えてくれたり、TVが観られたり。一風変わった腕時計をそう呼ぶのは、アクセサリーデザイナーのドナルド・ムネアキさん(44)です。ドナルドさんによると、占い機能がついていたり、パンチ力を計測できたりする腕時計もあるのだとか。

「ギーク(geek)には『オタク』という意味があるように、『技術者たちが作りたくて作ったんだろうな』とか『これ、ぜったい会議で怒られただろうな』と思わせる腕時計が1980〜90年ごろにたくさん出ているんです」(ドナルドさん)

ドナルドさんは、コレクターとしてギークウォッチを500以上持っているだけでなく、すべて自身のショップ「+RIP STORE」で販売しています。「死」を連想させるアクセサリーを手がけてきたドナルドさんは、なぜギークウォッチに魅せられたのでしょう。聞いてみました。

ワタリウム美術館(東京都渋谷区)の地下「オン・サンデーズ」の一画にあるドナルドさんのショップ(撮影:中村英史)

ギークウォッチには「忘れられた昔の人のセンス」がある

ーー「ギークウォッチ」とは、具体的にどんな時計ですか?

ドナルド:今から見るとムダな機能が付いていたり、時代の徒花(あだばな)みたいな、あまり評価されなかった腕時計のことをそう呼んでいます。ただ、知れば知るほど、その範囲が広がっていますね。

地球儀が埋め込まれた時計なんてやばくて(笑)2001年に「Think the earth」っていうプロジェクトが立ち上がって、セイコーが作った腕時計なんですけど、(文字盤の)地球儀が地球の自転と同じように左回りで時間を表示するんですよ。神様と同じ視点。「地球のこっち半分は今、太陽が出てる」という風に目視できるんです。

地球儀が針の代わりにまわるギークウォッチ(撮影:中村英史)

ーー「ギークウォッチ」にはどんな魅力があるのでしょうか。

ドナルド:海外の影響を受けていないから、日本人の生真面目さみたいなのが出ているんです。僕らは西洋化されすぎちゃって、逆に海外の人が「オリジナリティがあるな」と思うものをおざなりにしているところがあるじゃないですか。「ギークウォッチ」には、そういう忘れられた昔の日本人独特のセンスがかいま見えて面白いんですよ。作った人たちと会話をしている感じというか。「こんな時代によくこんなことを考えついたなぁ」とか。

1984年にセイコーが出した「UC-2000」なんか、世界初の腕コンピューター。2000文字が打てるキーボードがあって、84年当時でワイヤレス通信ができたんです。アップルウォッチの「はしり」だし、アップルの人たちはこれを研究したと思います。

そういうのを見るとね、おしゃれでかなりセンスがいいんです。

ーー「このメーカーはギークウォッチをたくさん出してきた」という傾向はあるのでしょうか? 先ほど話に出たセイコーとか。 

ドナルド:セイコーは、家電業界でいうソニーですね。正攻法で、あまりふざけたことはしないんです。アバンギャルドでふざけるのはカシオです。カシオって家庭用の電卓を100万台以上売って、そのお金を使って腕時計に参入したんです。いわば「挑戦者」だから、いかに面白い技術を開発するかみたいなところに力を入れたんですね。

ーーそんな「ギークウォッチ」の魅力にとりつかれたのは、なぜですか? きっかけは?

ドナルド:僕は「+R.I.P. charm(プラスリップチャーム)」っていう自分のブランドでアクセサリーを作っていて、アンティークを分解してパーツとして使っているんです。そのなかで16〜17世紀の懐中時計のパーツを使って、古いオメガの腕時計をカスタム(改造)したんです。それからベースとなる腕時計を探しているうちに「変わった時計がいっぱいあるな」って気づいて。ハマっていったんです。

美意識を広めるための「こだわり」

ーードナルドさんは、なぜいまの仕事をするようになったのですか?

ドナルド:たまたまなんです。もとは雑誌の編集者で、辞めてからいろんなことをしたんですよ。映像制作とかウェブの編集とか。そのころタイプライターにハマって、タイプライターの歴史をまとめた映像作品を作ったんです。インクリボンのケースのデザインだとか、タイプライターを使ったアスキーアートだとかを調べて。

そのときに取材させてもらったタイプライターの修理職人さんが、古いタイプライターのキーをくれたんです。「これで何か作ってみたら?」って。その職人さんはすごくおしゃれな方だったんで、その方にカフスボタンを作ったんです。それがすごく人気で、その人づたいでお客さんの注文を受けるようになったんです。

古いタイプライターの「キー」(撮影:中村英史)

ーーもともと細かな作業が得意だった?

ドナルド:自分が物を作る人になるなんて、これっぽっちも思ってなかったですね。いきがかりで始めたんですけど、たぶん性に合ってたんです。よく考えたら、小学生のときからアンティークショップに通ったり、柱時計を分解して中身をむき出しにして飾ったりしていましたから。そんなことはずっと忘れていたんですけど、少しずつ思い出して、「一気に解放!」みたいな感じで。隠れていた性癖みたいなものなんでしょうね。

それで分解して再構築することにハマっちゃったんです。うちのおじいちゃんの形見だった懐中時計をパカって開いたら、宇宙みたいになっていて。機械式時計のムーブメントって、宇宙入っているんで(笑)

ーー雑誌の編集者からアクセサリーの職人に。まったく異業種への転身ですね。

ドナルド:実は、それほど遠いとは思っていなくて。「編集」って仕事は、ものを見る角度の問題。みんなが見ているもの、世の中にあるものは一緒なんだけど、目の付けどころと、それをどう切り取ってどう編集するかっていうところにオリジナリティが出る。だから今も頭のなかではつねに「編集」をしているんです。情報とか人物を切り取っていたのが、物になった。立体として触れるから、面白いですよ。

ーー仕事やプライベートで「こだわり」を持っているところは?

ドナルド:僕、所ジョージさんがやっていた雑誌『Lightning(ライトニング)』の編集部に潜り込んでたんですよ。当時は大学生で、国産の安いバイクを改造して乗ってたんですけど、所さんのところに出入りしている人たちからしたら、センスのないバイクだったんです。

でも、所さんはそれを褒めてくれて。「シートがいい」って。「どんなものでもいいんだけど、そこに1個でもこだわっていたらいいんだ」と。「そこから美意識が派生するから、1点でいいから何かにこだわれ。そうすることで広がる世界があるから」って言われて。それは肝に銘じていますね。どんなものでも、自分なりにこだわっている部分があればいい。

ショップの引き出しにならぶ「ギークウオッチ」の数々(撮影:中村英史)

ーー最初から完璧である必要はないということですね。

ドナルド:そんなものは世の中にないと思うんです。どんなおしゃれな人でも、最初はきっとたった1点のなにかから始まって。そこから派生したと思うんですよね。きっと。

ーー「ちょっといいものを持ってみよう」ってところから始まる。

ドナルド:そういうのって、「お金がないとできない」という人もいると思うんですけど、僕、お金がないときもやってたんですよ。

「優雅な生活こそ最高の復讐である」っていう古い言葉があって。裕福だった人が幽閉されて、みんなが憐れむような生活をしているときに、紅茶をたった1杯飲むだけでもいいんですけど、優雅な時間を過ごす。「それが俺を追いやった人たちへの最高の復讐だ」って。「Living Well Is the Best Revenge 」。お金がないからできないとは言えないですよ。

なんでもいいと思うんです。「好きな歌を歌う」とか。その優雅な時間は何事にも代え難いし、それを思い描くこと、積み重ねることで、「あの人は自由な生活をしているよな」っていうのが始まるんじゃないですか。

 

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