伝説のフェス「ウッドストック」から50年、今もなお語り継がれる理由

田舎の野外音楽フェスを「伝説」にした、50万人ともされる聴衆群(撮影・Henry Diltz)

夏の風物詩となった野外音楽祭=”夏フェス”の元祖、ウッドストック・フェスティバルが開かれたのは半世紀前の今日、1969年の夏だった。当時、アメリカの政治はざわめき、若者たちは心にマグマをためていた。2019年夏に渦巻くイシューは何? 引きこもり、ブラック職場、8050問題…。もやのような閉塞感が時代を覆う令和の夏、ウッドストックの意味を再考したい。

”人類史に残る事件”とも言われた伝説の夏フェス

「今から100年たっても、人々はウッドストックのことを話しているだろう。そいつはまちがいないね。ただし、この地球がまだ残っていればの話だけどさ」。あの8月なかばの週末、素晴らしいハーモニーで50万人の聴衆をハイにしたグループ、CSN&Yのグラハム・ナッシュは、この50年ほぼ変わらぬ笑顔でそう言うと、僕にウインクしてみせた。

「ウッドストックって何? 『ピーナッツ』のあのコミック・キャラ?」。最近はそう言う人たちも多いだろうから、説明しておこうか。何を隠そう、ウッドストックとは1969年8月15日~17日、ニューヨーク州北の田舎町ベセルの農場で開催されたウッドストック・ミュージック&アート・フェスティバルのこと。

な、なんと40~50万人という若者が集まり、大交通渋滞を引き起こし、悪天候や食料不足など数々のアクシデント。にもかかわらず、暴力沙汰、殺傷、逮捕騒ぎは皆無。ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリンら当時の人気ミュージシャン、グループ32組の演奏を楽しんだ“愛と平和の3日間”のこと。それは数週間前のアポロ飛行士の月面着陸にも匹敵する“人類史に残る事件”と言われるようになったのだ。

フジ・ロックフェスティバルも「ここ」から生まれた

時代を象徴する女性ロッカーのひとり、グレイス・スリック(ジェファーソン・エアプレイン)も歌った(撮影・Henry Diltz)

これがきっかけで誕生したあのピーナッツの新キャラが、コミック史の転回点になったかどうかは知らないけれど、翌70年にフェスのドキュメンタリー映画とそのサントラ盤が発表されると世界中で大ヒット。

ヒッピー、カウンターカルチャー世代と呼ばれていた若者世代の動きを活気づけ、ベトナム戦争反対の声を高める一方、「ロック音楽はカネになる」とレコード産業や音楽界のマネーゲームをブーストさせた。世界各地でフェスティバル・ブームを巻き起こし、以後、イギリスのグラストンベリー、アメリカのロラパルーザ、ボナルー、コーチラ、日本ではご存知、フジロックフェスティバル……。そう、今ではすっかり定着した夏フェス、その最初のきっかけを作った、ビッグ・バンのような、神話的大イベントなのだ。

「奇跡だよな、あれだけの人数が一緒になって事故ひとつなかったなんて。ビートルズのコンサートだってもっとずっとヤバかったぜ!」。後で出演できなかったことを悔しがったジョン・レノン。かと思えば、当時の多くのファンの期待を裏切って出演しなかったのにぬけぬけと「あの時はひどい雨で、みんな泥だらけだったよな」と、さも出演したかのようにホラ吹かし続けるボブ・ディラン。

「だ、だめだ! もうこれ以上進めない!」。あの夏の日、僕の目に飛びこんで来たのは、ぬかるみにはまっていたパトカーを車ごと運び出して、地元のオマワリさんたちに感謝されていた礼儀正しい若者たち。「あんたたちの隣りでお腹すかしてる子たち、それがあんたの兄妹なんだよ」。ジャニスやピエロの格好の司会者の呼びかけに応えて、食べ物や毛布をわかちあう観客。

「みんなFと言ってくれ、Uと言ってくれ……つづりは何だい?」。カントリー・ジョーの問いかけに、聴衆の大合唱「ファーック!」。当時人前での使用は絶対に禁止だった四文字言葉が、丘を、森を揺らした。だって暑いんだもの、それが自然なんだもの…。KYなんて知らない、これが私のしたいことだから…と会場に隣接した池には、一目も気にせずスッポンポンになって水浴びをはじめる女の子たち。

ベトナム戦争、JFK暗殺……。1969年、時代はロックを待っていた

ウッドストックの全容をとらえた「ウッドストック50周年記念スペシャル・ボックス(ワーナーミュージック・ジャパン)」

そう今年で50年経っても、いまだに語られるのは、あのフェスの真の主役が40万、50万人の参加者だったからなのだ。当時25才までの成人が人口の過半数。それなのに政府はベトナム戦争への介入を強め、戦況は悪化。人種差別撤廃を唱えたマーティン・ルーサー・キング牧師、ジョン・F・ケネディ大統領、ロバート・ケネディ上院議員ら、政治の表舞台で活躍する要人が次々に暗殺され、そして届く徴兵令状……。

政治、社会の動きにうんざり、国って、自分って何? そんな疑問を胸に、69年夏、自分たちの気持ちを表すフォークやロックのミュージシャンたちの声を聴きに出かけた若者たちは、こうして出会い、“歴史”を作ったのだ。

音楽が平和のためにできることって何だろう? あの夏、フェスのフィナーレでジミ・ヘンは、爆音でアメリカ国歌を引きちぎるかのようにギターを鳴らしながら、そう問いかけていたような気がする。今日、8月15日は終戦記念日、そしてウッドストック記念日。世界中のあちらこちらで行われる記念イベントで、サンタナやジョン・メイヤー、新旧の若者ロッカーたちが歌い、演奏することだろう。

リメンバー、ウッドストックーー。戦争は愛も平和も運ばない、音楽が運ぶんだぜ。

それがあのイベントの目撃者のひとりだった、僕のささやかな祈りだ。

 

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