銀座の中心で芸術写真を売る リコーのギャラリー(ショールーム散歩・2)

販売作品が展示されているギャラリーゾーン。右手には展示関係だけでなくキュレーターが厳選した写真集が並べられています。(RICOH GR IIIで撮影)

銀座のど真ん中で芸術写真を販売する、日本唯一のカメラメーカーのギャラリーがあります。セールスマンはいません。美術館のようにキュレーターがいますが、1人でもくつろいで写真を楽しめます。「リコーイメージングスクエア銀座」にある「ギャラリー A.W.P」です。日本一地価(路線価)が高いという銀座5丁目「鳩居堂前」のお隣、総ガラス張りの円筒形ビルの8階です。

銀座四丁目交差点にある「三愛ドリームセンター」(RICOH GR IIIで撮影)

ビルの名前は「三愛ドリームセンター」。1932年に建てられた時計塔のある和光ビルに並ぶ新しいランドマークを造ろうと、1963年に建築家・林昌二さん(1928~2011)の設計で建てられました。 1本の柱で支える構造は、法隆寺の五重の塔から着想されたそうです。

ビルの名前に付いている「三愛」とは「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」というリコーの創業者・市村清さん(1900~1968)が唱えた創業精神です。「三愛」というと水着のお店が有名ですが、元は同じ「リコー三愛グループ」の企業でした。

銀座ど真ん中のショールーム

ガラスの向こう側には、和光や三越、日産ギャラリーのあるGINZA PLACEが見渡せる都会的な景色です。(RICOH GR IIIで撮影)
ショーケース内にあるレンズやカメラは実際に試してみることもできます。(RICOH GR IIIで撮影)

「リコーイメージングスクエア銀座」は9階にショールーム、8階にギャラリーの2つの顔を持っています。まずは9階から訪ねてみましょう。

エレベーターのドアが開くと、グッズなどが並ぶフロアが見えます。右手に並ぶガラスケースなどには、最新のデジタルカメラや歴代のカメラがずらり。時計周りに進んだ一番奥には、フォトスクールなどが開かれるワークショップスペースがあります。

初心者向けのカメラの使い方講座から、中級上級者向けのステップアップレッスンまで、さまざまな講座を開設しています。 手前にはフォトスクール参加者の作品や、若手作家の作品発表の場となっている「ミニギャラリー」もあります。

「ここは銀座の一等地ですから、講座に来られる方が仲良く意気投合され、一緒におしゃれなお店にお食事に出かけることも多いみたいですよ」と話すのは、所長の森義徳さん。

ペンタックスとリコーのカメラを使った作品発表の場になっています。(RICOH GR IIIで撮影)

コーヒーを飲みながら作品を楽しむギャラリーゾーン

「ギャラリー A.W.P」のある8階にはエレベーターでしか降りられません。エレベーターの扉が開くと、ちょっと照明が暗めで、ちょっとお値段高めカフェバーの雰囲気。ソファーやテーブル、カウンター席など約20席があり、セルフサービスでコーヒーや紅茶などを片手に作品を楽しむことができる隠れ家のような、ゆったりくつろげるラウンジスタイルのギャラリーです。

ここは日本で唯一の、入場料が必要なカメラメーカー・ギャラリーです。入場料は税込510円、小学生以下は半額。年間パスポートもあり税込3600円です。「A.W.P」とは、「Around the World Photo」と「Amusement」「Wisdom」「Wonder」「Place」というコンセプトワードにちなんで命名されました。

「世界中の写真を巡り、さまざまなコンテンツを楽しみながら知識を高め、驚きも得られる場所であるように」という願いが込められています。

販売作品が展示されているギャラリーゾーン。右手には展示関係だけでなくキュレーターが厳選した写真集が並べられています。(RICOH GR IIIで撮影)
入り口近くや中ほどにはソファが置いてあり、くつろいで写真を見ることが出来ます。一番突き当たりにある席は筆者もお気に入りの場所です(RICOH GR IIIで撮影)
紅茶・コーヒー・お茶はセルフサービス。デロンギのエスプレッソマシンは日曜祝日だけ特別な豆を入れているのだそうです。(PENTAX K-1 Mark II、HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WRで撮影)

「銀座だから成り立つ」写真販売

このギャラリーでは、展示されている写真のキャプションに「販売価格」が付いています。写真を売る「セルギャラリー」なのです。入場料を払って作品を鑑賞する「美術館」でもあり、写真をアート作品として販売する「画廊」の機能もあるのです。

アドバイザーの池永一夫さんは「写真の販売は、この地が画廊や骨董店が多い銀座だから成り立つんです」と話します。

2008年に「RING CUBE」(リングキューブ)という名称で始めたギャラリーは、2012年まで他メーカー同様に、無料で鑑賞できる企画展を中心に運営していました。2011年にペンタックスブランドを買収したことで、新宿のペンタックス・フォーラム(現在のリコーイメージングスクエア新宿)とのすみ分けの必要が生じました。

その結果、銀座は「新しいことをはじめよう」と思い切って、入場料を取る美術館と、作品を販売する画廊の中間をいく「セルギャラリー」として2013年4月に再出発しました。

「日本では写真の価値が低く見られがちな印象があります」と所長の森さん。現代美術の世界では、写真はアートとして当たり前に認知されているジャンルですが、有料化した当初は、メーカーギャラリーで入場料を取ることに抵抗を感じる人もいたそうです。

エディションが切られた写真のキャプション(一部を切り抜いたもの)。Edの右にある分数がエディションナンバー。次に価格、写真のサイズが記してあります。

写真を販売する際には、まず何枚作って、価格をいくらにするのか決めます。仮に25枚限定であれば、25枚とも同じ値段にする人もいれば、1枚ずつ値段を上げていく付け方、複数枚ごとに値段を上げる付け方をする場合もあります。

展示されている写真には、値段とともに写真のサイズが書かれ「 Ed:2/25」など書かれています。これを「エディション・ナンバー」(Edition Number:限定部数)といいます。「Ed:10/25」と書かれていれば、限定25枚の10番目に作られた写真となります。

一枚一枚には写真家の署名とエディションナンバーが書き込まれます。中には証明書を付ける場合もあります。写真の価値を担保するための仕組みとして、エディションを決めた総数を超える枚数を作ることや、同じエディション・ナンバーを付けることは禁じられています。

ギャラリーを取材をするまでの筆者は「フィルムからもデジタルデータからも、複製はいくらでも出来るじゃないか」と思っていました。「写真を撮る方の多くはそういう認識ですね」と森さん。

「オープン・エディション」と呼ばれる写真の販売方法もあります。ただし、エディションを切った作品に比べ希少性が低いために、安く価格設定することが一般的です。

RICOH GR IIIのカタログは、見開きを含めた18点の写真(うちカメラの正面写真が1枚)で構成された28ページのカタログ。2ページだけ「主な仕様」「MTF曲線」「撮影可能枚数/時間」「システム構成図」が書かれているだけで、カメラの機能についての説明が一切ありません。(写真はリコーイメージング提供)

ギャラリーの指向に通じるカメラのカタログ

このギャラリーの考え方に通じるものを感じられたのが、高級コンパクトデジタルカメラ・RICOH GR IIIの商品カタログです。

通常のカメラにある機能説明はありません。28ページ中、ほとんどが、カメラマン・菅原一剛さんが光をテーマに撮影したパリの写真で構成されています。影に隠れた部分の人影や街の表情もしっかり写り込み、深い奥行きを感じる表現になっています。印刷の技術は通常のカタログを超え、写真集レベルです。

「GRの父」や「ミスターGR」とも称される企画担当の野口智弘さんは、GRシリーズを紹介する「GR Ofical blog」で、「紙でしか伝えられない、写真そのものをしっかり見てもらえるものにする。写真の力を信じ、カタログを手に取ってくれる方のインテリジェンスを信じて挑戦する」と意気込みを語っていました。

GR III販売を記念して、カタログに使われた写真などを展示した企画展「In Paris 菅原一剛 写真展」(2019年3月20日~4月7日に開催)では、写真展を見たあとにGR IIIを買って帰ろうとお金を下ろしてきた青年が、写真の前でしばらく考え込み、「自分もこんな素晴らしい写真が撮りたい」と、GR IIIとほぼ同じ値段がついた写真を買って意気揚々と家に帰ったそうです。

「カメラを買ってくれるよりも嬉しかった」と話すアドバイザーの池永さん。ギャラリーの写真を見て、写真を芸術として愛する人が一人でも増えることを願っているのです。

写真家が写真を売る意義

筆者が訪れたとき、ギャラリーでは、ERICさん、小松健一さん、佐藤理さん、白石ちえこさんの4人の写真家による企画展「スナップショット ―瞬間はいつも輝いている―」(2019年7月10日~8月11日)が開かれており、佐藤理さんが在廊中でした。

写真家・佐藤理さんと展示作品の「群馬県 上野村 1970年代初頭」。金槌で椎茸の菌を原木に打つ女性や縁側で日なたぼっこをしている老夫妻子屋に潜むキジなどを撮った写真が並んでいます。(RICOH GR IIIで撮影)※展示写真は取材当日のものです。

佐藤さんは東京都中野区在住。東京写真短期大学の印刷科を卒業後、印刷会社に入社し、4×5in判や8×10in判の大判カメラで商品撮影を長年続けてきました。

今回の展示作品は、1970年代初頭に群馬県上野村まで8×10in判を抱えて行って、村人たちを撮った写真です。

8×10in判のカメラは大きくて重いので、三脚に据えつけて撮らなければなりません。「挨拶をして写真撮影の許可を取ったあとに、車のトランクから機材を出して設置するものですから、その間にたくさん話をしているので表情が解きほぐれてくるのです」と撮影のコツを話してくれました。

「写真集も良いけど、魅力は印画紙じゃないと伝わりにくい」と、作品はすべて自分の手で印画紙に焼き付けているそうです。

「お金を負担して写真を買うことには、それなりの覚悟がいります。その分、写真は本気で残してもらえます。展覧会で見てもらうだけでなく、次のステップにつながるのです」と意義を教えてくれました。

筆者は20代半ばからほそぼそと、舞台写真を撮り続けてきました。劇団や歌手の方が喜んで使ってくださるのはとても嬉しいのですが、撮った写真は「記録」という意識でした。

しかしそれでは、劇団も歌手も私もいなくなったあと、誰かが残してくれるのでしょうか。アートとして値段を付けて売ったら、誰かが買ってくれるのでしょうか……取材後に、写真の「価値」についていろいろ考えさせられました。

【お土産スイーツ】銀座あけぼの「もちどら」

生地のもちもち感が特徴。銀座あけぼの「もちどら」

銀座あけぼの「もちどら」

「銀座あけぼの」は三愛ドリームビルの2軒隣にあります。「もちどら」は、つぶあん入りのちょっと小ぶりのどら焼きです。一歩店の中に入ったところに置いてあるので、入り口近くの季節感ある大福に気を取られて、筆者は今まで気付きませんでした。

普通のどら焼きにはない、生地のモチモチ感がたまりません。思わずもう1個手が伸びてしまいます。もち粉をメインに少量の国産小麦粉を加えて焼き上げ、北海道産あずきを挟んでいるのだそうです。

もちどらの生地の中にベルギー産の生チョコを挟んだ、バレンタインデー限定の「ちょこどら」もあります。次回は来年の2/10~2/14の5日間を予定しているそうです。

リコーイメージングスクエア銀座(火曜定休)

東京・銀座 三愛ドリームセンター8・9F
午前11時~午後7時

ギャラリー A.W.P では、8月17日から「ベスト・オブ・モノクローム―フランスと日本の架け橋―」と題し、3カ月間にわたり、3人のフランス人写真家による写真展が連続開催されます。

・8月17日~9月22日
「モノクロームのエスプリ 日常の愉しみ」
Philippe Salaun(フィリップ・サルーン)

・9月25日~10月20日
「My Spirits ―JAZZ & CUBA―」
Bertrand Fevre(ベートランド・フェブレ)

・10月23日~11月17日
「NEW WAVE CINEMA & JAPAN50s ―甦る奇跡の日―」
Raymond CAUCHETIER (レイモン・コーシュティエ)

 

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