「好きを仕事にしないと、人生は地獄だ」 藤野英人さんが語る幸福論・下

藤野英人さん(撮影・斎藤大輔)

【前編】ロスジェネ世代が老後を生き抜く「4つの稼ぎ方」 藤野英人さんに聞く から続く)

『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)『お金を話そう。』(弘文堂)などの著書を持つレオス・キャピタルワークス社長の藤野英人さんは、 「お金をどう稼いでいくかを1人1人が考えることは自立することにつながるし、それこそが経営学」と言う。ではその稼ぎ方とは、どんなものがあるのだろう? そしてどうしたら自立した幸せを、人は手に入れることができるのだろう?

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その我慢は果たして、未来のために必要か

――藤野さんが言う「稼ぎ方」とは、一体どんなものですか?

藤野:長く働くことを基準にして考えると、やっぱり「好きなことを仕事にする」ことです。長く続ける仕事が嫌いなことや強制されていることだったら、人生は地獄になってしまう。だから自分がその仕事を好きなのか嫌いなのかはすごく重要です。

もちろん「好きだけど食えない」という仕事はたくさんありますが、その好きな仕事がギリギリ食える程度には稼げるなら、好きを優先してほしい。そうしないと人生が台無しになってしまいます。

年金が足りない中で100年生きるとしたら、どれだけ長く働くことができるかが重要になってきます。また会社という枠を外れても、自分の腕で食べていくことができないと会社の奴隷になってしまうので、1人でも生きていける力を身に着けることが必要だと思います。

――好きを仕事にしていますが、びっくりするほど原稿料が安い媒体もあって、もはや奴隷状態です……。

藤野:日本って「働くことは苦役だ」という労働性悪説を持っている人が、他の国よりも高いんですよね。でも「辛い仕事をするからお金をもらえる」という考えが蔓延してしまうと、人生そのものが懲役になってしまうし、結果的に国力も下がります。

それに辛い環境で頑張ってしまうと、結果的に皆で皆の首を絞めてしまうんですよね。だから嫌だと思ったら別の環境に移動してもいいと思うんです。辛いのに同じ場所で仕事を続けているのは、おそらく「変化」が悪だと思っているからではないでしょうか。

――あー、確かにそうかもしれません……。

藤野英人さん(撮影・斎藤大輔)

藤野:転職したいと言うと「嫁ブロック」がかかったり、家族から説教されるので続けているという人も多いと思います。それ以前に「そもそも仕事は苦しいものだから、辛くても我慢して働くのが当たり前」と思っている人もいます。

辛い状況を唯々諾々として受け入れていたら、経営者側は「これでいいならもう少し下げよう」と思うかもしれない。でも皆が反逆すれば、経営者も考えを改めざるを得ない。その環境が不満だったら勇気を出して声を上げたり、移動したりすることが大事だと思います。

もちろん仕事には我慢して力をつける時期が不可欠で、それなしでは付加価値が上がらないのも事実です。でもその我慢が未来のためにずっと必要かどうかを、考える必要があります。

副業のハードルは、意外と低い

――今の仕事を続けながら、資産を増やす方法ってあるんでしょうか?

藤野:実は今の世の中は、そのチャンスに満ちています。というのは新しい技術による新しいサービスがどんどん生まれているから。

僕は先日、「Taimee」(タイミー)というアプリを開発・運営する会社の小川嶺さんという方に会いました。彼は大学3年生の21歳ですが、3億円の資金調達に成功しています。「今日の17時から21時まで人手が足りない」といった会社と、短時間だけ働きたい人をマッチングする労働のシェアアプリです。単発で短時間働けて即金で支払われるので、たとえば「沖縄旅行の最中に資金が足りなくなったので、午前中だけ働いて午後は遊ぶ」ということもできるようになるかもしれない。

――副業のハードルって、実は意外と低いんですね!

藤野:Taimeeのよい点は、履歴書なしで働けることです。だからずっと非正規雇用を渡り歩いてきて、履歴書に書けるような職歴がない人でも、頑張って働けばTaimee内での評価があがり、正社員に登用される可能性もあります。頑張る気持ちはあってもチャンスに恵まれず、ずっと沈んでいた世代が浮かび上がるきっかけを、若い起業家たちが生み出していることに目を向けて欲しいと思います。

――「Taimee」を開発したような若い世代が頑張ってくれれば、氷河期世代も復活できますか?

藤野:若い世代が氷河期世代を救う可能性もありますが、若い世代が社会の旨みを総取りする可能性もあります。氷河期世代は非常に悪い時期に世の中に出てしまったので、ものごとをネガティブに捉えるくせがついています。一方で今の20代はポジティブ世代で、彼らが社会の中心に来たら、ネガティブ世代が置き去りにされることも考えられます。

ではどうやって氷河期世代が未来をサバイブするか。それは「自分は生まれたタイミングが悪いから」と不幸に浸りきるのではなく、新しい波をチャンスと捉えて気軽にチャレンジしてみること。それをするかしないかで、人生に差がついてくると思います。

「生活の解像度アップ」がポジ変のカギ

藤野英人さん(撮影・斎藤大輔)

――ネガティブ世代がポジ変する方法って、何かあると思いますか?

藤野:それはもう、生活の解像度を上げるしかない。「今日もご飯がおいしくて幸せ」みたいな、小さなことから喜びを見いだせる目を養えるかだと思います。

環境を変えるのも一つの方法です。海外に行けば日本の最低賃金以下で働いていても、とてもハッピーに力強く生きている人たちがいます。だから住む場所を変えてみるのも、良いかもしれません。

地方が必ずしも良いわけではなく、地方には地方の地獄があることが分かります。でも地方で新たなコロニーのようなものを作っていくことが、2020年以降のカギだと思っているんです。

IoT(モノのインターネット)と5G(第5世代移動通信システム)のインフラが整えば、会社に行かなくても仕事ができるようになるだろうし、「Taimee」のようなアプリが発展すれば、一つの会社に縛られずに働くことができる。少子高齢化で空き物件は増えているから、住む家は激安で見つかるようになる。

そうなったら働く場所としての東京に固執する必要もなくなるし、東京と地方の両方に自分の拠点ができていくかもしれない。週のうち2日だけ東京にいて、あとは地方で暮らすというライフスタイルが当たり前になる可能性もあります。

――東京にいなきゃいけない、正社員じゃないといけないといった「〇〇じゃないといけない」に縛られていると、幸せのハードルは確かに上がりますね。

藤野:結婚していないから、子供がいないから、定職についていないから私は不幸だと思っている人がいますが、社会にはいろいろな人がいていいし、幸せに正解はありません。パートナーも男女に限ったことではないし、世代やジェンダー、住む場所が違う友達や仲間がいてもいい。

「〇〇じゃなきゃいけない」ではなく「〇〇でもいい」と思えると、自分の心が楽になっていくだろうし、そう思える人が増えると、社会のあり方も今までとは違うものになっていくと思います。

――「〇〇でもいい」と自分に寛容になりながらも「不幸な世代だから」と思考停止しないで、新しいものに軽いノリでチャレンジする。これができれば確かに変わりそうな気がしてきました! 

藤野:そう、何かに気づくってすごく大事なことなんです。

藤野英人さん(撮影・斎藤大輔)

僕ね、32歳の時に喘息になったんですよ。大学を卒業してしばらくの間は週2回は完徹で働いて、ゴールドマン・サックス時代は秘書が朝・昼・晩の3交代でフル稼働してました。ゴールドマン・サックスの中で、来客カード発行枚数世界1位になったことがあるほど働けたので、当時は働けない人の気持ちがさっぱりわからなかった。

それである時、寝ていたら急に咳が止まらなくなって、窒息状態になったんです。意識が落ちていく感じがわかった瞬間に呼吸が通って。呼吸器内科に行ったら「どちらかと言うと重い喘息です」と言われて。頭を金づちで打たれるほどのショックを受けました。だって当時は病気になる=落伍すると思っていたから。

その後、大腸内視鏡検査で小さながんが見つかって切除したこともあるのですが、その時に「自分もガンになるのだから、一定以上働くとどんな環境にいても人間は壊れるんだ」と気づいて。人に対する見方が変わったし、いろいろな病気の人と向き合う機会が増えました。

そして「器の大きさは人それぞれだから、自分の許容量を他人に押し付けてはいけない」と気付いた。この気付きがなかったら、もしかしたらレオスは超ブラック企業になってたかもしれない(笑)。

自分の思いや言葉で自分を縛ったり、自分の価値観だけで他人を縛ると、いずれ苦しくなるときがやってくる。そう気づけることこそが、今は手元に2000万円がなくても(欲しいけど)これからを生きる杖になるのかもしれない。そんなことを思いながら歩く帰路は、いつもより少しだけ足取りが軽い気がした。気がしただけかもしれないけれど。

 

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