若手画家が描く「格子窓の女性たちの魂」~沖縄・東京二拠点日記30

アーティスト町田隼人さんと、買った彼の作品

【連載】沖縄・東京二拠点日記

5月12日 名古屋で『主戦場』と『金子文子と朴烈』を観た余韻を引きずったまま那覇へ移動。

前者は歴史修正主義者の論理性のなさが前面に感じられて、むしろ笑ってしまった。「左右」両方を同じように淡々と並べているから、よけいに修正主義者たちのアホさがわかる。あるのは差別感情のみ。ところどころ監督のミキ・デザキが、ごく当たり前の疑問を差し挟むのが効果的だ。よく取材を受けてつっこみどころ満載の持論を堂々としゃべるなあ。

後者は朴烈役のイ・ジェフンの演技力が圧倒的。金子文子役のチェ・ヒソの存在感も圧倒的だ。演技はもちろんのこと、台詞がいちいちかっこいい。

5月某日 夕方まで仕事をして「おとん」へ。普久原朝充くんと深谷慎平くんと客の常連とにぎやかにやっていたら、十何日連続で通っている客がいた。聞けば、浦添にこのたびオープンする、サンエーパルコのおえらいさんだった。先代が牧志公設市場で商いをやっていた人も来ていた。

生ハム入りカチューユー?

浮島通り

5月某日 昼まで寝て、浮島通りにある「ガーブドミンゴ」へ、同居人に頼まれたものを買いに行く。稲井つばささん制作のシルバーの指輪。来店してモデルとして本人がつけていたのを店のフェイスブックにあげていたから、気に入ったらしい。耳にもつけられる。買った。

ガーブドミンゴで指輪を買う

夕方、栄町の「ベベベ」へ、普久原朝充くんと関西風おでんを喰いに行く。店主の松井英樹さんがカウンターの中にいた。この日刮目したのは「生ハム 山わさび 宗田節」。生ハムのスライスに乾物でとった出汁をかける。上に鰹節をぱらり。

生ハムのしゃぶしゃぶといったところだが、沖縄で体調の良くない日に食べるという「カチューユー」に似ている。カチューユーとは鰹節にお湯をかけただけの食べ物というより飲み物だが、じつに身体があったまる。

べべべの「生ハム 山わさび 宗田節」

外に出ると山田星河さんとばったり。彼女はぼくが非常勤講師をしている名古屋の大学(山田は滋賀の出身)のライティングゼミの1期生で、卒業後はいろいろ紆余曲折あり、那覇の桜坂劇場で働いている。ゼミ旅行でも来た沖縄にいま住んでいるのだ。

「べベベ」のあと、普久原朝くんと「うりずん庵」で寿司を喰う。最近、「うりずん庵」によく来ているなあ。

5月13日 昼過ぎに宜野湾の「カフェユニゾン」へ。宮城由香さんを『琉球新報』の月イチ連載「藤井誠二の沖縄ひと物語」で書きたいのだがどうだろうという相談。まず、書き手であるぼくという人間を知ってもらう必要がある。

宮城さんはレズビアンであることを公表した女性の人で、かつて沖縄でピンクリボンという活動もしていた。同性愛ということや恋愛の自由についてとやかく偏見を言う人はいるだろうけど、もっと自由にカミングアウトできるようになればいい。

2時間ぐらい話しこんだ。正式なインタビューをさせてもらえそうな手応えを得た。

「女性たちの魂が、作品に乗り移ってくる」

カフェユニゾンの外観。道路を挟んで反対側は米軍からの返還地区。広大な米軍住宅だった

「カフェユニゾン」と、デザイナーのナガオカケンメイさんがやっている家具や雑貨の店は一体化している。1階は沖縄の作家ものも置いてある。

ぼくは手拭いを1枚買って、通い慣れた真栄原新町のギャラリー「PIN-UP」へ、アーティストの町田隼人さんに会いにいった。沖縄出身で地元大学を出たばかりの若手作家だ。画家といったほうがいいか。

町田さんは最近まで、ここで個展を開いていた。ぼくはたまたまSNSでそれを知った。主に女性の絵を、オリジナルのコラージュなどを使って描いていた。ここ真栄原新町で個展を開き、女性たちの絵を並べることに特別な意味があると、新聞のインタビューで答えているのを知った。「この町で働いていた女性たちの魂が、作品に乗り移ってくるような気がした」と。

ぼくは1枚、彼の作品を手に入れたかったが、個展は終わってしまった。しかしギャラリーのオーナー・許田盛也さんに連絡をしたら、今日、作品を町田さん本人が持ってきてくれるというのだ。ちょうどぼくが欲しかった絵は売れずにあった。

ギャラリーに着くと町田さんが待っていてくれていろいろな話をして、絵を買った。

ちょうどグループ展の最中でアーティストの青柳摩央さんとも知り合うことができた。青柳さんは月桃の葉などを使い紙を梳く。その紙を使い、いろいろな作品に使う。格子状の木枠に紙を当てはめた、格子窓を思わせる作品があったけど、これも真栄原新町の女性たちがかつて格子窓の向こうにいたことを想起したと、作り手として言っていた。

このギャラリーの磁場はすごいものがある。

アーティスト町田隼人さんと、買った彼の作品

帰りに1人で宜野湾の真栄原にある「ブックス じのん」へ。店主の天久斎さんに会って、沖縄の「保守」思想についてのレクチャーを受け、何冊かおすすめの単行本を買った。

天久さんが「藤井さん、このあと時間ある?」というので、歩いて近所の千ベロの店へ。激安のつまみに焼酎を飲みながら沖縄のいろいろな思想の生き字引ともいえる彼の話を聞いていたら、ちょっと1杯のつもりが2人とも酔っぱらい、近くのスナックへ移動。天久さん行きつけのスナックみたいだ。

ママさんは大阪出身で夫は沖縄の離島出身だという話(何を話したか忘れてしまった)をして2人でカラオケ大会になった。店も閉店だし、ぼくが帰ろうとタクシーを停めたら、天久さんは店の外の柱につかまってセミの物真似をしていた。

天久さん、ごちそうさま。じつに楽しかったです。

5月14日 昼すぎまで寝て、急いでシャワーを浴びて泉崎にある琉球新報本社へ国際通りを歩いていった。

「琉球新報」の月イチ連載「藤井誠二の沖縄ひと物語」の古堅記者と打ち合わせ。途中でこの企画を立ち上げてくれた新垣梨沙記者(現在は別の部署に異動)も来てくれた。

そのあと泊の「串豚」で仲村清司さんと合流。打越正行さんも来てくれた。「おとん」の池田哲也さんや深谷慎平くんも。泥酔して「一幸舎」のとんこつラーメンをを仲村さんとすすり、帰った。

 

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