メディアも国も、投資を煽りすぎ 杉村太蔵が語る「本当の投資」(前編)

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

「『早く投資を始めないと老後が大変なことになる』だなんて、とんでもないメッセージだと思ってます。誰もがやらなきゃいけないものではない。投資を勧める記事などを見ると、僕は心配になりますね」

投資の魅力とは何でしょうか? そんな投げかけから始まったインタビュー。杉村太蔵さん(40歳)の語り口は冒頭から熱を帯びていて、その答えはちょっと意外でもありました。

元衆議院議員として知られ、タレントとしても活動の幅を広げている杉村さんは、「投資家」というもうひとつの顔があります。そんな杉村さんはなぜ「投資を勧めることが心配」だと思うのか。その真意を知るところから、インタビューを進めていきたいと思います。

「メディアも国も、投資を煽りすぎなんですよ――」

「損するかも」とビクビクするなら、貯金した方がいい

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

――確かに「何となく煽られている感じ」はあるかもしれません。漠然と投資を始めなければいけないと思っていたり、焦りを感じつつも何から始めればいいか分からなかったり。

杉村:「投資をすればお金が増える」なんて、そんな馬鹿げた話はないんですよ。投資でお金を増やして将来に備えようとすること自体が間違っていると思う。

そもそも、多くの日本人はお金についての教育をちゃんと受けていないじゃないですか。PER(株価収益率)って何? ROE(自己資本利益率)って何? 貸借対照表ってどう読むの? そんな状態の人が、どうやって投資するんですか。

「今は iDeCoとかNISAとか、少額で簡単に始められるものがあるよ」という人もいるかもしれない。でも僕はまず、お金というものをちゃんと考えるべきだと思います。

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

お金持ちになるための方法は2つしかないんですよ。1つが「増やす」。収入を増やすには働くしかありません。もう1つは「徹底的に節約する」。無駄なお金を使わないこと。働いて収入を増やし、無駄なものを買わないで節約をする。これがお金持ちになるための基本であり、鉄板です。

収入を増やすためのもう1つの方法として、今日のテーマである「投資」が出てくるわけですが、では投資をする意味のある人、もっと言うなら投資をする資格のある人って誰でしょうか? それはすでに生活に余裕のある人です。投資なんて、こんなにリスクのあるもので大切な資産、たとえば退職金などをパーにしてしまったらどうするんですか? 

僕は投資家ですが、今の杉村家の家計を考えて、仮にリーマンショック級のことが起きてもビクともしない額しか投資していません。それで儲けたお金でちょっとした旅行に出かけたり、住宅ローンを繰り上げ返済したり。そんなもんですよ。

老後の生活費など、将来のお金に不安があるから働いて収入を増やしたり節約したりするのはよく分かります。でも、「将来の生活の不安を投資で埋めましょう」というのは、僕はとても危険だと思いますね。

――正直に言って、少し意外な気がしています。杉村さんは想像していたよりもずっと堅実にお金をとらえているのだと。

杉村:「損するかもしれない」とビクビクしながら過ごすくらいなら、働いて節約して貯金した方がいいんじゃないですか。

節約の面でもう1つ大事なことは、それこそ意外とやっていない人が多いんですが、「自分の支出を見直す」ということ。

現在のスマホの契約プランは本当に自分にマッチしていますか? ほとんど使っていないアプリに月額200円や300円を払っていませんか? いつもスーパーでは現金で買い物をしているかもしれないけど、クレジットカードやキャッシュレス決済を利用することで発生するポイントはありませんか?

そうやって見直していくと、1カ月で5000円程度の支出を減らすことも、そんなに難しくないんですよ。1カ月で5000円、人によっては1万円。これは大きいですよ。

僕はこれまでにいろいろな人の例を見てきましたが、どんな生活をしている人でも月の支出の5〜10パーセントは削れます。毎月20万円の支出がある人なら、1〜2万円は見直せるということ。月に1万円を貯蓄に回せば10年で120万円。現在30歳の人なら、これを40年続ければ480万円になるわけですから、結構な額ですよね。

――節約というと「生活のグレードを落とす」イメージを持ちがちですが、そうではなく、日常に潜んでいる無駄を見直すのだと。

杉村:そういうことです。無理に節約しようとしても続かない。生活のグレードを落とすこともなかなかできない。

だけど、いろいろな契約書や同意画面によって口座引き落としが始まり、ほとんど忘れかけているようなものだってあるんじゃないですか? 面倒臭がらずに、そういったものを一度全部調べてみましょう、と。

月1万円を見直せば40年後に480万円。頑張って月2万円を見直せば40年後に960万円。無駄な支出を見直すことで、これだけの資産形成につながるんです。それで捻出できた資金なら、投資に回してもいいかもしれない。そういうやり方が日本人には合ってるんじゃないかな。

「分からない」「見通しがない」ことが不安につながる

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

――最近では、金融庁の報告書を発端に「老後2000万円問題」が話題となりました。これも投資を煽るメッセージなのでしょうか。

杉村:あれは「変な報告書だなぁ」と思いましたね。僕も熟読してみましたが、いくつかおかしな前提があるんです。

モデルケースにある「夫65歳・妻60歳」の夫婦は、現役時代にもらった給料を1円も貯金していないんですよ。退職金も間髪入れずに使い込んでいます。その上で月21万円の年金収入では足りないと言う。周りを見れば「平均で月26万円使っているから」ということで、毎月5万円が足りないという話になる。

もし杉村家がこの状況だったら、何かを削るなりして月21万円の範囲で生活しようと努力しますよ。それでもやっぱり足りないと思うなら、僕だったら働きますね。

夫65歳で妻60歳、まだまだ元気なわけです。お金を稼ぐのが簡単だとは言わないけれど、今この日本で、夫婦2人で月に5万円を稼ぐのがそんなに難しいことだとも思わない。隣の家が26万円使っているからといって、5万円を借金してでも自分たちも26万円の生活をしたいと思うのかな?

ちなみに年金の支給額というのは、受給を1カ月遅らせるごとに増えます。現行制度では、70歳まで受給開始年齢を遅らせれば、なんと42パーセント増しなんですよ。21万円の42パーセント増しだとすれば、月に29万8200円。これだけで26万円を上回るじゃないですか。

何が言いたいかというと、「もっと制度をよく理解して見通しを立てるべき」ということなんです。

自分が老後にどれくらいのお金を必要とするかの見通しを立てて、65歳になるまでにどれくらい貯金できるかを計算して、次に65歳になった段階でどれくらいの年金がもらえるかを日本年金機構に問い合わせてみてほしいですね。1円単位で教えてもらえますから。

「分からない」ことが不安につながるのであって、自分で見通しが立っていれば、おかしなメッセージに煽られなくなるはずです。

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

――恥ずかしながら、私も自分がいくら年金をもらえるのか分かっていません。理解していない、見通しがないというのは、冷静に考えてみれば恐ろしいことですね。

杉村:そうした状態の人が多いことは事実でしょう。だからこそ「とにかく投資を始めましょう」なんて煽るのはおかしいと思います。

これからどういう時代になるのか考えると、日本は少子化で人口減少が進みます。アメリカは多額の財政赤字を抱えながら大公共事業をやり、大減税をやり、利下げをする。加えて米中貿易戦争で中国経済の雲行きも怪しくなり大減速している。中東ではイラン情勢が緊迫し、新しいイギリスの首相はハードブレグジット(EUからの強硬離脱)も辞さない構え。EUではドイツ銀行がおかしくなりそう……。

そんな状況の世界を見渡した上で、「投資を始めるなら今!」と言える根拠はあるんでしょうか? 僕は投資家だから株を買い続けます。株は上がったり下がったりするのも分かっているから。だけど国はド素人と言える人たちに対して投資を勧めている。

――年金制度の正しい知識しかり、国がこの現実をしっかり説明すべきでは? とも思います。

杉村:それもまた問題があって、国としては「ずっと説明してるよ」と言うんです。実際にやってもいる。でも、多くの人は国が発信する情報にアクセスしないんですよ。内閣府や財務省、経済産業省、あるいは日銀でも、どこかのホームページにアクセスして一次情報を得ている人なんて少ないでしょう。

一方で書店へ行けば、iDeCoやNISA、株式に不動産と、ド素人に軽々しく投資を勧める本がたくさん並んでいます。僕もかつては証券会社の人間だったけど今はそうじゃないし、人に投資を勧めることでご飯を食べているわけでもないから、「資産形成の本当のHow to」を多くの人に伝えたいんですよね。

働いて支出を見直して毎月きっちり貯金する。それも立派な資産形成だと。流行りものに飛びつくことが資産形成に必ずしもつながるわけじゃないのだと。

    ◇

老後への備えとして、投資を検討する人が増えている昨今ですが、気軽に手を出すべきではないと杉村さんは言います。しかし、投資に面白さがあるのもまた事実。後編では、杉村さんが感じる投資の意義についてお話いただきます。

 

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