経済分析は大人の「知的な遊び」 杉村太蔵が語る「本当の投資」(後編)

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

元衆議院議員として知られ、タレントとしての活動の幅も広げている杉村太蔵さんには、投資家というもうひとつの顔があります。

インタビュー前編では「働いて節約して貯金することも立派な資産形成」「メディアや国は投資を煽りすぎ」といった言葉が飛び出し、お金に対する杉村さんの堅実な考え方が垣間見えました。

投資家という生き方は、そうした堅実さとは対局にあるようにも感じます。なぜ杉村さんは投資を続けているのか。背景には、この国の未来を考えることにもつながる「知の喜び」がありました。

※前編はこちら
メディアも国も、投資を煽りすぎている――杉村太蔵が語る「投資の本当の魅力」(前編)

株価が予想通りに上がるのも、予想通りに下がるのも楽しい

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

――杉村さんの言葉からは投資に対する厳しい見方がうかがえますが、杉村さん自身はなぜ、投資を続けているのでしょう?

杉村:僕の場合は趣味です。面白いから、好きだから続けています。株価のチャートは1日中でも見ていられるし、世の中がどう変化していくかを予測することも好き。

お金が欲しくないと言ったら嘘になりますが、別に投資をしなくても生活には困りません。稼ぐだけなら、他にやりようがあるし。

――株式投資の面白さとは?

杉村:たとえば、最近では「経済の先行き不透明感から製造業の3社に2社が上期減益」という報道がありました。でも個別に見ていくと、上期減益なのに通期の業績予想を据え置いている企業もあるんです。「通期1年では当初の計画に到達できそうです!」と言っている。ということは、下期に挽回して逆転するということですよね。プロの投資家は「どうやって?」「その論拠は?」と探るわけです。

そうやって見ていくと、現時点において、投資家・杉村太蔵を納得させられる下期大逆転の論拠を示している会社はありません。

「米中貿易戦争が終わり、ブレグジット(イギリスのEU離脱)も落ち着いて、徐々に資金が回り始めて……」といった分かりやすい外部要因の変化があるならまだしも、そうではないこの状況において、「何があるんだろう?」と突き詰めて考えるのが楽しいんですよ。

株価が予想通りに上がっていくのはもちろん楽しいし、予想通りに下がっていくのも楽しい。予想したことの答え合わせをして、外れていたら、自分の分析はどこで間違えていたのかを検証する。そしてまた未来を予測する。

――市場を予測したり、あるいは個社について分析をしたりする中で、個人としての日常のアクションが変わってくることもあるのでしょうか?

杉村:マンションを買うとか、大きな買い物をする際には当然ありますよね。メディアの見方も変わってきます。

投資家として新聞を開くと、「何言ってんだ?」と突っ込みたくなる記事ばかりですよ。「上期は駄目でした、通期見通しは据え置きです」という企業の発表をただ伝えているだけの記事とかね。「そこはもっと掘り下げて聞いてよ!」と思う。

ところが他の面を読むと、ちゃんと掘り下げている記者もいるんです。A自動車の決算発表を取材した記事、B自動車の決算発表を取材した記事を比べて、「この記者の方がはるかに良い記事を書くな、国民の知る権利に応えようとしているな」「この記者はド素人だな」なんてことも見えてきます。そんなことを1人、心の中でつぶやくのも楽しい。

いいですよ、経済を趣味にするの。経済分析というのはとても知的な遊び。あくまでも未来のことだから、ハーバード大学の名誉教授だって確かなことは言えない。それを自分なりに考えるという遊びなんです。

良い投資家が増えれば、良い有権者が増える

杉村太蔵さん(撮影:MAKOTO TSURUTA)

――確かなことは誰も言い切れない中で、自分自身の目で情報を精査して自分で判断する。そうやって感性が磨かれていくということですね。

杉村:さらに言うと、例えばトヨタ自動車に入社することはできなくても、資金さえあれば株主にはなれるんですよ。

その会社で働くためには入社試験に合格しないといけないけれど、株主は資金さえあればなれる。「あなたは高卒だから」といった理由で拒否されることもない。そういう意味では資本主義は平等です。どんなに少ない株数でも株主総会に出席して意見を言えるし、社長の丁寧な説明を聞ける。つまり経営者と同じ目線に立てるということです。

だから、株を買うととにかく勉強するようになります。全日空やJALの株を買えば「中東情勢はどうなるんだろう」「日韓関係はどうすれば改善できるんだろう?」と考えるようになるし、原油価格も為替の動きも気になる。そういう意味では、どんな業種で働く人にとってもプラスになるんじゃないですか。

――自分の好きな経営者がいる会社や、好きな商品を作っている会社を応援できるのも株式投資の意義ですね。

杉村:そう、まさにそれが投資家の姿なんです。自分の金儲けだけを考えるのは「投機家」。世の中にあふれる投資煽りや金融庁の報告書の何に腹が立つかというと、とにかく金儲けの話ばかりなんですよ。「How to 金儲け」の視点しかない。

投資って、そうじゃないんです。「この会社が作っているあの製品が普及すれば、世の中はこんなに良くなるよね」とか、「むやみにリストラをしないし、障害のある方も雇用している。こういう企業に頑張ってほしい」といった視点で投資するわけですから。

今日買って明日売って大儲けしようなんて、そんなのは投資でも何でもないし、自分の老後を豊かにすることだけを考えている人は幸せになれませんよ。なぜなら、常にハラハラしているから。自分の金がどうなるのか、心配し続けなければいけないから。

自分が本気で応援したいと思える会社の株を買えば、仮に大きく損をしたとしても、自分の判断に間違いはなかったと思えるじゃないですか。その会社の失敗から得られる教訓も徹底的に勉強するでしょう。それは社会人にとって、本当に重要な学びだと思います。

――チャートの動きばかりを気にして、「いくらまで下がったら売ろう」と考えるのも投機家?

杉村:うん、僕はまずやらないです。株主は社員と同じだと思っています。自分が入りたい会社に就職できたとして、「去年と比べてちょっと業績が落ちた」「株価が15パーセント下がった」といった理由ですぐに辞めますか? 辞めないですよね。

自分の給料のことばかり考えている人より、「この会社でこんなものを作って世に送り出したい」と熱く考えている人の方が、一緒に働いていても魅力的でしょう。株主としても、前者のように自分の儲けばかり考えている人は、大体パフォーマンスが良くないというのが僕の解釈です。

そして、この視点で投資に興味を持つ人が増えていけば、究極的には政治に関心を持つ人が増えていくと思っています。投資をする上で、国の政策に関心を持つことは避けては通れません。消費税をどうするのか、キャッシュレス決済をどう広げるのか。そうした方向性はすべて政治が決めていますから。

良い投資家が増えれば、良い有権者が増える。良い有権者が増えれば、政治が良くなる。投資の意義を語ることは、この国のみんなの未来につながっていくと信じています。

 

特集

TAGS

この記事をシェア