初めてのレコーディングはカセットだった~石川浩司の「初めての体験」

ドラマ『凪のお暇』の劇中曲をレコーディング(イラスト・古本有美)

黒木華主演の金曜ドラマ『凪のお暇』(TBS系)が、盛り上がりを見せている。実は、このドラマの劇中音楽を手がけているのは、僕がやっているバンド「パスカルズ」だ。このサウンドトラックが今日発売された。メンバーで33曲を書き下ろし、レコーディングをしたものだ。振り返ると、アマチュア時代を含めて、これまでたくさんのレコーディングを経験してきた。そこで、今回のコラムでは、これまでのレコーディングの思い出について綴りたい。

カセットテープでレコーディング

インディーズで活動している人たちは、今でこそ、パソコンでCDを焼いて販売したり、ネットでダウンロード販売したりすることができるようになったが、僕がライブ活動を始めた1980年代初頭は、簡単に音源を販売する手段はなかった。

なにせまだCDも一般的には普及しておらず、アナログレコードが主流だった時代だ。音楽をレコーディングして、アナログレコードを販売することは、素人がおいそれとできることではなかった。レコード会社と契約してメジャーデビューするか、もしくは高いお金を支払って自主制作するかだ。

そこで一般的だったのが、カセットテープでの販売である。当時カセットデッキが一般家庭にも普及していたので、僕はカセットテープをダビングして販売していた。

僕が初めて販売した曲は、ギターの弾き語りだった。音源を録音する機材を持っている友達の部屋でレコーディングをさせてもらった。タイトルは「あまったデモテープ」。ライブハウスに持ち込んでいたデモテープをそのまま販売したのだ。ほとんどは、ミュージシャンの友達に無料で配ったような気がするが。

その後、「ころばぬさきのつえ」というユニットを組んで、カセットテープを販売した。メンバーがシーツの中に入って、モゴモゴ動いて演奏したり、ステージと客席の間に新聞紙を張り、穴を開けて顔だけ出して歌ったりと、とにかくハチャメチャなライブをするユニットだった。そのため、カセットテープもそのまま売ったんじゃ面白くないと考え、パッケージとして軍手に入れたものと弁当箱に入れたものの2種類を作って、自主流通本を扱っている新宿の「模索舎」などで販売した。

それから「たま」を組み、これまたカセットテープを販売。広い部屋にカセットデッキひとつ置いて一発録りするのだが、僕は音の大きい太鼓だったので、音量のバランスを取るために、「石川さんは見えないぐらい遠くで」と部屋の隅っこに追いやられ、いじめられっ子のようにレコーディングした。

スタジオでのレコーディング

こんな感じでカセットテープの販売をしていたのだが、ある日雑誌で「アナログレコード作ります。興味のあるバンドはデモテープを送って!」という広告を見た。ナゴムレコードという自主制作版(今で言うインディーズ)のレーベルで、当時ロックバンドとして人気のあった「有頂天」のリーダーのケラさんという人がやっていた。

ダメ元で応募してみたが、案の定、半年を過ぎても音沙汰は無く「やっぱりレコードなんて夢だったんだなあ」と思っていたら、ケラさん本人がなんと「たま」のライブを観に来てくれた。そしてライブが終わった後に、興奮した口調で「すぐシングルを作ろう。それからLPだ!」と声をかけてくれたのだ。なんでも、デモテープが全国から段ボール何箱分も届いてしまい、ようやく僕らのテープを聴いて、「おっ?」と思いライブに来てくれたそうだ。

それがきっかけで、初めてちゃんとしたスタジオでレコーディングをすることになった。録音の仕方も素人が録っているものとは全然違った。そして初めての4曲入りアナログレコード「でんご」が発売されると、なんと僕らのレコードがいきなり自主制作版チャートで1位を取ってしまった。これには驚いた。

レコーディングの面白さ

その後「イカ天」で優勝してメジャーのレコード会社と契約し、最初のアルバムこそ都内でレコーディングしたが、2作目、3作目はイギリス、フランスで録音した。その頃はバブル末期で、日本でのレコーディング費用が高く、海外でレコーディングをしても総費用が変わらなかったのだ。

ここで僕たちはちょっと冷静になった。「こんなブームがいつまでも続くはずがない」と。そこで、メンバーでお金を出し合い、都下に自分たちのスタジオを作った。当初はリハーサルスタジオであったが、最終的にはレコーディングスタジオとして活用した。

このスタジオを作っていなかったら、メジャーと契約が切れた後は、レコーディングすることもままならなかったであろう。今考えても音楽活動を長く続けるのにいい選択をしたと思っている。残念ながら、「たま」を解散した時に、スタジオは壊してしまったが…。

こうして、ちょっとした参加なども入れると、これまで100枚近くのレコードやCDなどのレコーディングに携わってきた。

音楽は「ライブがベスト」という考え方に変わりはないが、レコーディングも面白いことがたくさんできる。同じ曲にパーカッションとオモチャ楽器を重ねるなど、ライブではできないことも可能だ。これからも「レコーディング」という遊びを続けていけたら嬉しいな。

 

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