どの馬に夢を託す? 一口馬主の運命が決まる季節【夢は競馬場を駆ける:02】

(Photo by Getty Images)

夏の某日。17:00きっかりに仕事場を後にして自宅へ向かう。「発送は一昨日だから今日には着いているはず……」。そして自宅へ到着。車を停めてポストを確認する。来た!

夏から秋にかけては、新年度の出資募集の季節。一口馬主愛好家にとっては何はともあれ、すべての出発点となるのが出資馬選定だ。どの若駒に夢を託すかで「我が軍団」のこれから数年の運命が決まるので、気合いを入れずにはいられない。そういう季節だ。

さて、「来た!」というのは、新しく加入を検討している馬主の会「シルク・ホースクラブ」のカタログ。ワクワクする気持ちいっぱいに、カタログ片手、そしてビールを片手に自分の部屋にこもる。およそ競走馬のカタログとは思えないテイストで、女性週刊誌の付録みたいにハイカラな表紙。人気のクラブは違うなぁとページをめくる。募集馬の一覧を発見。うむ、総勢70頭か。多いな、どんな馬がいるんだろうか……。ビールをひと口ふた口、さらに見入る。

馬選びは子供時代のボルトの才能を見抜くようなもの

それぞれの仔馬につき、価格・写真・誕生日・血統表、父馬や母馬等の解説、預託予定の厩舎(調教師)、その他さまざまな情報が紙面一杯に記載されている。クラブのWEBサイトに行けば、仔馬の最新の測尺値(体格の測定値)や、歩いているところの動画も見ることができる。……正直、テキトー派の私には多すぎる情報なのだが。

「相馬眼(そうまがん)」という言葉がある。馬の見極めは奥深く、知識と経験とセンスを総動員して行うものなんだろう。が、しかし小学生時代のサニブラウンやボルトの歩いているところや写真を見て、脚がどれだけ速くなるか見極めろというようなもの……。素人の私にわかるはずもない。雲をつかめと言われているようなものだが、ああでもないこうでもないと将来の逸材を掘り当てるべく考え巡らすことが、何より楽しい時間なのである。

そして、いつも通り単純に、母馬が若い、価格が高くない、できれば牡馬(オス)などの自己流の簡単な条件で馬を絞り込み、そこに挙がった馬を中心に独断と偏見の二次審査へと突入していく。

・お母さんは重賞勝ち馬か……値段8,000万円超え、高っ!

・早生まれにしては体が小さいなぁ(←測尺値を見て)。

・四白流星(脚が四本とも先が白く、顔に白いライン)はあまり走らんよね。

・このアメリカ系統の血統良さそうだな、ダート路線の戦力になりそうだ。

・預託予定の厩舎がマイナーだな。馬のデキがよくないのかなぁ。

などなど……。

並行して、ツイッターや「netkeiba」の掲示板、その他WEBサイトで、巷の評判や見解もチェック。この馬に決めたとか、あの馬は歩様(ほよう)がどうの、この馬は脚の形が、目つきが、馬格(馬の大きさ)が、父親が、兄弟が、発育の状況が……といった話で持ちきり。達人のように馬診断を披露するものから、「母馬に出資していました。息子に夢の続きを」といった情緒的なものまである。気になった投稿は頭の中にインプット。出資馬選定の参考とする。

さらには近親馬の競走成績などもチェック。この辺りについては、インターネット時代に感謝。今では競走成績→出てくる。レース動画→出てくる。何でも出てくる出てくる。ひと昔前だと、こういった情報は業界外の者では簡単には収集できなかったものだ。一方、情報を探れば探るほど、どの馬も走りそうな、走らなさそうな……どんどん迷いは深まる。

タイムリミットギリギリまで揺れる思い

数日後、仕事の合間を縫って当該クラブのWEBサイトへアクセス。発表された中間の申し込み状況を確認する。募集口数の総数は500口なのだが、このクラブは申込者多数で抽選になる場合には既存会員が優先される制度があるので、新規入会を狙う私にとっては、抽選対象になるような人気馬をゲットするのは難しい。それらの制度を踏まえて指名戦略を考えなればならない。

見ると、15頭、すでに満口に近いかオーバーしている馬の名が挙がっており、私のリストアップ馬の名前もひとつあった。ヌヌヌ、この馬は無理か……。その他の候補馬達はどうだ? ……今のところ大丈夫そうだ。いや待て、なんで人気がないんだろう? 人気がないということは……私のチョイスは的外れなんだろうか? 思いはさらに揺れる。タイムリミットは近づいてくる。

結局、王道路線向けの馬、ダート路線でもいける馬というようにバランスを考えて、苦しいながらも4頭に絞って申込書に書き込んだ。どうせ抽選で外れるので、よくて2頭買えれば良いだろうという腹だ。今回は予算の都合上、牝馬(メス)は選ばなかった。後ろ髪を引かれる思い。未練がましいのは私の得意技ではあるが、得てして最後の最後に切った馬が活躍するというものだ。

あとは抽選結果を待つのみ。果報は寝て待て。

と、そう言えば今日は木曜日。今週出走予定の「シャイントレイル」(我が一口馬主生活の一期生)の出馬投票の結果が出ているはず。例によってクラブWEBサイトの会員ページへログイン。無事、三浦騎手での出走が確定とのこと。新潟競馬場か、今週末はテニスにゴルフにと立て込んでいるので観戦には行けんな……とか考えながら、元祖超期待馬「ガルヴィハーラ」の近況のチェックへ移る。こちらは骨折療養中なのだが、今週はなんと調教師も視察に訪れたらしく、超順調に回復しているよう。ヨシヨシ……えっ⁉️

ガーン! 来週札幌競馬場で復帰予定だった我が軍団の最高価格ホース「イペルラーニオ」は脚部不安で牧場へ逆戻り。はぁ…….。一気に気持ちが盛り下がる。なんてついてないんだと自分の運を呪うが、どうしようもないのがこの世界。沈んだ気持ちの行き場を見つけられないまま愛機Mac Book Airの電源を切った。

そして週末。娘を新幹線の駅まで送ることに。途中でケータイが鳴った。「おっと……」、やむを得ず路肩へ車を寄せ停車する。新幹線の時刻までにはまだ時間があるな。大丈夫だ。ポケットからiPhoneを取り出して、新機能の顔認証で待ち受けロック解除。さっとブラウザを立ち上げる。

そう。今日もまた愛馬のレースが始まるのだ。

 

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