巨砲3000mmズーム、ニコンCOOLPIX P1000を試してみた(前編)

ニコン COOLPIX P1000。超望遠3000mm相当までレンズが伸びたところ。

超望遠。焦点距離は最大3000mm相当。

一眼レフやミラーレスでは、600mmで「巨砲」と呼ばれ、ズームレンズでも数十万円、単焦点のレンズならおいそれとは買えない100万円超クラス。レンズ交換できない普通のデジカメとはいえ、ニコン COOLPIX P1000はそれをもはるかにしのぐ、さらに5倍長いズームレンズ。今まで小さくしか写らなかったものが大きく伸ばせる……そんな期待も大きくふくらむスペックを持つ異色の存在です。

ニコンの望遠ズームといえば忘れてはいけないのが、一眼レフ用「AI Zoom-Nikkor 1200-1700mm f/5.6-8P IF-ED」です。1990年に阪神甲子園球場のセンターバックスクリーン横の報道席から、本塁上の選手たちを画角に収めるため開発されました。横位置で1200mm、縦位置で1700mmが必要だということで決まったスペックは、一般向けにも受注生産で販売された1994年時点で、世界最長焦点距離のズームレンズでした。

そんなチャレンジャーな先輩の遺伝子を受け継ぐ「3000mm」の世界。カタログを眺めるだけでは想像も付かない超望遠の世界をお伝えすべく、P1000の実力を2回に分けてお届けします。

ぐいっと引き寄せる超望遠の世界

川面の魚やエビを狙うカワセミ。(東京・東久留米の落合川)。359mm(35ミリ判換算で約2000mm相当)、F7.1、1/50秒、ISO1100。手持ち撮影。以下、いずれもAdobe Lightroomで露出、シャープネスなどを調整しています。

前編では、主に標的の小さな鳥や虫などを狙ってみました。上の画像は、東京都東久留米市を流れる落合川に営巣するカワセミです。

筆者のお散歩コースにもなっている落合川には、カワセミが営巣しています。春先は早朝からカメラマンで賑わいますが、筆者は「朝駆け」が大の苦手なので参加しません。そこから少し離れた場所に木々が生い茂った場所があり、撮る角度によって背景が明るい緑や舞台の大黒幕のように見える場所があって、お気に入りの撮影スポットです。

空飛ぶ宝石と言われるカワセミ(翡翠)

枝に留まって遠くを見るカワセミ(東京・東久留米の落合川)。359mm(35ミリ判換算で約2000mm相当)、F7.1、1/50秒、ISO1100。手持ち撮影。

撮影は夕方、午後6時前。絞り優先モードで撮影すると、約2000mm相当では最小絞りがF7.1。シャッター速度を1/50まで落としてもISO感度は1100に上がってしまいます。

P1000の撮像センサーは、コンパクトデジタルカメラでは一般的な1/2.3型裏面照射型CMOSセンサー、常用ISO感度も100~1600と少し低めです。あまり高感度には強くありません。拡張で3200、6400まで上げられますが、1枚目の画像はISO1100でも背景の黒い部分を見ると少しノイズがのってきているので、これ以上ISO感度を上げるのはあまり好ましくないでしょう。

エビや小魚を狩る「ダイビング写真」を撮りたいところですが、必要となるシャッター速度を稼ぐのは厳しそうです。

平地の湿地やため池にごく普通にいるシオカラトンボ(塩辛蜻蛉)

池の支柱に留まるシオカラトンボ。(東京・東久留米の落合川水生公園)。467mm(35ミリ判換算で約2600mm相当)、F7.1、1/500秒、ISO180。手持ち撮影。

ちょっと迷いがちなときはMFに

P1000のオートフォーカスは、一般的にスマホやコンパクトデジカメに用いられるコントラスト検出方式なので、輝度(明るさ)差があるもの、コントラスト(明暗差)が低いもの、檻の中の動物など手前にモノがあって奥の被写体を撮る場合、ビルの窓のように同じ模様が繰り返されるもの、動きのあるものなどを苦手としています。

シオカラトンボの作例は、薄い青色のトンボよりコントラストが強い支柱に引っ張られてしまうので、シオカラトンボになかなかピントが合ってくれず、後ピンになってしまいがちです。

この場合、背面にある「フォーカスモードセレクター」でMF(マニュアル・フォーカス)に切り替えて、鏡筒にある「コントロールリング」で微調整しながらピントを合わせるといいでしょう。

ハグロトンボの作例もヒラヒラ飛んでいる、動きのところを撮るのはとても難しく、枝に止まったのを狙って撮影しました。

カワトンボの一種「ハグロトンボ」(羽黒蜻蛉)

オスの胴体は金緑色に輝く「ハグロトンボ」。細長い黒い羽を持ちヒラヒラと飛ぶ。(東京・東久留米の落合川)。324mm(35ミリ判換算で約1800mm相当)、F8、1/80秒、ISO800。手持ち撮影。

ボサボサの冠羽が特徴のヒヨドリ(鵯)

電線に留まって背中側に振り向いたヒヨドリ。体までボサボサなのはなぜだろう。(東京・東久留米の落合川付近)。539mm(35ミリ判換算で約3000mm相当)、F8、1/500秒、ISO250。手持ち撮影。

羽を広げると黄色が美しいカワラヒラ(河原鶸)

餌をついばみに来たカワラヒラ。(山梨県北杜市の「ペンション 風の季」)。手持ち撮影。539mm(35ミリ判換算で約3000mm相当)、F8、1/50秒、ISO800。手持ち撮影。

補正効果5.0段の手ブレ補正機能は優秀

ところ変わって清里のペンションのカワラヒラです。留鳥で清里付近では年中見られる鳥だそうです。水辺があまり少ない地域なので、オーナーがベランダの手すりの上に置いた水受けに、野鳥が朝に夕に水浴びにやってきます。

背景がなんとなくファンタジーな世界になっているのは、緑や赤の木々や空の色です。3000mm相当の世界では、光の中にボケて溶け込んでしまいます。

P1000が搭載している手ブレ補正機能は、補正効果5.0段の「デュアル検知光学VR」というレンズシフト方式(静止画)です。

一般的に手持ち撮影で写真をブレさせないシャッタースピードは「1/焦点距離(秒)」と言われています。補正効果5段分の5段とは、シャッタースピードの5段階分で、1/4000秒で撮るべきなら、1/4000秒→①1/2000秒→②1/1000秒→③1/500秒→④1/250秒→⑤1/125秒。1/125秒までシャッタースピードを落とせるくらいの効果があるという意味です。

作例はもう1段下の1/50~60秒。息を止めて脇を締めてしっかり構えれば、3000mm相当で手持ちでもブレが目立たない写真がギリギリ撮れます。

背中に少し緑色が入るシジュウカラ(四十雀)

水浴びに来たシジュウカラ。(山梨県北杜市の「ペンション 風の季」)手持ち撮影。252mm(35ミリ判換算で約1400mm相当)、F5.6、1/60秒、ISO1400。手持ち撮影。
左側面から見たニコン COOLPIX P1000。レンズ鏡筒周囲に「コントロールリング」があり、「T」「W」の文字があるスイッチが「サイドズームレバー」。矢印が四方に広がっているマークが付いたボタンが「クイックバックズームボタン」です。

多少の手ぶれはカメラで抑えてくれますが、1000mmを超えるとちょっと体勢を崩しただけで、すぐに目標を見失います。一度少し引いた状態で的を狙ってじわじわとズームを効かせて適切なアングルを狙うとよいでしょう。

その際に便利なのが「クイックバックズームボタン」。レンズ鏡筒の左側についています。押すと一時的にファインダーで見える範囲(画角)が広がり、ボタンを離すと元の超望遠状態に戻ります。

俗に「赤とんぼ」と呼ばれるアキアカネ(秋茜)

オブジェにつかまり、羽を休めるアキアカネ。(山梨県北杜市の萌木の村)。306mm(35ミリ判換算で約1700mm相当)、F6.3、1/200秒、ISO400。手持ち撮影。

真夏の太陽に空気も揺らぐ

真夏は超望遠レンズにとって厳しい季節です。太陽が作り出すモヤモヤが超望遠レンズの解像感を落としてしまいます。夏の日差しは地面に熱を伝えて、空気を温めます。温度が高くなって密度が低くなったために見られる、もやのような空気の揺らぎを「シュリーレン現象」と呼びます。陽炎(かげろう)もその一種で、アスファルトに舗装された道路の上などで良く見られます。ガムシロップを入れたアイスコーヒーの中に見えるモヤモヤも同じ現象です。

焦点距離が長い分、超望遠の3000mmレンズは影響をより強く受けます。像を捉えているのに輪郭が形を成しません。鳥のように的(まと)の小さなものだと、その傾向が顕著に出てしまいました。アスファルトの道路で陽炎を使った作品など意図して揺らぎを活用したい場合は別ですが、ビシッとピントを合わせたいときは、真夏の暑い日を避けないといけません。

羽田空港が近いので頻繁に飛ぶ旅客機

羽田空港に着陸しようと進路を変えるANAの旅客機。太陽から浴びた熱で像が揺らぐ。(東京都立東京港野鳥公園から)。539mm(35ミリ判換算で約3000mm相当)、F8、1/2500秒、ISO800。一脚で撮影。

P1000が届いた翌日にカメラに慣れつつ野鳥を狙おうと、足取りも軽く東京港野鳥公園に出かけた日の最高気温は35.6度。鵜やコチドリがいたのですが、撮影画像はモヤモヤでほぼ全滅。とてもお見せできる代物ではありません。いきなり超望遠の洗礼を受けました。

京浜運河の岸辺に立っていたチュウサギ(中鷺)

波打ち際に立つチュウサギ。運河は涼しいのか画像が揺らぎませんでした。(東京都大田区の京浜運河)。234mm(35ミリ判換算で約1300mm相当)、F5.6、1/2500秒、ISO320。一脚で撮影。

以上、前編は超望遠域ばかりを使用した作例をお届けしました。

筆者も、デジタルズームで1200mmまで伸ばせる「ネオ一眼」や、フルサイズのミラーレスカメラに2倍テレコンバーターを付けた800mmまでは普段使いをしていますが、3000mmは別世界でした。ほんのちょっと体勢を崩すと標的が行方不明になる感覚に戸惑い、なかなか合わないピントにも慣れるのに時間がかかるなど、なかなか癖のあるカメラです。

しかし、重たいレンズを背負わずに、普段届かない場所にある獲物を狙える超望遠という特性は、他のカメラでは得られない魅力です。

後編は人物撮影やスナップ写真、P1000独自の機能など、ごく普通のカメラとして使った場合の使い心地を中心にお届けします。

ニコン COOLPIX P1000の概要はこちら

 

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