落語家・古今亭文菊に聞く根付の魅力 手のひらに感じる先人の「気」

古今亭文菊さん(撮影・斎藤大輔)

古典落語の世界を表情豊かに表現する古今亭文菊さん。骨董など古いものに心惹かれています。特に好きなものは根付(ねつけ)だそうです。根付は、巾着やタバコ入れ、印籠などにつけていた留め具で、江戸時代までは日常的に使われていました。

動物、果実、仙人、歌舞伎と題材はさまざまで、精巧な彫りやユーモラスな表情、愛らしい形など多彩な魅力があります。文菊さんを魅了する根付について、話してもらいました。

古今亭文菊さん(撮影・斎藤大輔)

ユーモラスな表情、すり減った「なれ」を楽しむ

――根付を集めるようになったのは、きっかけがあったのですか?

文菊:5、6年前、知り合いの方に仙人の(形をした)根付をいただいたのが始まりですね。それまでも興味はあったけれど、高価で自分には手が出せないものと思っていました。それがひとつ私のところに来てくれてからは、ほかにも欲しくなって収集し始めました。今は20個くらい持っています。

――どんな点に心惹かれるのでしょうか?

文菊:可愛らしい形や、ユーモラスな表情がある点でしょうか。象牙や柘植(つげ)など、人工的ではない素材なので、手のひらに乗せたときにしっくりなじむ感触もいいですね。元々は日常で使われていたものなので、すり減った「なれ」があります。触ると、先人が使っていたことを実感します。練り物で作った偽物が多く出回っていますが、きちんとした骨董品屋でたくさん見ているうちに、明らかな偽物は分かるようになってきました。

文菊さんの根付コレクションの一部(撮影・斎藤大輔)

――骨董品屋は、少し入りにくいイメージがあります。

文菊:骨董品屋の主人は、客が入って来た瞬間、客を値踏みするなんていいますよね。まあ、軽くあしらわれるくらいはあるかもしれません。私も全く目利きではありませんし、知識もまるでないです。そもそも値段交渉は苦手だし、策も練れないですから。ちょっと値段を下げてくれるか聞いてみて、だめならすぐに引き下がってしまいます。

あと、骨董品屋との相性はあると思います。不思議なもので、この主人は嫌だなあと思う店には、気に入ったものは置いていません。ある九州の骨董品屋の主人は変わっていて、「気に入らない客には売らねえ」という主義なんです。でも、値段は非常に良心的でね。そこでは何回か買いました。

――どうやって骨董品屋を探すんですか?

文菊:地方に行く機会が多いので、時間があれば、その地域の骨董品屋に電話をして、根付を置いているか聞いてみます。根付ってね、置いているところが少ないんですよ。ちゃんとした根付を扱うお店は、30軒か20軒に1軒あるかどうか。人気があるから、なかなか流通していないですね。

――根付にはさまざまなモチーフがありますよね。特にお好きなジャンルはありますか?

文菊:人物の根付ですね。最初にうちに来てくれたのが仙人の根付だったせいか、表情に味があるものが好きです。ただね、細長い根付は、普段使いがしにくいんです。私は時計につけているのですが、帯から下げているとね、先端の細い足先の部分がポキっと折れてしまうことがあります。だから、使いやすいのは丸い形のほうです。

時計をつけて下げると帯のワンポイントに(撮影・斎藤大輔)

ネットオークションで偽物をつかまされたことも

――いつも骨董品屋で手に入れるのですか?

文菊:なかなか行く時間が取れないので、ネットオークションでも一時期買っていました。少し知識が増えてくると「お、これはちょっと珍しい」なんて、所有欲が止まらなくなってしまいました。これが最初の落とし穴。でもね、ネットで4個買ったうちの1個が偽物と分かったんですよ。

――どうして偽物と分かったんですか?

文菊:サロン的な雰囲気の骨董品屋があって、そこのご主人が感じの良い方でね、雑談しながら、気軽に鑑定してくれるんです。そうしたら、「これは残念でしたね〜。違いますねえ」と言われて、こちらは「ええっ!」と声が裏返ってしまいました。

骨董品を集め出すと、偽物をつかまされるのはよくあることで、そうやって勉強していくんですよね。根付は偽物が非常に多く流通しているので、4個買って1個だけ偽物っていうのは、逆にいうと非常に優秀なほう。偽物はまだ持っていて、欲張った自分への戒めにしています。

最初のご縁、仙人の根付(撮影・斎藤大輔)

――それで、ネットオークションでの購入をやめたのですか?

文菊:うーん、それはね、「うちの師匠」ことカミさんに「もういい加減におやめになったら」と、酒飲んでベロンベロンに酔っ払ったり、根付集めに血眼になったりしていることを注意されたからですね。

数年は「俺の勝手だろう」と抵抗していましたが、確かにそうだなと思うようになってきました。噺家たるもの破天荒であるべし、豪快に酒飲んで遊ぶ、買いたいものはどんどん買うぞという気持ちだったんですが、自分はそういう器じゃないと悟ったんです。

ところが、待てば海路の日和あり、ですよ。お父様が骨董商だという方から、「そんなに根付がお好きなら、お譲りしますよ」というお申し出をいただいたんです。

やっぱりねえ、欲をかくのは良くないってことですかねえ。最初に仙人の根付が来てくれたとき、ご縁だなあと思っていたのに、血眼になって集めた自分が、あさましく感じてしまいます。今でも時間があれば骨董品屋には行きますが、集めるぞ!と いう気持ちはなくなりました。

――特に気に入っている根付はありますか?

文菊:やはり、最初に来てくれた仙人には思い入れがあります。普段、根付は引き出しのついた小箱にしまっています。時々取り出して、手の平に置いてね、新しいものにはない、昔の人が使っていた風合いや、ただその存在感を感じています。

根付は、江戸時代のものだとしても100年は軽く超えています。100年経つと、妖怪じゃないけれど「気」が入ってくるんでしょうね。存在感が違います。難しいことは分からなくても、ただその世界に感じ入るだけでいいものですよ。

●プロフィール
古今亭文菊(ここんてい・ぶんぎく)
落語家。1979年生まれ。2002年に古今亭圓菊に入門。2012年、入門から10年で真打昇進。2015年に第70回文化庁芸術祭優秀賞、2016年に平成27年度国立演芸場「花形演芸大賞」銀賞受賞。

 

特集

TAGS

この記事をシェア