キスコレクターに奪われたファーストキス~石川浩司の「初めての体験」

(イラスト・古本有美)

ちょっと前にSNSでこんなことを書いた。

「学校時代のダンスって、唯一異性と堂々と手を繋げる機会だったよなぁ。みんな『めんどくせーな』なんて言いながら内心ワクドキだった。あれは良かったなぁ」

これに対してDANROの担当さんから「次回のコラムは初恋というテーマで、当時の思い出を振り返ってみるのはいかがでしょうか?」と連絡があった。

しかし、こんなことを書いてはみたものの、体育祭終わりの手つなぎダンス以上の思い出があるわけではない。そもそも僕は恋愛ベタでその手の話も非常に少ない。でもその僅かな思い出を海馬からほじくり返してみよう。

初恋の苦~い思い出

「初恋はいつですか?」と聞かれることがあるけれど、これは毎回迷う。子供の頃に好きな女の子は何人かいたけれど、ほのかな感情だったので、なんとなく好きだったのか、恋愛感情だったのか、判定が難しいからだ。

ハッキリとした恋愛感情を抱いたと言える相手は、高校時代の同級生だ。その子に対しては、会う時はもちろん、考えただけでフワフワと体が浮き上がるような気持ちだった。これは紛れもなく恋だった。

僕はある日、自分の思いを伝えようと、長文のラブレターを書き、彼女の下駄箱に入れた。しかしその翌日、非常にも、彼女の下駄箱には頑丈な鍵が取り付けられていた...。

返事も待たずに失恋したわけだが、実は40歳を過ぎた頃にその人と偶然会う機会があった。彼女は高校卒業後すぐに結婚し、もう子供が成人してると言っていた。

久しぶりに再会した彼女とちょっと話して分かったが、この人と付き合っていたとしても、絶対にうまくいってなかっただろう…。もちろん嫌な感じではなかったが、趣味や価値観があまりにも違い過ぎるのだ。

あれほど燃え上がっていた恋愛感情もまったく消えていた。僕にとっては大恋愛だったが、時が経つとはそういうことなのだろうな。

ファーストキスの思い出

そんな青春時代を過ごしていた僕だったが、ファーストキスは意外な時にやってきた。

浪人生だった18歳の頃。僕は女の子たちとつるむことが多かった。モテはしないのだが、逆にそれが安全牌だと思われたのか、女の子数人の中に男は僕ひとりだけという状況で遊ぶことが多かった。「オバさん気質」だったからなのか、ゴシップや冗談で盛り上がる女性と一緒にいる方が、男と一緒にいるより楽しかったのだ。

そんなある日、女の子仲間のひとりと一緒に帰ることになった。帰り道の公園を抜けようとしたそのとき、その子が突然、「私、ここから出られない」と言い出した。何を言っているのか理解できずにいると、その子が続けて「結界が張られていて、おまじないをしないと出られないの」と言う。「えっ、どんなおまじない?」と聞き返すと、急に振り返り、目をつむって唇を近づけてくる。

ええっ、こっ、この感じってアレだよなあ。テ、テレビとかでよく見るキ、キス。でも別にこの子とそんな話や雰囲気になったことはないよなあ…。そんなことを考えながらオロオロしていると、なんと唇がさらにさらに迫ってきている! こっ、これは、何もしないと男がすたる。ええい、ままよっ! 「ブチュッ」。すると彼女は「ありがと」と言って公園を出ていった。ポカーンと取り残される僕。

その1カ月後くらいにまた彼女とふたりきりになる機会があった。その時、彼女は耳元でこう囁いた。「石川君とのキスは10人目。いまは20人を超えたの。フフッ」。なんと、彼女はキスコレクターだったのだ。あれから「どうしよう、あの子オレのこと好きなのかなぁ、でも付き合う感じかなぁ」などと悶々とした僕の日々を返してくれ~!

妻は一緒にいて楽な人がいい

その後、20歳の頃にちょっとだけ付き合った子がいたが、恋人というよりは妹的な感じで自然消滅した。40年近く経った今でも普通に友達として仲がいいのは、なんとも不思議な感じだ。

そして、25歳の時に妻と出会った。まだバンド「たま」がメジャーデビューする前のアマチュアの頃だ。以前このコラムにも書いたが、出会いはドブ川の上。付き合ってすぐに「ああ、この人とは一生一緒にいるなあ」と思って、3カ月で結婚を決め、その1年後には籍を入れた。

僕は社交的に見られることが多いが、実はひとりが大好きだ。そんな僕だが、妻といる時はひとりでいる時の気楽さに似ていて、一緒にいてとても楽なのだ。

大恋愛のような強火で一気に作る揚げ物じゃなく、日常という弱火でコトコトと長時間かけて作る煮物のようなものかもしれない。決して刺激的な味ではないが、30年経ってさらにコクが増した。

メジャーデビューした頃、よくファンレターに「会場で石川さんの妹さん見つけちゃいました。そっくりなので、すぐにわかっちゃいました」と書かれていた。

ごめん、僕に妹はいない。それは妻だ。血縁関係はまったくないのに、「(見た目も)似た者夫婦」と揶揄される。そんな妻と一緒に老夫婦になっていければいいなあ。

 

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