「今いる場所は狭い世界」 飽くなき挑戦を続ける弁護士・亀石倫子さんの半生

弁護士の亀石倫子さん(撮影・西島本元)

「いまいる場所になじめないなら、勇気を出して外に出るべきだと思います。きっとどこかに、もっといい居場所があるんだって」

女装する小説家の仙田学が、自立したひとりの女性にインタビューをするこの連載。今回は、弁護士の亀石倫子さん(45)に話を聞きました。

亀石さんは、弁護士の仕事を10年続け、今年の7月には参議院選挙に出馬しました。「自由に生きる」ことをテーマに、新しいことに果敢に挑戦し続ける亀石さんの半生に迫ります。

感情に振り回された10代

インタビューに応じる亀石倫子さん(撮影・西島本元)

「母は怒りの感情をコントロールできない人で、その矛先が向けられるのはいつも私でした。母の感情に、子どもの頃から振り回されていた気がします」

そんな母親の影響を受けて育ったからなのか、亀石さん自身も、さまざまな感情を持て余しがちだったといいます。

「もともと感受性が強くて、いまも本や映画や音楽に触れて涙が出たりすることがときどきあります。あとなにかにハマったりすると依存しやすかったり。たとえば好きな人ができると、振り回されがちでした。そうなってしまう自分が嫌で、恋愛に憶病になることもありました」

人や自分の感情に振り回されることに疲れ、亀石さんは人を遠ざけるようになっていきます。そんなときに亀石さんの心を平穏にしてくれたのが文学作品でした。

「学生のころは、太宰治、村上春樹、山田詠美なんかをよく読んでいました。いまは同時代の作家の作品をよく読んでいて、平野啓一郎さんや中村文則さんが好きです。文学作品に触れていると、私自身のもやもやした感情を言語化してもらえるというか、人間の本性を客観的に分析してもらえる気がするんです」

苦痛を感じた会社員時代

インタビューに応じる亀石倫子さん(撮影・西島本元)

その後、東京の大学に進学したものの、学校にはずっと馴染めませんでした。卒業後は地元の北海道に戻って通信関係の会社に就職し、広告宣伝やマーケティングの仕事に従事します。しかし、制服があることや毎朝のラジオ体操を苦痛に感じていました。

「なぜそのルールがあるのかわからなくて。父譲りなのかもしれません。父はサラリーマンを2年で辞めて、自分で事業を始めたので自分が一生サラリーマンをしていくということにリアリティを持てませんでした」

迷いながら会社員生活を続けていた亀石さんですが、悪いことだけではありませんでした。会社の研修で知り合った男性に、自らプロポーズをしたのです。

「この人となら家族になれる、と思ったんです。恋愛に振り回されるのが嫌だったので、恋をしたという感覚でもなかったんですよね。それより家族になれる、と。仕事を辞めて縁もゆかりもない大阪に引っ越して結婚する、と父に伝えたら猛反対されました。でも『お父さんみたいな人だよ』というと興味を持ってくれて。一度会ってからは反対されなくなりました」

弁護士という天職と出会って

インタビューに応じる亀石倫子さん(撮影・西島本元)

結婚して大阪に引っ越してから、無職になった亀石さんは、ある日、書店の店頭で司法試験のパンフレットを見かけました。

直感的に「これだ!」と思ったそうです。弁護士になれば、自分に合わない会社勤めをしなくていいし、一生働けるし、自由に生きていくための強力な武器になると考えたからです。

「結婚後も仕事はしたかったんですけど、会社員は無理だし、そもそも集団になじめないからパートすらできないんじゃないかな、と。私には、それ以外の選択肢が思いつかなかったんです。子どもの頃から勉強が好きで、地道な作業も得意だったので、一日中勉強していました。8年かかりましたが、弁護士は私の天職でした」

35歳で弁護士になった亀石さんが選んだのは、刑事弁護人という仕事でした。罪を犯したと疑われている人を弁護する仕事です。亀石さんは、「その人の立場になって考える」ことが重要だと指摘します。

「共感には、シンパシーとエンパシーがある、って本で読んだんです。シンパシーは、人に寄り添う感情。エンパシーは考えの違う人の立場に立って考える能力。被疑者や被告人を弁護する仕事に必要なのは、エンパシーのほうなんです。凶悪事件の犯人に同情したり共感することはなくても、その人の立場に立って考えてみることはできます。理解しがたいような歪んだ感情や激しい感情に直面することもあるけれど、それを理性的に分析していきます」

亀石さんは、刑事弁護の仕事を続けることで、自分と向き合うことができたと言います。

「子どもの頃から、まわりの人の感情や、自分自身の感情に振り回されがちだったんですけど、弁護士として依頼者と関わるうちに、そういう人間のさまざまな感情や本性みたいなものに、理性的に向きあえるようになりました。そして、私自身のずっと持て余してきた感情にも距離を取れるようになっていきました」

参議院選挙に出馬

インタビューに応じる亀石倫子さん(撮影・西島本元)

刑事弁護人の仕事を始めて10年目になる今年7月、亀石さんは参議院選挙に出馬しました。司法試験を受けたときと同じく、亀石さんを突き動かしたのは直感でした。

「去年の7月、辻元清美さんから電話をいただいたんです。それでお会いすると、選挙に出ないかと誘われまして…。出るつもりは全くなかったんですけど、断るにしても理由が必要だなと。それで政治に関する本をたくさん読んだんです。読めば読むほどとんでもないドロドロした世界だなって。いつの間にか、その世界を自分の目で見てみたくなっていました」

選挙演説では、「自由に生きちゃダメですか?」をスローガンに、選択的夫婦別姓や同性婚の実現を訴えました。

「正直に自分をさらけ出すほど自由になれると感じました。正直な自分を、いいと思ってくれる人もいれば、離れていく人もいます。しかし、人に好かれようとして自分に嘘をついたり、無理をしたりすると、しんどくなるだけ。選挙活動でもそのことを実感しました」

結果的に落選となりましたが、挑戦したことに後悔はしていません。いまは弁護士の仕事に戻り、「相談に来る人に向きあって、救うことだけを考える」日々を送っています。

再び選挙に挑戦するかはいまのところ未定ですが、今いる場所に満足せず、常に新しいことに環境に身を置くことが大切だと考えています。

「勇気を出して外に出て行くべきだと思います。私はどこに行っても『今いる場所は狭い世界だ』と自分に言い聞かせてきました。どこかにもっといい居場所があるはずだって。生きることはその居場所を探す旅だと思っています」

自分の直感を信じて、新しいことに果敢に挑戦してきた亀石さん。「自由に生きる」をモットーに飽くなき挑戦は続きます。

 

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