新刊も古本も雑貨も並ぶ「まちやぐぁー」な沖縄の書店(離島の本屋ひとり旅・3)

うるま市の浜比嘉島まで足を伸ばして撮影。なのにうるま市の書店は、時間がなく訪ねられなかった……。

2016年の晩秋のことだ。『LOVE書店!』の連載執筆のために、沖縄本島に向かった。

もちろんこの仕事以外では何度も行っているが、公式的(?)に避けていたのは、沖縄本島にはリブロのみならずジュンク堂も宮脇書店も未来屋書店もあり、2019年6月にはHMV&BOOKSもできているから。他の地域のように「島で唯一の書店」どころか大型店がいくつもある島を訪ねても、連載上のバランスが取れない気がしていたのだ。

そこで当時の私は考えた末、宜野湾市の榕樹書林と西原町のブックカフェ・ブッキッシュを訪ねることにした。

なぜこの2店にしたのか。それは「面白そう」だったから。榕樹書林は新刊本と古本の両方を扱い、出版もしている。対するブッキッシュも新刊本と古本の両方を置きつつ、積極的にイベントを開催している。あえての沖縄本島なら、書店プラス何かしらの要素がある場所に行きたかったのだ。

堂々たる風格の榕樹書林は、出版も手掛けている。ちなみに榕樹とはガジュマルのこと。
西原町のブッキッシュでは、スイーツやコーヒーとともに本をゆっくり選べる。

結果的にこの2店を訪ねたのは正解だった。というのは、沖縄の古書店の組合である全沖縄古書籍商組合の組合長が、榕樹書林社長の武石和実さんで、加入しようかと悩んでいたのが、ブッキッシュ代表の多田明日香さんだったからだ(2017年初春当時)

そしてこの時、沖縄の書店では、新刊本と古書を同じ棚に並べているところがいくつもあることを知った。他の地域では古書と新刊はしっかり分かれて売られていることが一般的なので、興味深く映った。「沖縄の人は新刊と古書を区分けしないし、買うときはこだわらない」という声も複数聞いた。

一番の古株と新人を取材したなら、当然他の古書店も知りたくなる。そこで2017年秋、広い沖縄本島をバスで本屋巡りするという、大胆かつ無謀な旅に出た。

沖縄の書店の特徴は『まちやぐぁー』?

いかにも勇ましいことを言いながらも最初に向かったのは、国際通りのすぐ近くにある映画館・桜坂劇場だった。旅の最初はここで、沖縄の出版社「ボーダーインク」の喜納えりかさんと会う約束をしていたのだ。

ボーダーインクの本を初めて手に取ったのは2000年頃、初めての沖縄旅行で見かけた『ハングルと唐辛子――沖縄発・東アジアいったり来たりの文化論』(津波高志著)という本だった。内容はあまり覚えていないが、韓国と沖縄の文化を比較した本にはそれまで出会えなかったので、興味深くページをめくった。

劇場内のカフェ「さんご座キッチン」で喜納さんと向かい合い、挨拶をかわす。沖縄のポップカルチャーを紹介していたので「いいな」と思いボーダーインクの面接を受けに行き、「泡盛飲めます」と言ったら採用されたこと、基地問題が話題になることが多いが、「沖縄とはこういう場所だ」というイメージに抗った本を出したいことなど、喜納さん自身について伺い、自分の話をした。

そしてなんでも沖縄の本屋には、「まちやぐぁー」という特徴があることを聞いた。

「まちやぐぁー」とは、ボーダーレスに日用品を扱う雑貨店のことだ。本プラス何かを置く本屋は、沖縄では歴史的に珍しくないそうだ。

「復帰前の沖縄では、本土からの仕入れは貿易扱いでした。だからLCという信用状を持っている大手書店が、小さな書店の本も仕入れていたんです」(喜納さん)

小さな書店は港に本を取りに行きがてら、別の問屋から色々仕入れていた。また返品ができない買い切りだったこともあり、確実に売れそうなもの白物家電と本を並べる店もあったという。

では現在はどうなのだろう? 喜納さんに案内してもらい、一緒に那覇の本屋を歩くことにした。

ちなみにこの桜坂劇場内にも『ふくら舎』という、新刊&古書店がある。1階は書籍、2階はやちむん(沖縄陶器)や琉球ガラスなど、やっぱり本&別の何かが置かれている。この時はドキュメンタリー映画公開のタイミングだったから、書籍スペースには瀬長亀次郎に関する著作が多数並んでいた。古書担当の武富愛さんによれば、普段は美術書が充実しているそうだ。

雑貨や新刊、古本などが混然一体と並ぶふくら舎の1階。
1階とはがらりと雰囲気が変わる、ふくら舎の2階。
大阪出身で、以前は染色の仕事をしていたという、ふくら舎の武富愛(たけとみ・ちか)さん。

祭祀のハウツー本が全世代にバズる

桜坂劇場から牧志の公設市場(当時)に向かうアーケードの一角に、文栄堂という書店がある。昭和50年(1975年)頃から国際通りで書店を営んでいたが、2000年に今の場所に移転したそうだ。

店頭に立つ稲嶺朝子さんによると、沖縄式の祭祀である『御願』についての本や、高島暦が売れ筋だと教えてくれた。とくにボーダーインクの『御願ハンドブック』は、御願といっても何をどうしたらいいのか分からない若者から基本を押さえておきたい年配まで、絶大な売り上げを誇るという。

笑顔が素敵な文栄堂の、稲嶺朝子さん。

文栄堂から200メートルほど離れた浮島通り沿いには、絵本専門書店の『えほんやホッコリエ』があった。あったと過去形なのは、2018年4月に閉店しているからだ。

ホッコリエは那覇出身で、内地でイベントの企画制作やフライヤーのデザインをしていた石田夢子さんが、2013年9月に開いた店だった。取材当時、石田さんは、「子どもの絵本を探しているうちに、魅力的な絵本を大人にも伝える店を作りたいと思い、まずは古本から集めようと思った」と語っていた。

メンズファッションの店の跡地に、石田さん自身で図面を引いて内装を考えたホッコリエは、絵本を手に取って選んで読める温かな空間だった。再訪する前になくなってしまったけれど、あったことは文字に刻んでおこうと思う。

ホッコリエは、絵本のイラストがよくわかるように面陳されていた。
ホッコリエの壁に貼られていた紙。新刊と古本の両方を置いていた。

その名のとおり絵本に囲まれてホッコリしてしまった、ホッコリエから一転。エドガー・ケーシーや丸尾末広、琉球空手の本など、好きな人にはたまらない本が並んでいたのは、2006年にオープンしたちはや書房だ。

店主の櫻井伸浩さんは宮城県出身で、店を始める前は沖縄には年1回来る程度だったという。縁あって先代から受け継いだ店には、水木しげるの本が充実している。元々櫻井さんは水木しげるファンで、コレクターでもあった。だから同店のことが紹介される際は、必ずと言っていいほど「水木しげるに強い店」と書かれるほどだ。 

ちはや書房の櫻井伸浩さん(左)と、ボーダーインクの喜納えりかさん。

近くの波上宮のお札とともにダダと仙台四郎が棚に並ぶ、櫻井さんの趣味がダダもれな店内は私にとっても居心地がよかった。ので思わずナン・ゴールディンの写真集を手に取ってしまう。買えばよかったかな……。とはいえ児童書やファンシーめな雑貨などもあり、来る人を選ぶというわけでは決してない。誰もが何かしら「おっ」と思える本と出会えそうな、そんなたたずまいだった。

飾り棚として機能している(?)、オルガンの上にも販売用の本が。

30年以上働いていても、初めて出会う本がある喜び

ちはや書房を後にした私は、喜納さんの車で宜野湾市の『BOOKSじのん』を目指した。ああ1人旅にあるまじき、誰かの車で高速移動!

沖縄県道241号で普天間基地方面を目指すと、道沿いにBOOKSじのんの看板が見えてくる。店に近づいてみると……。入口前に「当店の最安値コーナー 何と!19円均一(税別)税込み21円だよ~ん」と書かれた、21円コーナーが目に入ってきた。その手前には1冊50円、3冊で税込み108円の文庫も並べられている。

恐る恐る店内に足を踏み入れると一見チョイ悪、でもとても優しそうな風情をたたえた、店長の天久斉さんが迎えてくれた。天久さんは大学生だった1982年(昭和57年)からアルバイトをしていて、勤務歴36年目(当時)だと教えてくれた。

二階は個別指導塾。勉強でお困りのお子様がすぐ来られる距離が素晴らしい。
21円コーナーは、店入口横の軒下にある。

と言っても『BOOKSじのん』になったのは1997年のことで、前身は1981年にオープンした、ロマン書房という店だった。ロマン書房は那覇をはじめ県内各地に出店していたものの、立ち行かなくなりクローズした。宜野湾店は存続したものの店名を変えざるを得なくなり、1997年にうちなーぐち(沖縄の言葉)で宜野湾を意味する「じのーん」にちなんで、じのんとなった。

「ずっと地元育ち」の天久さんは琉球大学出身で、「考えて動けば、結果が出る時代だったから」と、バイト時代から店長を任されていたという。

沖縄国際大学から約1キロの距離も幸いしているのか、地元の研究者との太いパイプがある同店は、「沖縄」をテーマにした本の品ぞろえがとにかく手厚い。

「研究者はたった1行のために、高価な本を買ってくれるんだよ。もう30年以上働いているけど、今でも見たことがない本と出会うとわくわくするね。あとはとんでもない本を探している人が、その本と出会える場面に立ち会えると嬉しくて」

BOOKSじのんの男前店長・天久斉さん。沖縄関連本を探しているなら問い合わせてみては?

沖縄各地の郷土史や歴史民俗資料館の冊子などもあり、地域のことを深く知りたい場合はここに来れば間違いはなさそうだ。地域本以外にも『琉球銀行三十五年史』『沖縄ハンセン病証言集』、与那国町老人クラブ連合会の記念誌といった「沖縄の〇〇史」がわかるものが、オールラウンドで置かれていた。悩まし気な琉球美人が描かれた『沖縄ことわざかるた』も興味深い。

琉球美人が描かれた『沖縄ことわざかるた』。うちなーぐちを学ぶにはもってこい⁈

「ロマン書房時代はCDとかレコードとか、エグい本とかもあったんだけどね」

とはいえ今も『奇譚クラブ』や『えろちか』など、なんだかエグそうで通好みそうな本も並んでいる。そしてBOOKSじのんは新刊書店ではないにも関わらず、ブッカー(本のカバーコーティング)ができることから宜野湾図書館に新刊本を納入している。そして沖縄関連の堅い本の、大量一括買いを請け負っていることも特徴だ。

それはひとえに置ける場所(店舗)があり本がさばけるだけでなく、大きな車があるから、もう売れる見込みがない本を近くの処理場に捨てに行けるからだと天久さんは言った。仕入れたものが売れるのを待つだけではなく、時には思い切りよくお別れするのも、店を続ける上で必要なことなのだろう。本の末路については普段あまり聞かないだけに、少し新鮮に聞こえた。

ところで21円コーナーは、なぜ21円なのだろう? 21世紀だから?

「税込み20円にしたかったけれど消費税が8%に上がった時に、21円になっちゃって。面倒だからそのままでいいかと(笑)」

「青い海 おきなわ」「文芸作品 おきなわ」と、どんなジャンルにも「おきなわ」がついている。

消費税が10%に上がった現在はどうなのだろう? 個人的には気になるところだけど、それは次回以降に改めて。2017年の記録を、もう少し続けさせてほしい。(続く)

【関連記事】
ひとり旅経験者に聞く!海外・国内おすすめの旅先、人気ランキング!

 

特集

TAGS

この記事をシェア