五感を研ぎ澄まして味わいたい、新感覚のカクテル(大人のひとり美食)

ニューヨークと東京を拠点に、現代美術コラボレーターとして活動していた経験も持つ、「ナガエプリュス」取締役・ブランドプロデューサーの鶴本晶子さん(左)。右が、「The SG Club」のファウンダー、後閑信吾さん(撮影・萩原美寛)

日本の金属加工技術を軸に、世界的に類を見ない、チタンや錫(すず)といった金属のハイエンドテーブルウエア、アクセサリーなどの商品開発、ブランディングの第一人者である鶴本晶子さん(51歳)。多忙な鶴本さんが、時間の合間を見つけてはひとりで訪れるという、とっておきのバーがあります。

コンセプトメイキングに驚く、他にない空間

鶴本さんは、9月にローンチした新アクセサリーブランド「suwa megami(スワメガミ)」のブランドディレクター。合金の「コバリオン」(人工骨用に開発された金属)を原料に、長野県諏訪市の金属加工業者「松一」の磨きの技術を生かしたアクセサリーデザインは、茅野市出土の国宝土偶「縄文のビーナス」の造形からインスピレーションを得ているといいます。

「『The SG Club』は、仲良しのバーウェアブランドの友人にオープンしてすぐに連れてきて頂いたんです。『とんでもないバーができた!』って」(鶴本さん)

昨年6月に渋谷にオープンした「The SG Club」は、世界的に活躍するバーテンダーの後閑信吾さんがオーナーを務めるバー。1階はカジュアルな “Guzzle(ごくごく飲むの意)”、地下1階はハイエンドでオーセンティックな雰囲気の “Sip(ちびちび飲むの意)”と、異なるコンセプトのバーになっています。

「The SG Club」のテーマは万延元年遣米使節団。ジョン万次郎や福沢諭吉なども属していたその使節団は、1860年に徳川幕府が公式にアメリカに送り込んだものですが、使節団の人々がアメリカを初めて見て驚いたことは想像に難くありません。そんな「サムライたちが西洋のバー文化に触れ、江戸に戻ってバーをオープンしていたら」という想像をもとに、空間をつくりあげました。

地下1階の照明には1860年代に作られた着物の染め型がはめられていたり、トイレには酒にまつわる落語が流れていたりと、遊びごころを随所に感じます。

地下1階のSip。「サムライたちが西洋のバー文化に触れ、江戸に戻ってバーをオープンしていたら」という架空の設定がデザインコンセプト。(撮影・萩原美寛)
1860年代に作られた着物の染め型がはめられている照明。ひとつひとつ柄が異なる。(撮影・萩原美寛)

既成概念がふっとんだ、未知の味わいに感動

「初めて訪れた時に、地下のバーで後閑さんが作ってくれたのが、“Speak Low(スピーク・ロウ)”という名の抹茶のカクテルでした。一口飲んで、“これは何なんだ!? ”と衝撃を受けましたね。私のなかにあるカクテルの既成概念が吹っ飛んだ。今まで体験したことのないおいしさ。どこかホッとするニュアンスもあるんだけど新しい。大人の円熟した味わいで、そのカクテルと共に時間の密度とか濃度が高まっていくというか」(鶴本さん)

「Speak Low」は抹茶とラム2種、シェリーを使っていますが、実は後閑さんが、2006年に修行のためにニューヨークへ渡米した後、2012年の「バカルディ世界レガシーカクテルコンペティション」の世界大会で優勝したカクテル。2014年にオープンした上海市内の彼のバーの店名は、そのカクテルにちなんで「Speak Low」と名付けています。

それからというもの、鶴本さんは時間ができると「The SG Club」を訪れ、後閑さんのカクテルの洗礼を受けるようになりました。「私自身が金属という素材にこだわり、携わる職人さんと会話し、今までありそうでなかったものを作ることに情熱を傾けてきましたが、共通のスピリットを感じる」と鶴本さん。

「常にカクテルはおまかせでお願いしています。次はどんな味わいのものが出てくるのかという、ワクワク感と緊張感が味わえますから。素材の組み合わせ、センスがとんでもなく天才的で、絶対的な信頼感がある。クリエイティビティを触発されるような、上質な体験ができるんです」

オーナーバーテンダーの後閑さん。現在はニューヨークを拠点に世界中を飛び回る毎日。2017年にはバー業界のアカデミー賞と呼ばれる、「Tales of the Cocktail」にて「International Bartender of the Year」に選出。上海にも3軒のバーを経営。(撮影・萩原美寛)
鶴本さんがデザインディレクターを担当した錫製の「TRAVEL CHOCO 旅する猪口」(NAGAE+)。日本酒やワインの専門家の意見をもとに制作したそう。(撮影・萩原美寛)
寿司に見立てた「WHISKY NIGIRI」(1900円)は山椒の香りがアクセントに。鶴本さんの指には、美しく輝く「suwa megami(スワメガミ)」シリーズのリングが。(撮影・萩原美寛)

「ウィスキーの握り」という名のカクテルとは?

そんな鶴本さんと後閑さんとのコラボレーションといえるのが、彼女がデザインディレクターを務めた、錫製の「TRAVEL CHOCO 旅する猪口」仕様のカクテル。旅やアウトドア用に作られた猪口ですが、ユニークなのは、「トランペット型」「白ワイングラスの形状」「赤ワイングラスの形状」「コップ型」の4つの異なる飲み口があること。注ぐお酒に合う飲み口で味わうという発想が新鮮です。

この猪口を使って後閑さんが新しく考えたカクテルが、「WHISKY NIGIRI(ウィスキーの握り)」。

「通常だったらトロやハマチといった魚介類を握るところを、ウィスキーを握ったという発想ですね。外国人でも寿司の 『握り』がわかる人が多くなっているので、このネーミングにしました」と後閑さん。それを受けて鶴本さんは、「すごいワンダーランド! ウィスキーが魚として握られているビジュアルを思い浮かべてしまいました(笑)。話を聞いていると脳が刺激される!」と大はしゃぎ。

「日本酒はおそらく世界で唯一、どの温度でもおいしいお酒。シャリシャリと凍っていても、熱くてもおいしい。錫は熱伝達が早いので、手で持っているとどんどんお酒の温度=味が変化します。「黒龍」の純米大吟醸を使うことで“シャリ”を演出して、本ワサビ、米酢のニュアンスも忍ばせています。グラスの周りにはフリーズドライのしょうゆをつけました。飲み口を変えると味が変わるのがまたおもしろいところかと」(後閑さん)

口をつけた鶴本さんは驚きのあまり目をパチクリ。「きゃ〜、これ本当、お寿司だわ。おいしい! 最初にウィスキーの香りがくるんですね。握りと一緒だ!」

そのほかにも新メニューから、やさしい雨の香りのする「RAIN & MOSS GIN FIZZ 雨と苔のジンフィズ」や、コーヒー豆の高級品種「ゲイシャ」とアプリコット、カンパリ、「ルクマ」と呼ばれるペルー原産のフルーツを使った「GEISHA (AT) PLAY 芸者(の)遊び」というカクテルを堪能。カクテルのネーミングも、「なるほど!」と膝を打つようなセンスを感じさせます。

「まさに後閑マジック。毎回、メロメロです」と鶴本さんはうっとり。

普段、後閑さんがカクテルのインスピレーションを得るのは、旅が多いといいます。世界的なカクテルのコンクールの開催やゲストバーテンダーとして世界中から招かれ、本場のイギリスやアメリカはもちろん、ヨーロッパ、南米やアジアを訪れる機会が多いので、現地にしかない食材などにも出会うそうです。「芸者(の)遊び」で使ったフルーツも、ペルーの市場で出会いました。

「後閑さんのカクテルは、単においしいだけじゃない。彼の知性、感性を、自分のファイブセンス(五感)を研ぎ澄まして感じることによって、極上のリラックスが待っているという。その味覚の旅をしっかり味わいたい。だからこそ、ひとりで来たい店でもあるんです」(鶴本さん)。

コーヒー豆の高級品種「ゲイシャ」とアプリコット、カンパリ、「ルクマ」と呼ばれるペルー原産のフルーツを使った「GEISHA (AT) PLAY 芸者(の)遊び」(2200円)。最初にフルーティなコーヒーの香りがした後、官能的でエキゾチックな雰囲気に。(撮影・萩原美寛)
雨の香りのする「RAIN & MOSS GIN FIZZ 雨と苔のジンフィズ」(1700円)。「これに関しては素材は内緒。事前情報なしに味わって欲しいので」と後閑さん。(撮影・萩原美寛)
渋谷駅から歩いて代々木公園の手前にある「The SG Club」。1FのGuzzeleではノンアルコールのカクテルも充実(撮影・萩原美寛)

〈店名〉
The SG Club

〈住所〉
東京都渋谷区神南1-7-8

〈営業時間〉
Guzulle 11:30〜26:00(金・土曜〜27:00)
Sip18:00〜26:00(金・土曜〜27:00)
不定休

詳細はこちら  

〈ご予約・お問い合わせ〉
☎︎03-6427-0204

 

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