何が起こるか分からない「すごろく旅行」の魅力~石川浩司の「初めての体験」

名古屋旅行で初めての「すごろく旅行」(イラスト・古本有美)

僕は旅行術の本を2冊上梓している。『すごろく旅行のすすめ』(筑摩書房)と『すごろく旅行日和』(メディアファクトリー)だ。この「すごろく旅行」とは、僕が発案した旅行スタイルで、どこに行くか、何をするかがわからない、ミステリーツアーみたいなものだ。今回はこの「すごろく旅行」について書こうと思う。

すごろく旅行を始めた理由

30年以上前のこと、妻がまだ彼女だった頃の話だ。一緒に名古屋へ遊びに行くことになった。数日間のオフだったため、彼女から「いろんな所に立ち寄りながら名古屋へ行く? それとも名古屋に行って現地で遊ぶ?」と聞かれた。

そこで僕は、前々から考えていたことを提案した。「あのさ、サイコロ転がして、どこの駅で降りるか分からない旅行してみない?」。妻はキョトンとしながらもうなずいた。これがすごろく旅行の始まりである。

僕は昔から旅行が好きで、いろんな場所をガイドブック片手に歩き回った。しかし、次第に「何かが違う」と感じることが多くなった。それは僕の旅が、ガイドブックに載っているビューポイントなどの「見どころ」を確認する作業になっていたからだ。

それではどんなことが楽しかったのか? 旅の思い出を振り返ると、ちょっとしたハプニングや人との出会いなど、予想しなかったことが起きた時だった。「それならハプニングが起きやすい旅をすれば面白いのではないか」と僕は考えたのだ。

そこで思いついたのが古来からある「すごろく」だ。自分自身が駒になって旅をしてみたら楽しいのではないかと考えた。サイコロを振って、止まったマスに書かれた駅に実際に行く。そして、その町ですることが書いてあるクジを引き、クジに書かれた内容を実行してから次に進むのだ。

思惑通り、妻と2人で行ったすごろく旅行は愉快なハプニングの連続で、最高の思い出となった。その後、友達と一緒に行く先さえも決めないすごろく旅行をするようになり、台湾や韓国にも行った。僕の青春時代の旅は、アマチュアバンド時代の貧乏ツアーとこのすごろく旅行だった。

すごろく旅行のルール

詳しいルールを紹介する。サイコロをふたつ振り、出た目の数だけ進んでその駅で降りる。そして、あらかじめ作っておいた「その町でやることクジ」を引く。クジの条件は、「1時間以内でできること」、「お金はかかってもひとり500円以内」、「あまり厳しい罰ゲーム的なものは作らない」などだ。

本当のすごろくと違うのは、ゴールを決めず全員で一緒に行動すること。今は第三セクターになり使えなくなった路線も多くなったが、JR全線で使える「青春18きっぷ」がこの旅行にはうってつけだった。

気になるのはクジだろう。実際どんな駅で下車するか分からないので、その場所場所によって難易度も変わってくる。例えば、「その町で一番高い所に登って紙飛行機を飛ばす」というクジを引いたら、都会ならビルの屋上かもしれないし、田舎では丘の上にある見晴台かもしれないのだ。

クジによって、見知らぬ土地が思い出の場所になることもある。台湾ですごろく旅行をしたときは、「はだしになって川を向こう岸まで渡る」というクジを引き、みんなでキャーキャー言いながら川を渡った。そんな馬鹿な大人たちの様子を見ていた地元の子供たちが仲良くしてくれて、スイカをふるまってくれたのだ。こんな出会いも、普通の旅行ではまずあり得ないだろう。

それでは、すごろく旅行が盛り上がったクジをいくつか紹介してみよう。

  •  「なるべくデカイ物を30分以内に拾う。一番小さい物を拾った人が、それを次の駅まで運ぶ」
  •  「一切の声を発してはいけない。すべてジェスチャーで表現する」
  •  「次の駅まで後ろ向きに歩く。30分以上かかる場合はそこまででよい」
  •  「食堂か喫茶店に入り、人生で一度も注文したことのない物を注文する」
  •  「次の駅まで石蹴りをしながら行く。途中で石をなくしたら前より大きな石を探して蹴る」

ひとつずつエピソードを書きたいが、それは長くなるので、気になる人は前述の本を読んで、ぜひ試してみてほしい。

そういえば、この本が出版された時に、北海道のテレビ局から連絡があった。「石川さんのすごろく旅行をヒントに番組を作ってもいいですか」という申し出だった。実際のルールなどは違うが、それが『水曜どうでしょう』(北海道テレビ放送)の「サイコロの旅」である。これをキッカケに大ブレイクして全国区になった大泉洋さんは、密かに僕の企画から番組が始まったことを、まだ知らないかもしれない。

 

連載

TAGS

この記事をシェア