パンダ目当てにひとり動物園の私、カワウソにハマる(かわうそ一人旅・0)

りりしかった「シャア」くん。2007年4月撮影。

ひとりで動物園に行く。

遠足の子どもたちやカップルが和気あいあいと過ごす中、ストイックにひとりで動物の仕草を見続ける。

まったく寂しくはない。動物の子どもはあっという間に大きくなってしまう。友人とスケジュールを合わせているうちに、かわいい盛りが終わってしまうこともある。

それに人間はひとりひとり、好きな動物が違う。相手に気兼ねせずかわいい姿をいくらでも眺めていられる楽しさは、何物にも代えがたい。今ではひとり動物園はそう珍しいことではなく、シャンシャンの周りには立派な撮影機材を抱えたり、パンダグッズで身を包んだりした同好の志をよく見かける。

シャンシャン……ではなくこれは父のリーリー。2018年12月撮影。

パンダ目当てがカワウソにハマる

最初のきっかけは、今から十数年前にひとり出張で和歌山の勝浦を訪れたことだった。時間があったため、取材前に白浜町のアドベンチャーワールドに立ち寄った。ちょうどこの頃、2012年に中国に戻った明浜と愛浜が生まれて間もなかった。

初めて目にする、コロコロとして小さなパンダの赤ちゃん……! あまりの愛くるしさに目が溶けそうになった。パンダ舎前に張り付いていると「止まらずに進んでください!」と係員に促され、しまいには引っぺがされた。何度も列に並び直した。

この時の滞在時間は1時間程度。当時のアドベンチャーワールドの入場券は3500円程度だった記憶がある。しかし倍額払っても惜しくないと思った。

あまりよく撮れていないが、赤ちゃんパンダの可愛さは十分伝わるのではないか。2007年4月撮影。

翌日も私は、アドベンチャーワールドを訪れた。この日は時間があったのでラッコやペンギンなど、パンダ以外もじっくり見て回った。せっかく入場料を払ったのだからと、アシカやコンゴウインコなどが登場するライブステージも鑑賞した。

その時だ。私の目はちょこまかと動く、小さな動物にくぎ付けになった。コツメカワウソだ。すばしこい動きでステージを走り回る姿とつぶらな瞳に、問答無用で一目ぼれしてしまった。か、かわいい……!

赤ちゃんパンダを目当てに訪ねた私だが、ライブ終了後に行われたふれあいタイムの列に並び、コツメカワウソをなでなでし続けた。どこか大物のような風情をたたえるカワウソの名前は、「シャア」だった。キャスバル兄さんはこんなところで働いていたのか。聞けば「アッガイ」もいるそうだが「ギャン」や「百式」はいないという。

りりしかった「シャア」くん。2007年4月撮影。

すっかりカワウソのとりこになった私はその後、カワウソサークルに入会した。オフ会にも行った。仲間との情報交換はとても意義深かったが、管理人がネトウヨ用語を頻発することに辟易して、「ひとりでこれからもカワウソ巡礼をしよう」と決めた。

ちなみに最近、アドベンチャーワールド関係者と話す機会があった際、シャアについて尋ねたところ、現在はバックヤードで余生を過ごしているとの言葉が返ってきた。キャスバル兄さんは健在だったのだ。

上野動物園や市川市動植物園、ズーラシアなど、カワウソがいる動物園は都内や近郊にいくつもある。私は時間ができると勝手に安否伺いに立ち寄った。コツメ、ツメナシ、ユーラシア、カナダ、ビロードと、カワウソの種類に詳しくなったのもこの頃だ。

体長2メートルにもなるオオカワウソだけは怖くて仕方なかったが、それ以外のカワウソはすべて、愛すべき対象となった。

ソウル大公園の、ユーラシアカワウソ。2010年5月撮影。

人間に追われ、絶滅した動物がペットに

この頃から、カワウソがテレビの動物バラエティー番組で取り上げられるようになった。女性芸人が全国の観光地に、カワウソの赤ちゃんを連れまわす番組のコーナーは話題となり、「カワウソってカワイイんだね!」と、私に言ってくる人が格段に増えた。

しかし一方で「あれ……?」と思うこともあった。女性芸人がまるでペットのように連れまわしていたことから、「カワウソを飼いたい」という声を耳にするようになったのだ。

カワウソはワシントン条約の付属書Ⅱ類、種類によっては付属書Ⅰ類に規定されている。コツメカワウソは商用目的の輸入は可能な付属書Ⅱ類ではあるものの、「現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのある」動物なのに、ペットにしていいものなのか……?

首都圏のあるペットショップのホームページによれば、当時、コツメカワウソは1匹84万円で販売されていた。よく動き回りよく食べてよく鳴き、水場を必要とするこの沼臭い香りのする動物を一般家庭で飼うなんて……。

個人的にはより疑問が強まったが、カワウソと触れあえるカフェや、飼ってるカワウソを題材にしたYouTube配信など、カワウソのペット化はどんどん進んでいった。それと比例するかのように、タイなどからコツメカワウソを密輸しようとして、関税法違反容疑で捕まるといった報道を目にするようになった。

ちょっと待ってくれ。この国は以前、カワウソを絶滅させたじゃないか――。

かつての日本はほぼ全域に渡り、二ホンカワウソが生息していた。しかし環境省の生物情報収集・提供システム「生き物ログ」によれば、明治年代に毛皮目当ての乱獲でその数を大幅に減らし、その後も河川開発による生活環境の悪化、水質汚染などが原因で激減。1979年に記録されて以降、確実な生息情報がなくなった。

2012年に二ホンカワウソは絶滅種に認定されている。人の暮らしが奪った命を、再度ペットとして呼び戻すとは……なんと罪深いことか。

ラッコはイタチ科ラッコ属で、カワウソの親戚的ポジション。アドベンチャーワールドにて。2007年4月撮影。

とはいえ、私にできることなど何もない。己の無力さを痛感しつつ無為な数年を過ごしていたある日、動物情報番組をチラ見していたら、なんでも日本同様絶滅の危機を迎えた韓国では、カワウソが大復活しているという。釜山では川辺や地下鉄の駅構内でも目撃されていると伝えていた。

なぜ復活したのか。秘密を探るべく番組は、カワウソが目撃されている慶尚南道晋州市のジニャン湖 (晋陽湖)を訪ねていた。ジニャン湖。なんだそのかわいい響きは! さらにカワウソの野生復帰を目指す『韓国カワウソ研究センター』なる場所も紹介されていた。韓国ではカワウソ復活は、一大事業だったのだ。

野にいるカワウソが見たすぎて

の、野にいるカワウソ見たすぎる!

しかしジニャン湖も韓国カワウソセンターも、辺鄙な場所にある。そして私の韓国語能力では、通訳なしでカワウソの専門的な話をするのは不可能に近い。言葉ができる誰かに、車で連れてってもらわないと……。

以来私の野望は、「韓国カワウソセンターに行く」ことになった。もはやひとり動物園でもなんでもなくなっているが、なぜカワウソを護ることができたのかを知り伝えることで、ライターとしての使命を果たすことができる。これこそ物書きの醍醐味というものだ。

しかし私には、アテもツテもなかった。だが2019年晩夏のある日、日韓交流コーディネータ&通訳をしている先輩が、カワウソ研究センターへの訪問ツアーを計画してくれたのだ。この頃は「日本と韓国の間には深い溝が」というニュースばかりが流れていたが、何度韓国を訪れたかわからない私には、行くという選択肢以外あるわけもなかった。

が、人数が集まらずツアーはあえなく中止となった。あまりにもマニアック過ぎたか……。もう航空券を予約し、後に引けなくなっていた私は、ひとりで行くことに決めた。

(続く)

 

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