野に住むカワウソ見たすぎて…韓国の施設を訪ねた(かわうそ一人旅・1)

日本から望遠レンズを持参してよかったと心底思った、フォトジェニックなカワウソ。

「カワウソが好き」が高じて、ひとりで韓国まで訪ねることにしたところまで、前回紹介した。目指すは江原道華川(ファチョン)郡にある、アジア唯一のカワウソ研究機関の「韓国カワウソ研究センター」だ。

【前編】パンダ目当てにひとり動物園の私、カワウソにハマる

華川ターミナルには首都ソウルからバスで2時間半程度で到着する。そこからタクシーに乗ればいいのかと、ソウル近郊に住む友人・ヒジョンにLINEで相談した。すると「行きはタクシーで行けても、帰りはタクシーがつかまらなさそうな場所にある。車を持ってる友人を呼ぶので皆で行こう」と言われた。この時点で1人でなくなったが、渡りに船である。

晴天に恵まれた10月の日曜日、私とヒジョンはソウルの龍山駅から『青春』という名の列車に乗り、まずは『冬のソナタ』で有名になった、江原道の春川市を目指した。

『青春』号の車内。乗り心地はなかなか良い。

1時間程度で到着する南春川駅周辺はソウルのベッドタウンといった印象で、お約束の高層マンションが何軒も並んでいた。車を停めて待っていたのは、ヒジョンの友人のチャン・ウニョンさんと、夫のキム・ヨンスさんのご夫婦。2人とは初対面だったが、うん、仲良くなれそうだ。

入山禁止の山の先に「カワウソの村」

「日本ってカワウソは、身近にいるの?」

ヨンスさんが不思議そうな顔で、日本のカワウソ事情について質問してきた。そこでニホンカワウソが2012年に絶滅種になったことを伝えると、「子どもの頃に慣れ親しんでいた動物でもないのに、なんで好きなの???」と、まさに謎といった表情を浮かべた。

「かわいいから」としか答えようがないのでそう言ったものの、私以外の3人はカワウソ自体に興味はなく「なんか楽しそうだった」から、わざわざ同行してくれたことに気づいた。ありがたい反面、彼らにカワウソのかわいさを伝えることができるのか……?

春川市内から高速道路を経由して40分も走ると、辺り一面は山景色に包まれた。ところどころに「入山禁止」の横断幕が掲げられている。そ、そんなに危ないところ? やだ……ちょっと怖い。

入山禁止の横断幕。別に熊が出るとか崩落するとかではなく、キノコなどの不法採取を禁止するのが目的の模様。

しかし「カワウソの村」という看板が視界に入った瞬間、一気にテンションがアガった。

5.3キロにわたる「カワウソの道」がある「カワウソの村」看板。
センター外観。
カワウソマークがお出迎え。

センターに入ると、研究員のキム・デサンさんが迎えてくれた。事前に連絡をしており「今日はあまり業務に追われていない」ことから、普段はしていない案内を、特別にしていただけることに。う、嬉しい……!

韓国に生息しているカワウソはユーラシアカワウソで、センターにいるのは現在14匹。韓国でもカワウソは天然記念物1級に指定されていると、案内パネルを見ながらのレクチャーが始まった。

世界には13種類のカワウソの仲間がいることがわかるパネル。

シャアくんをはじめ、日本の動物園で見られるカワウソはインドやフィリピン、タイなどに生息するコツメカワウソが多い。コツメは仲間で暮らす習性がある。しかしユーラシアは縄張り意識が強く、基本的に単独生活をしている。オスのなわばりは半径15キロ程度、メスは10キロ程度だが、同性でなわばりがかぶると、途端にバトルが始まる。それが個体数の減少を招いた一因にもなっていることから、センターではカップル毎に、違う柵内で保護していると教えてくれた。

館内にはあちこちにカワウソが。剥製を見てもいやされるう~。
韓国の子どもたちが描いたと思しき、カワウソのイラスト。世界中どこでも子どもの考えることは似ている。

コツメの体長は40~60センチ程度だが、ユーラシアはその倍の120センチまで成長する。韓国では釜山やDMZ(非武装地帯)周辺でも目撃されていて、川辺にある隙間や木の下などに住んでいることがわかっている。

キムさんは日本で絶滅した理由のひとつに「護岸をきっちり整備したことがあるのではないか」と語る。コンクリートで固め過ぎたことが、カワウソの住処を奪うことにつながったのだ。また韓国はカワウソが絶滅する前に環境保護に動いたことも、功を奏している。

カワウソの個体維持は、生態系の維持につながる

2017年2月に琉球大のチームにより、対馬で野生のカワウソが撮影されている。DNAが韓国のユーラシアカワウソと特徴が一致したことから、「韓国のカワウソが海を渡ってきたのか?」とニュースになった。しかしキムさんは「ユーラシアカワウソは3~4分程度しか水中にいられず、50キロの海峡を泳いで渡るのはおそらく不可能。船や漂流物に乗ってきたのではないか」と見ている。

ほ乳類の中でも毛の密度がとても高く、放水できる仕組みになっているので、毛皮目的で狩られることもあった。(とくにカワウソの仲間のラッコは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも「らっこの上着」が登場するように、毛質が良いことで乱獲されまくった)。

またカワウソは25センチ程度の魚でもバリバリ食べることから、漁師から敵扱いされてきた。しかしカワウソがいないと生態系のピラミッドが崩れ、結果的に環境が破壊されてしまう。だから保護の必要性があるのだと、キムさんは言う。

センター2階のテラスから、屋外フィールドをのぞむ。湖と山に囲まれた景勝地にある。

なぜこの場所にセンターを作ったのか。キムさんに質問すると、カワウソの生態は以前から韓国環境部で研究していたが、近くのパロ湖から澄んだ水が引けること、周囲にゴルフ場などがなく、土壌も汚染されていないことが決め手となったそうだ。釜山の水路など、都会の水辺でも生息できることはわかっているものの、汚染物質が次世代に影響を及ぼす可能性があるため、水と土と空気のきれいさが大事なのだ。

「開発は必要だけれど、自然と共存できるはず」とキムさんが言うように、センター周辺は環境保護基準を満たさないと、開発できないようになっている。そしてエサは生きているものから死んでいるものまで、ランダムに与えて何を好むかをリサーチしているという。

ではカワウソはどこから連れてくるのだろう? この周辺に野生の集団が住み着いているのだろうか? そうではなく、親とはぐれた子を保護していることがわかった。そう、ここは鑑賞するのではなく、守るための場所なのだ。「カワウソが見たい」一心で来てしまったが、韓国のカワウソにかける情熱に触れ、胸が熱くなった。

チーム長で研究員の、キム・デサンさん。隣は2019年光州世界水泳マスコットで、カワウソのスリ。さらに隣にいる著者はトリミング(笑)。

センターにはキムさんを含め現在4人が所属していて、キムさんは子供の頃から動物好きだったこと、大学で環境保護を専攻していたことがきっかけで、センターに勤務するようになった。

「キムさんはカワウソのどこが好き?」

そう尋ねると、

「水の中を自由に泳ぎ回るのを見るだけで、楽しくなりますね」と返ってきた。

では、かわいいと思ってます?

「……極力直接触れないようにしているんですが、一度かまれると、もうかわいくなくなりますね(苦笑)」

まあ、イタチ科ですもんね……。

韓流タレントの名前を呼んだらやって来た

そしてこの日は通常は非公開の、研究者専用スペースにも案内してもらった。現在ここで2匹の子どもカワウソを保護していて、タイミングを見て野生に戻す計画だと教えてくれた。1匹は迷い込んできて、もう1匹は目撃した人間が触ったため親が飼育を拒否し、はぐれてしまった子だ。

カワウソ特有の、若干沼っぽい香りに包まれたその部屋には、ふわふわで小さな子供がいた。きょとんとした目で、こちらを見つめている。

カンヌリと呼ばれている子どもカワウソ。由来は江陵(カンヌン)市で保護されたから。
ヨンオリと呼ばれている子どもカワウソ。理由は寧越(ヨンウォル)郡で保護されたから。

野生に戻すことを目的に保護・研究されているので、2匹も便宜上呼ばれているに過ぎず、基本的に名前はない。しかし人間にすっかりなじんだために戻すことができず、名前を付けられたカップルがいる。それが「ソイングク」ちゃんと「イナヨン」ちゃんだ。

オスはK-POP歌手、メスはウォンビンと結婚した韓流女優とは。「名づけの理由はよくわからない」ものの、「名前を呼べば10回のうち8回は顔を出しますよ」と言うから、こうしちゃおれん、ヨンオリ&カンヌリに別れを告げて、ダッシュで屋外に向かった。

センターは山あいの場所にあるものの、年間約8000人が訪れ、屋外のカワウソフィールドは一般開放されている。この日も家族連れやカップルなど、私たち以外にも10数人の見学者が熱心に柵をのぞいていた。

「イングクー!」
「ナヨーン!」

我ながらどうかと思いながら、でかい声で名を呼び続ける。するとひょっこり、どちらかはわからないが1匹が姿を現した! 3人と離れ、1人ぐるぐる歩いて違う柵をチェックすると、そこでもカワウソを見ることができた。ああ、来てよかった。

イングクかナヨンか分からないが、律義に出てきてくれた。
遊んでいるカワウソは、時折ワライカワセミのような「キャッキャ」という声をあげる。

日暮れ近くまでたっぷり堪能してセンターを後にし、ウニョンさん夫婦いきつけのサンパッ(野菜包みご飯)の店に立ち寄る。するとこれでもか! という品数のおかずがやってきた。グーグルレビュー4.2の店だけにサービス満点かつ味もいい。でも車がないと立ち寄りにくい場所なので、今度はいつ来られるだろうか。

おかずがありすぎて撮影が困難だったサンパッ定食。右上の黒い貝は「ウロンイ」。「いける!」と思ったら正体はタニシ……。

「純豆腐みたいな、家で作らないものが出てくると食べちゃうのよね~」と嬉しそうなウニョンさんとヨンスさん。ところでカワウソ、好きになってくれました?

「考えてたより大きくてかわいかった。でも他の見学者が手を伸ばしたら、かもうとしていたから、性格はかわいくない!」(ウニョンさん)

「後ろ足で体をかくのとか、うちで飼ってるマルチーズにそっくり。顔の相が犬相だね!」(ヨンスさん)

「まあ、かわいいと思いますよ。きれいなところだったし、楽しかったです」(ヒジョン)

チャン・ウニョンさんと、夫のキム・ヨンスさん。ロクに韓国語が話せない私を、手厚く歓待してくれました。

うん、「かわいい」という言葉が引き出せたのでよしとしよう。旅は道連れ。その土地の誰かと一緒に動くと、旅の引き出しがぐんと増える。また会いましょうと約束してすっかり暗くなった道を歩き、ソウルに戻る地下鉄の駅を目指した。

 

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