話したい店。知人のビストロで活力補給(わいん厨房店主のひとり飲み術)

(イラスト・古本有美)

今日はグループで貸切みたいに使って頂いたお客様のおかげで、目標達成。こんなときはテキパキと早くに上げて、無性に飲みに行きたくなるもの。しばらく顔をみていない知り合いがオーナーソムリエを務めるお店に、近況報告も兼ねて出かけました。

話しやすいカウンターの構造とは

このお店、料理はフレンチ、飲み物はワインで、黒服の人間がカッチリ給仕してという感じではなく、より食堂に近い感覚。テーブル席が多いが、厨房との境目にカウンター席を設けてあり、一人でも飲食出来るお店です。

ただ、今回の目的は「お話」することだから、カウンター席があるだけでは駄目ですね。お寿司屋さんのように、目の前が程よい高さに立ち上がっていて、そこでお酒や食べ物を職人さんとやり取り出来るなら良いですが、目の前に皿や酒のボトルがついたてのように積んである店だと対話出来ません。

ちなみに弊店も創業時はまさにお寿司屋様スタイルでしたが、今の店舗は構造上、やり取りするところを高くせざるを得ないので、向き合ってという感覚が残念ながら少し薄れてしまいました。私が立ち位置を工夫しています。

でも今日のお店はカウンターの端に、デシャップと呼ばれる、出来上がった料理を運ぶ前に一時的に並べる準備台や、会計場所があり、店員が客席全般に目を配りながら待機していることが多いので、相手にされ易い?です。店員と話が出来るかどうかは、店の間取りにもよるでしょう。

既にこれから行く旨を店に伝えてあるので、スッと奥のカウンターに腰掛け、

「今日はキッチリきめて、早終わりしてココを目指したよ」

と喜々としてオーナーに報告。泡ものをグラスで頼み、矢継ぎ早に、

「貴方も飲んだらどうですか?」

とすすめて、ささやかに乾杯です。オーナーも給仕しながら上手に、互いに積もる話をしていきます。

兵士に活力を与えた豆と肉の煮込み・赤のマリアージ

つまみは寒い時期の定番「カスレ」をお願いしました。発祥は複数云われていますが、スペインにほど近い南仏の郷土料理で、塩漬け肉や燻製・油煮込み(コンフィ)といった食肉加工品と豆を土鍋で炊いた煮込み料理です。

中世の百年戦争の頃、英国に包囲された兵士に、住民がありったけの食材を釜で炊いて、地元のワインと共に振る舞い、補給出来た兵士が大活躍したという話があり、味だけでなく縁起もいい、私の好物の一つです。柔らかく煮込まれた白いんげん豆が、肉の旨味を吸って、トロリとした食感の鴨肉やソーセージ、内臓肉なども入り、風味豊かな食べ応えのある、中和するためのワインが必要な料理です。

家庭料理でもあり、日本でいうと鍋物のような食べ物でしょうか。現地では土鍋を皆で囲んで食べると聞かされたことがあります。食べる前にグラタン皿に盛り付け、オーブンで表面を焼いたりするのですが、暖炉で上手にこしらえるとも聞きます。豆を煮るときには、暖炉のほどよいところに土鍋を置いておくと、あとは勝手に出来上がる。朝出かける前にしかけておいて、帰ってきたらほどよく煮えているとも…。取材してみたいところです。

これに合わせるワインは、同じ南仏産の瓶熟成した赤。カシス様な果実味というよりドライフルーツ感にスパイスな香りで、渋味もしっかり、熟成からくる獣っぽい香りもある重厚タイプですが、料理の強い風味に負けず、料理が食べやすくなります。食べ物とワインが口中で合わさると味わいが倍増するよう。そして料理のこってり感をワインの渋味がぬぐって、食欲がまたかきたてられます。重厚なこのワイン単体では飲み疲れてしまいますが、この料理がワインを飲み進めさせているとも言えるでしょう。

今回はオーソドックスに、土地の料理と土地のワイン、地産もの同士の組み合わせでしたが、酒質的にはピレネー山脈を越えたスペイン産や、中部〜南部イタリア産の赤ワインでも楽しむことができるでしょう。

オーナーと久しぶりに交歓し、ワインの熟成状態や、料理の出来栄えなども話を交わし、今日の喜びもひとしお。またこんな酒が飲めるよう頑張りたいものです。カスレと地元のワインで兵士たちが大活躍したという話は、どうやら間違いなさそうです。

 

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