「海老ひつまぶし」鮮度とタレの漬け加減が絶妙、6種の味の変化を楽しむ

海老ひつまぶし

愛知県の県魚は車海老。三河湾産の車海老は東京の高級料亭や寿司店でも一目置かれるほど質が良く、全国屈指のブランドとして認知されている。

昔、三河湾では車海老に限らず、多くの海老が獲れたそうで、西尾市一色町の名物「えびせんべい」は明治時代半ばに、獲れすぎたアカシエビを主原料として全国で初めて作られたという説もある。

『花菖蒲』外観。駐車場も完備している

「6種類の味が一度に楽しめる」

名古屋市の隣町、あま市にある『花菖蒲』は海老料理専門店。定番の海老フライをはじめ、お造りや天ぷら、塩焼きなど海老づくしのコースなどを用意している。

噂を聞きつけて、わざわざ遠方から訪れる客もいるという。私も3年ほど前に取材したのを機に、大ぶりな海老フライを目当てに足を運んだ。

今回、久しぶりに訪れてみると、新しいメニューが何品か加ええられていた。中でも私の目がクギ付けになったのは、「海老ひつまぶし」。お櫃に入ったご飯の上に海老のかき揚げをのせて、薬味とだし汁でいただくひつまぶしは食べたことがあるが……。

「この、『海老ひつまぶし』って、海老のかき揚げとか天ぷらのひつまぶしですか?」と店員さんに聞いてみると、

「海老天ものりますが、車海老と甘海老、赤海老の刺身や酒炒りしたむき海老、干しエビと6種類の味が一度で楽しめます」とのこと。

もう、完璧なセールストーク(笑)。まったく味が想像できないが、旨そうな雰囲気はビンビンと伝わってくる。期待を込めて注文してみることに。

たれの漬け込み加減が絶妙

「海老ひつまぶし」(税別1300円)

待つこと約10分。目の前に運ばれた「海老ひつまぶし」がこれ。真ん中にちょこんと海老天がのっていて、その周りを刺身の海老が囲んでいる。そして、刻んだカイワレと大葉が散らしてある。刺身は漬けにしてあるようだが、やはり見た目からは味がわからない。

干し海老とゴマの薬味が「海老ひつまぶし」の特徴だ

薬味は、刻み海苔とワサビ、ネギ。と、ここまではいたってフツー。異彩を放っていたのは、干し海老とゴマ。これらをのせて食べたら、口の中でチクチク、ゴロゴロしそうだ……。そんなことを考えていたら、

「干し海老とゴマは、お茶漬けにされたときにお使いください」と、店員さん。

なるほど。干し海老にだしをかけて香りも楽しめるということか。こりゃ楽しみだ。

ワサビが香るたれが美味しい

お櫃から茶碗によそう際、天ぷらと刺身、むき海老をまんべんなくのせていく。そして、ひつまぶしのセオリーに従って、1杯目はそのままいただく。

まず驚いたのは、醤油ベースのたれの味付け。ワサビも使っているのか、刺激と香りがほんのりと広がるのだ。後味をすっきりとさせるカイワレと大葉もイイ仕事をしている。

また、たれの漬け込み加減が絶妙。これ以上漬けると、辛すぎて海老の味も損ねてしまうし、薄すぎても物足りないだろう。きっと、メニュー化されるまで何度も試したに違いない。

刺身は、プリプリとした食感と上品な甘さの車海老と、ねっとりとした食感の赤海老、濃厚な甘みの甘エビ。まさに美味しさは三者三様。天ぷらとむき海老にはバナメイ海老を使っているそうで、こちらも車海老とまではいかないがプリッとした食感とほのかな甘みがある。

刻み海苔とネギ、ワサビをのせて

ワサビの刺激が引き出す海老の甘み

2杯目は、薬味の刻み海苔とワサビ、ネギをのせて食す。おおっ! 刻み海苔の香ばしさとネギの風味もさることながら、驚愕したのはワサビ。刺激と香りが海老の甘みを引き出していているのだ。薬味を加えただけで、そのまま味わう1杯目とは全くの別物になってしまったではないか! 絶対にこっちの方が旨い。

日替わりの小鉢と漬物。いずれも箸休めには最適だ

締めくくりの3杯目の前に「海老ひつまぶし」に付いてくるものも紹介しておこう。こちらは、日替わりの小鉢と香の物。この日は大根の皮と揚げの煮物。素朴な味わいで、箸休めにぴったりのひと品だ。

名古屋ならではの赤だし。具は三つ葉、ワカメとシンプル

うなぎのひつまぶしには吸い物かもしれないが「海老ひつまぶし」には赤だし。これも味のバランスを考えてのことだと思う。何よりも私にとっては慣れ親しんだ味。

デザートのプリン。平日の昼は無料で(夜は100円追加で)コーヒーが付く

デザートに小さなプリンも付く。女性のみならず、私のような中年男にとってもウレシイ限り。これが付いているのといないのでは満足度が違う。デザートまで付く、いわばフルコースで1300円という値段はお得すぎる。

すべての薬味をのせた状態。このままでも十分に美味しそう

最後はお茶漬け、奥行きのあるだし汁

そして、いよいよ3杯目。すべての薬味をのせて、だし汁をかけてお茶漬け風に。と、その前にだし汁だけを飲んでみた。

うなぎのひつまぶしの場合、かつお節でとったシンプルなものだが、それよりも奥行きのあるな味わい。昆布と香り付け程度に少量の醤油を使っているようだ。濃厚なうなぎと違って、繊細な海老の旨みを引き出すためだろう。

だし汁をかけて締めくくる。やわらかくなった干し海老が旨い

では、だし汁をたっぷりとかけていただきます! だしの旨みとともに干し海老とゴマの香りがふわっと広がる。そして、天ぷらの衣から染み出た油の旨みも加わってめちゃくちゃ旨い!

実は私、あるグルメ雑誌の連載で黒毛和牛や名古屋コーチンなど、うなぎ以外の創作系ひつまぶしを食べ歩いたことがある。どのひつまぶしも味が容易に想像ができた上に、薬味やだし汁を加えたときの味も想定内だった。

しかし、この「海老ひつまぶし」は全く違った。ここまで劇的に味が変わるとは思ってもみなかった。やはり、味の決め手は、海老の鮮度とたれだろう。決して奇をてらっているわけではなく、海老料理専門店だけに、海老のことを知り尽くした上で開発された新メニューなのだ。いやぁ、恐れ入りました。

 

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