常連の居酒屋、牛すじ煮込みに持参の赤(わいん厨房店主のひとり飲み術)

(イラスト・古本有美)

ひとり飲みの楽しさのなかで、店での会話は大きいですが、店の人間とだけでなく、隣り合わせたお客さんとのふれあいもありますね。

初めて入った、全く縁もない店でそうなることはまれで、何回か通って店主・店長とも顔見知りになると、あるとき、お隣のお客さんを紹介してくれることがほとんどです。一見の方との対話には不安がつきまといますが、常連同士ですし、安心してお話が出来ます。またありがたいことに、弊店を紹介、宣伝して頂くこともあります。

忙しくてしゃべり足りなくて

私の場合、自分の店で1日の営業中にグループのお客様ばかりが殺到して、調理で忙しかったりすると、お話ができず、ストレス?がたまるようです。忙しさそのものよりも、しゃべり足りないのでしょう。諸々の疲れを癒やしに飲みに出かけるとしましょう。

なじみの居酒屋を訪ねました。ここの店主は、私がひとり飲みしていた別のお店で知り合って以来のお付き合いです。さらに、知り合ったときのお店は、また別のお店で何回かひとり飲みしていたとき、店長との会話のなかで勧められた店。まさにひとり飲みが紡いだ縁のおかげです。

今晩のお店は、厨房との境目がカウンター席で、オープンな厨房の向かいにテーブルが並び、その間が通路という、分かりやすい間取りです。

私が他人様の店を訪ねられるのは深夜ですから、閉店時間が近づいています。店主も仕事に区切りがついて、飲みたくなる頃でもあります。カウンター越しにというか、テーブルも含めて残っている常連客と店主が、輪になって座談会になることもあります。そのタイミング前後に出くわすと、店主から座席を指定されたり、席替えしたりします。ときおり熱い論議もあり、店主の仕切りに乗っかって楽しく過ごさせてもらっています。

飲み物はビール、焼酎、日本酒などにワインも置いていますが、お願いして、ワインを持ち込んでいます。こういうときは、私が飲みたいものをというより、店の雰囲気や料理に合いそうなもの、価格的にもその店で出せるようなものを持っていくようにしています。無論、店主をはじめ、ご一緒の方々にも味をみてもらいます。

煮込み料理には熟成感のあるワインを

さて、つまみですが、居酒屋メニューの定番に「煮込み」がありますね。豚や鶏、牛のモツが多いですが、飲むワインを意識して「牛スジ煮込み」を選んでみました。牛スジがメインで、肉や香味野菜の端なども一緒に炊いて醤油タレ味です。

煮汁は前回までの汁をこして固形分を除いてから味を再調整したもので、注ぎ足して熟成させる、いわゆる「ウナギのタレ方式」でしょう。牛肉独特の風味もしっかりとあり、肉の旨味とゼラチン質のねっとり感や、脂のコクと甘み、長時間煮込まれた、こなれた味わいがあります。

開けたワインはスペイン産の赤で、カシスのような果実の香りはあるものの、味はそれほど果物の感じはありません。これにスジ肉だけを食べたときの煮汁からの甘みが重なります。渋味が結構ありますが、食べ物の脂を拭ってくれます。土やスパイス、獣っぽいニュアンスもありますが、煮汁の熟成感とも重なるし、スジ肉の風味を打ち消すような作用もあります。かなりの相性(=マリアージュ)といって良いでしょう。

この手の料理には、アクセントとして一味や七味唐辛子をかけますが、少しの辛味は、ワインの渋味とも合いますよ。酸味同士を合わせてみたければ、タバスコがあれば2~3滴くらいかけて、全体を混ぜ合わせると、もっと相性が上がりそうです。

身近な赤ワインとしてチリ産ワインがありますが、果実味が強くフレッシュなものがほとんどなので、不快ではないけれども、今回の料理と口の中で合わさったときに違和感があるでしょう。煮込み時間の長い料理には、一緒に飲むワインも熟成のニュアンスが感じられるものが、口の中での一体感が強いです。手に入れやすいものとして、今回のスペイン産や、イタリア産などを頭に入れておくとよいでしょう。

書物などには「読後感」という言葉がありますが、色んな話しで盛り上がって時計をみたらこんな時間・・・。明日というか、今日もあるからそろそろ上がりますか、と店を出るとき、何とも言えない「話して飲んだ後感」が残っています。

 

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