居酒屋チェーン、高コスパワイン侮れず(わいん厨房店主のひとり飲み術)

(イラスト・古本有美)

日本の多くの方にとって、まだまだ馴染みが少ないワインという商品をオススメする職業柄、お客様に納得して飲んで頂きたい。ですので、分かりやすくワインのお話をします。無論、相手の反応を感じながらですから、特に初めてのお客様が続くと、純粋にくたびれます。心地よい疲れではありますが、その反動で「喋らずに黙っていたい」ときもあるようです。話は少しそれますが、トイレにいて落ち着くのは、行為そのものよりも、外界からシャットアウトされて「ひとり」になれるから、それと似通うのでしょうか。

「話したくないのに、飲みに行くの? サッサと帰って床につけば!」と言われそうですが、寝る前の儀式とでも言いますか、1日の中でいろんな意味で「バランス」を取ってから寝るのは大切だと思っています。そんなときは、大手系列チェーンのような居酒屋に出かけています。

近年ファストフードのお店でもアルコールは飲めるようになり、選択肢が格段に多くなりましたし、企画モノで結構良さげなのが並んでいるときもあります。この手のお店なら、店員さんや隣のお客さんからも、話しかけられることはほとんどありませんから、一人こもって飲むにはうってつけです。

自分の店の料理メニューに採用も

ところで大手チェーン店ですが、概ね季節ごとに料理メニューの改廃をしています。何百何十円という低価格で、旬の素材を使って、創意工夫して出してくるのには頭が下がりますね。自分の店のメニューのアイデアを探して(採用したことがあります)、そのお店にあるワインで食との相性(=マリアージュ)や、誰もが感じることができる組み合わせを見つけたら、素晴らしいと思って、定点観測の目的でも足を運んでいます。

こういったお店は、グループの方々が盛り上がって騒がしいこともありますが、味わうことだけに集中していると気にはならないものです。皿やグラスを運び、ワインを開けたり、接客して会話したりしているときは、嗅覚と味覚はさほど使いませんから、ジッとして身体はほとんど動かさず味わうことで、先に述べたバランスを取っていることになるのでしょう。

この手の店はその昔、ワインは白赤1種類ずつで、それがグラスで飲めるかどうかというところでしたが、近年はワインを選ぶことが少しできるようになりました。ひとりで750mlボトル1本は持て余してしまいますが、ハーフボトルを置いていることもあるのは嬉しいです。

この手の系列店のグラスの白赤は、果実味豊かな、チリ産や米国・カリフォルニア産が多いようです。ただ、食事となら、おしなべて辛口なヨーロッパ産の方が合わせやすいので、今回は仏産で「Bordeauxボルドー」とだけラベルに刷り込まれた赤のハーフボトルを選びました。

赤ワインには大なり小なり渋味がありますが、この「Bordeauxボルドー」は軽すぎず強すぎず中庸で、柔らかい渋味です。連載第1回でも紹介した通り、カシスやプルーンのような果実風味はありますが、チリワインのように甘い感じが少なく、赤ワインの味わいの世界の中心に近いものとして覚えておくとよいでしょう。コンビニやスーパーにも並んでいて、安いものは800円位から、高くても1000円台後半、1200〜1300円が中心です。

馬刺しにひと工夫、赤の渋味と好相性

赤ワインには赤身の肉、牛や羊は合いますが、カジュアルな居酒屋だと、価格の壁などもあって置いていないことも多いですね。そこで、この手のお店でも大抵置いている赤身肉「馬刺し」はいかがでしょうか? 醤油ではなく塩をふって、少しのおろしニンニクと一緒に食べて、このワインを飲んでみました。渋味が滑らかなワインではありますが、渋味がもっと少ない方がよいでしょうか。

そこで、添えられてきたゴマ油をかけ、薬味もより多めにして食べ、ワインを飲んでみると、均衡が生まれてきました。渋味は油・脂を口の中で拭いますが、今回はワインの渋味に合わせるため、油分を補った次第です。刻みネギは白色が多いですが、それでも生で刺激味もありますので、相性に寄与していると思われます。

呼吸することだけに集中する。自身の心臓の鼓動が聞こえてくる。それともバッテリーの完全放電みたいなものでしょうか。休息と補給を図ることができました。さて、ふれあいを求めてこれからスナックかな。河岸を変えるとしましょう。

 

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