ウガンダの田舎町で、僕はマラリアの予防薬を服用し、酷い「悪夢」を見た

筆者が活動するウガンダ北東部

「やめてくれ!助けてくれ!」

叫び声を上げながら目を覚ました僕は、仰向けになって床に倒れ込んでいた。全身にはマラリアから身を守るための蚊帳が絡まっている。

「夢だったのか…? それにしてはリアルすぎた…」。真っ暗闇の中、何とかして蚊帳から抜け出した僕は、部屋の電気をつけるためスイッチに手を伸ばす。

しかし、僕が今いるのはウガンダ北東部の田舎町だ。夜はたいてい停電している。その日も同じように、スイッチをオンにしても電気はつかなかった。

何も見えない状態で、手探りでスマートフォンに手を伸ばす。やっとの思いでフラッシュライトをつけた僕の目に、恐ろしい光景が飛び込んできた。

荒れた室内

「いったい何が起きたんだ…」。寝る前には綺麗に整っていたはずの机や椅子が散乱し、まるで強盗が入ってきたかのような荒れ方をしていた。

しかし、部屋のドアにはしっかりと鍵がかかっている。宿泊しているゲストハウスも、夜間は防犯のためゲートやドアを完全にロックしている。今まで侵入者に襲われた話は一度も聞いたことがない。

何より、僕が滞在している町は比較的治安もいい方だ。

その時、ふと知人から言われたことを思い出した。「君が服用しているマラリアの予防薬は、強い副作用があることで有名だ。人によっては酷い悪夢に襲われることもあるらしい。気をつけてくれ」

年間40万人以上が亡くなるマラリア

「マラリア」という感染症を聞いたことはあるだろうか?

マラリアは、マラリア原虫を持った蚊に刺されることで感染する病気だ。主に熱帯・亜熱帯地域で流行しており、1年間に約2億2000万人が感染、推計43万5000人がマラリアによって亡くなっている。

かつて日本でも、衛生環境の悪さや医療の未発達から、昭和初期まではマラリアが流行し、多くの人が亡くなった。しかし、その後の経済成長に伴って医療や衛生環境が発展したことから、1950年代にマラリアは撲滅されたと言われている。

現在の日本では、海外渡航中に感染した人が、帰国後に潜伏期間を終えて発症する「輸入感染」の事例以外にマラリアは確認されていない。

その一方、僕が国際協力の仕事に携わっている東アフリカのウガンダ共和国は、今なおマラリアの流行地域だ。マラリアと聞くと恐ろしい病気のように感じられるかもしれないが、現地では割と普通の病気として捉えられている。

日本でいう、インフルエンザのようなものだろうか。

単身で活動するリスク

ウガンダの首都カンパラは高地に位置していることから、同国の中では比較的マラリアの危険性は低い。

それに、万が一マラリアを発症しても、首都には大きな病院がたくさんある。マラリアに対する医療環境は日本よりウガンダのほうが発達しているため、早期に治療を開始すれば死ぬことはない病気だ。

そのため、現地に暮らす日本人も、普段からマラリアの予防薬を服用している人は少ない。予防薬を購入し続ければ出費も大きくなるため、そもそも蚊に刺されないような対策にお金をかけるか、発症してから病院で治療をした方が安上がりだからだ。

(余談になるが、マラリアのワクチンは今年に入って初めて使用が承認されており、まだ一部の国でしか予防接種は始まっていない)

しかし、僕は医療環境が発達した首都ではなく、ウガンダ北東部の田舎町で活動している。知人のヘルスワーカーに話を聞いたところ、この地域はウガンダの中でも最もマラリアの感染率が高い地域の一つらしい。

おまけに、僕はどの組織にも所属しないフリーランスとして、単身現地に入って人道支援に携わっている。頼れる現地の友人は何人かいるが、困った時に駆けつけてくれる日本人は一人もいない。

それに、経済的に貧しい地域であるウガンダ北東部の医療環境は、首都カンパラとは大きく異なる。万が一マラリアを発症してしまうと、その後の対応が大変だ。

後日、熱を出した際に行ったマラリアの血液検査。血の付いたシャーレが机の上にそのまま置かれている…

そのため、知人から勧められたこともあり「メフロキン」と呼ばれるマラリア予防薬を服用することにした。

副作用か 夢遊病的に暴れまわる

メフロキンは副作用が強いことで有名だ。人によっては気持ち悪くなったり、頭痛に苦しめられたりする。また、精神面に現れる症状としては、不安・抑うつ・幻覚・悪夢などがある。

メフロキンは、うつ病など精神疾患の既往歴がある人には「禁忌」とされている。この連載でも書いたことがあるが、僕は過去に「適応障害抑うつ」という病気を経験している。そのため、本来メフロキンは飲むべきではない。

しかし、マラリアがインフルエンザのような病気として広く流行しているウガンダでは、薬局に行けば誰でもメフロキンを購入できる。処方箋なども必要ない。そのため、禁忌に当てはまる人の手にもメフロキンが渡ってしまうことが多々ある。

最初に紹介した僕の悪夢も、恐らくメフロキンの副作用が現れたものだろう。あまりにもリアルな夢だったからか、今でもハッキリと覚えている。

夢の中で、僕はバイクタクシーに乗っていた。もちろん僕はそれが夢だとは認識していなかった。

暗い道をバイクに乗りながら進んでいた時、前方から現地の男性がゆっくりと近づいてくる。すると突然、バイクタクシーが停車し、前方の男性がいきなり走って迫ってきたかと思うと、持っていた鉄パイプで僕のことを何度も殴ってきた。

バイクタクシーと強盗がグルになって行う襲撃は、ウガンダの中でもたびたび起きている。その話を以前から知っていた僕は、夢の中で「ついに僕がターゲットになってしまったか…」「こうやって死ぬのか…」と、薄れゆく意識の中で考えていた。

恐ろしいことに、夢の中で殴られているその時、実際に頭に激痛が何度も走っていたのだ。あとで分かったことだが、おそらくその間、夢遊病的に何度も頭をどこかにぶつけていたか、地面に倒れ込み、その衝撃で頭をぶつけていたのだと思う。

「やめてくれ!!助けてくれ!!」。大きな叫び声を上げながら、僕は目を覚ました。気づけばベッドではなく、床の上に倒れている。おまけに落下してきた蚊帳が全身に絡まり、停電もしているために真っ暗で、しばらくは身動きすらできなかった。

そして部屋を見ると、机や椅子が散らかっている。その時にフラッシュを焚いて撮影した写真が、最初のものだ。

こういったマラリアや薬に詳しい知人にも状況を共有したところ、恐らく副作用が原因で夢遊病的に暴れてしまったようだ。その時の記憶は全くないのだが、ここまで部屋が荒れていると、ただぶつかって倒れただけとは思い難い。

服用やめ、蚊に刺されない対策に重点

結局、予防薬を服用するのは中止した。マラリアも十分怖いが、一人でいる時に精神異常を起こすのも怖い。

その後は虫よけスプレーや蚊取り線香をふんだんに活用し、またマラリアを媒介する蚊が活動を活発にする夕方以降は、できる限り外出を控えるなどした結果、マラリアに感染することはなかった。

マラリアの予防薬としては、メフロキン以外にも「マラロン」と呼ばれる薬もある。こちらも一部副作用が報告されているらしいが、メフロキンと比べるとその症状は弱い。

また、マラリアの研究は日本よりも流行国の方が進んでいることが多く、薬のマーケットも大きいことから、価格も圧倒的に安い。ただ、地域によっては偽装薬も出回っているため、ちゃんとした病院や薬局から手に入れるといった注意が必要になる。虫よけスプレーや蚊取り線香を使うといった基本的なマラリア対策をしながらも、予防薬を買いたい人は、現地に着いてから購入するのもおすすめだ。

今後、アフリカをはじめマラリアの流行地域に行く人は、同じような出来事に遭遇しないために、事前にしっかりと情報収集をしてほしい。

※この記事は医療関係者が執筆したものではなく、個人の体験談です。マラリアの予防薬を手に入れる際、不安なことは専門医にご相談ください。

 

TAGS

この記事をシェア