沖縄でつくる“スパークジョイ”する本(離島の本屋ひとり旅・6)

「くじらブックス」から車で20分程度で、糸満市摩文仁の平和祈念公園まで行くことができる。

石垣島を離れ、沖縄本島に渡った私がまず最初に向かったのは、那覇市内の「与儀の電柱通り」にある出版社、ボーダーインクだった。本屋ではないけれど、次に那覇に行ったら寄ろうと以前から決めていた。なぜなら、ジャンルが幅広いながらも、刊行する本のすべてが沖縄がテーマだったから。このいわば“沖縄縛り”の総合出版社のことが、ずっと気になっていたのだ。

【連載】離島の本屋ひとり旅

土地のことを知る「ご当地出版社」

沖縄に限らず全国各地には、その土地ならではの本を出版する「ご当地出版社」がある。古老から郷土史研究家、学校の先生など、地元を知る者が書き手となり、地域に根差したテーマを記録し、発表している。その土地のことを知りたいと思ったら、一番最初に手に取るべきは、ご当地出版社の本と言えるだろう。

沖縄には沖縄タイムス社や琉球新報社などの新聞系、カフェや印刷所などとの兼業系、そして南山舎や沖縄文化社といった専業系がある。ボーダーインクも専業系で、創業は1990年4月。これまで500点以上を刊行してきた。沖縄編の1回目で紹介した、うちなー全世代の必読書『よくわかる御願ハンドブック』も、2006年にボーダーインクが手がけたものだ。

昭和な香りがする電柱を眺めながら道を進むと、町の出版社といった佇まいの建物が視界に入る。引き戸を開けて挨拶をすると、中から編集の喜納えりかさんや新城和博さんをはじめ、4人のメンバーが出迎えてくれた。新城さんは『ぼくの沖縄〈復帰後〉史』シリーズや『ぼくの“那覇まち”放浪記――追憶と妄想のまち歩き・自転車散歩』などの著者でもある。編集をしつつ執筆もする、まさに編集者の鑑(?)のような存在だ。

左から新城和博さん、現社長の池宮紀子さん(手前)、喜納えりかさん(奥)、そして企画営業の金城貴子さん。

“スパークジョイ”する本

ボーダーインクは、沖縄出版という会社にいた創業者の宮城正勝さんが、「自由に好きなものを作りたい」と独立したことで生まれた。現在スタッフは5人で編集者は3人。創業者の宮城さんは、池宮さんに経営を譲った後も、編集の仕事を続けている。前回の「離島の本屋ひとり旅・4」で紹介した、ウララの宇田智子さんの『那覇の市場で古本屋』のように、全国区に知れ渡った本もある。しかし読者の8割強が沖縄県内の人であるため、那覇の末吉公園に特化した植物ガイドの『楽しい植物ウォッチング』のような、超ニッチな本も手掛けている。

「うちは賞の類とは無縁なので売るのが大変なんですけど、忖度する相手はいませんから」

と、新城さんはさらっと言う。沖縄がテーマであっても、内容がつまらなければ出さない。一方で、これまでに類書がないものなら、初めての書き手でも出版の可能性があるそうだ。

「今後は“スパークジョイ”する本を、うちも作らないと」(新城さん)

スパークジョイって何なんだ……? と顔に出さずに思っていたら、喜納さんが「これがうちの新機軸です」と、2冊の本をテーブルに置いた。

学校の副読本のような版型の『おきなわが食べてきたもの』と『おきなわの一年』をめくると、いずれも沖縄の歴史や文化がイラストとともに紹介されていた。子どもでも読めるように振り仮名がばっちり振ってあるが、文字量は総じて多く文字サイズも小さめ。

『食べてきたもの』編では、先史時代から現代までの歴史を食べ物を切り口に紹介していたり、『一年』では那覇を焼き尽くした『十・十空襲』(1944年10月10日の大空襲のこと)にも触れていたりと、大人が見ても「うむむ」とうなる内容になっている。あっさり読めて沖縄の歴史や文化がよくわかる、確かにこの新機軸は“スパークジョイ”するかも……。

いずれも1400円。最新刊は沖縄言葉の「かぞえうた」で、沖縄の自然や風物を描いた『うちなーぐち かぞえうた』。

カレーと陶器と本とくじらと

くじらブックスの看板。カフェとカレーと陶器の自己主張に比べると、「本」は若干控えめ。

私は、またまたボーダーインクの喜納えりかさんの車に乗せてもらい、2人で八重瀬町の古書店・くじらブックスを目指した。2017年10月まで那覇市内の松川地区にあったが、2018年2月に八重瀬町に引っ越していたのだ。2017年の取材時は「ブックパーリー」にイベント出店していたものの、行くことができなかったので、2年近く思い続けた店だった。

くじらブックスは海の近くにあるわけではないが、ビーチサイドのカフェと言っても違和感がない佇まい。

白とブルーの建物に入ると、本とやちむん(沖縄の陶器)、そしてテーブルが置かれていた。店の約半分がカフェになっていて、カレーやコーヒー、スイーツが味わえるようになっている。ちょうどお昼時だったので、笑顔がステキな「美帆ちゃん」こと渡慶次美帆さんに、タイ風スープカレーのセットを注文。すると渡慶次さんの父親がレシピを考えたという、野菜たっぷりのカレーがやってきた。

タイ風スープカレーセットはサラダとドリンク付きで1300円。キーマカレードリアやチキンカレーセットもあり。

今では常連も訪れるカフェ併設の店に

豊見城市で生まれた渡慶次さんは、学校卒業後、那覇市内のジュンク堂で約8年間働いていた。独立する予定はなかったものの、那覇市内の実家が道路拡張に伴い引っ越しを余儀なくされたことで、「新しい場所で本屋を始めようかな」と思ったそうだ。取り壊されるまでの間、仮店舗として松川の実家で店を開いていたのだ。

「家族に相談したら『本屋だけでは厳しいのでは』と言われたので、新店舗ではカフェも一緒にやることにしました」

渡慶次美帆さん。最近読んで印象に残っているのは、松村栄子さんの『僕はかぐや姫/至高場所』(ポプラ社)と多田由美さんの『レッド・ベルベット』(講談社)だと語った。

店を開いてみたら、子ども連れや、ゆっくりしたいお客さんも多かったので、子ども向けメニューやスイーツも加えることに。今ではコーヒーとともに読書をゆっくり楽しむ常連さんが増えたが、一見さんももちろんいる。通りすがりにふらっと立ち寄りたくなる雰囲気なのは、くじらグッズが溢れているからだろうか。しかしなぜ『くじらブックス』なのだろう?

「くじらは大きくて好きですけど、とくに意味はないんです」と渡慶次さんは言う。ちなみにカフェには『Zou Cafe』という名前がついているが、これは父親の名にちなんだものだそうだ。

沖縄の人は新刊か古本かにはこだわらない

新刊と古書の両方を扱っているが、とくに棚を分けてはいない。付箋に値段が書いてあるのが古本で、付箋がないものが新刊だ。オープン当時は古本の割合が多かったが、今では新刊も増えてきた。

「沖縄の人は、新刊か古本かにはさほどこだわっていない。だから注文を受けた際に、古本でと言われたら、古本を探すようにしている」ので、本は古いか新しいかではなくジャンル別に並べているそうだ。ざっと眺めた限りでは沖縄関連本も多いが、哲学書やノンフィクションも揃っている。

くじらブックスの店内。絵本などは表紙を見せて陳列されているものも多い。
古本に挟んである付箋はかなり「自己主張」しているので、新刊か古本かはひと目で分かる。

「近くにスーパーのサンエーがあるので、サンエーの書籍コーナーになさそうな本を置くようにしています」

アウトレットの洋書も扱っていて、ジュンク堂時代に取り引きしていた業者から仕入れていると教えてくれた。

「ジュンク堂で働いて学んだことや得たことは大きかったですね。今はこれ以上棚を増やせないので、あるスペースをどう活用していくかが課題です」

「自分が好きな本だけではなく、良い本を置くようにしている」との言葉通り、アーティストのイ・ランの本や韓国のフェミニズム文学など、根強いファンがいるジャンルはしっかり押さえている。『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)は取材した時点(2019年5月)で、3冊は売れていたそうだ。

器類は、渡慶次さんの母親がセレクトしている。

同店では、不定期だがイベントも開催していて、『ヤンキーと地元』(筑摩書房)の著者で社会学者の打越正行さんのイベントには、約40人が店につめかけた。「地元で色々な人の話を聞けたら、子どもたちが嬉しいはず」と思っているから、これからも著者を招いていきたいと語った。

くじらブックスもやはり「本プラス何か」がある店だった。この「本屋=本を売るところ」という発想を軽く飛び越える柔軟さは、沖縄ならではのものなのだろうか? それとも、人によるものなのだろうか。答えを導くにはまだまだ、見てきた本屋の数が足りない。もっとあちこち巡らないと……。

カレーをいただいた私たちは、渡慶次さんに別れを告げて那覇方面に戻ることにした。那覇には、一度は行かないとと思っている古書店が、まだあったのだ。ということで離島の本屋ひとり旅沖縄編、今回も途中からひとりじゃなくなったけど、もう少し続きます。

店内のあちこちにくじらのグッズがある。
さりげなく吊るしてあった、くじらの風鈴。

 

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