沖縄の、本屋という一言ではくくれない世界(離島の本屋ひとり旅・7)

宮古島から車で行ける下地島にある「通り池」。吸い込まれそうでちょっと怖い……(2016年撮影)。

【連載】離島の本屋ひとり旅

「へー、離島の本屋を取材してるんですか。じゃああそこに行ってみるといいですよ。え? 古本屋はダメ? そりゃ残念」

離島の本屋を取材し、連載をまとめていると話した際に、何人かから同じ本屋を勧められたことがある。しかし『LOVE書店』というフリーペーパーでの連載は新刊書店に限定されているので、古本屋を紹介することはできなかった。そうこうしているうちに「あそこ=宮古島の麻姑山書房」は閉店したと、人づてに聞いた。

宮古島にあった幻の書店

かつて宮古島にあった麻姑山書房は、建物を木々が覆いつくし、さながらジャングルの中の1軒屋といった店だった。沖縄関連本だけではなく、様々な本が所狭しと並んでいて、店内もジャングルのようだった、と聞いている(行ったことがないので伝聞ですみません)。

宮古島の「迷所」として知られた店だっただけに、一度も行けずになくなってしまったことをひたすら後悔していた。と、そんな話をボーダーインクの喜納えりかさんにすると「麻姑山書店、那覇に移転したんですよ」と教えてくれた。

なーにー!

これは行かねばと思い、くじらブックスから那覇に戻り、麻姑山書房がある古島地区を目指した。

宮古島の名物? といえば、この宮古島まもる君&まる子ちゃん。(2016年撮影)

扉の向こうに広がる、本の森

首里城にほど近い古島地区は、国際通りやおもろまちとは打って変わり静かな住宅街だった。細い道沿いの2階建ての家の前に、「本」と書いた看板が出ている。閉じられた玄関扉にプチプチビニールで「古本屋 営業中」「インターフォンを押してください」、さらに「赤川次郎のみオール100円」とも書かれている。えっここ、完全に個人のおうちだよね……?

「本」と書いてなければ、多分フツーにスルーしそうな外観。

インターフォンを押すとドアが開き、店主の田中保一さんが迎えてくれた。靴を脱いで中に入ると、部屋を本が埋め尽くしていた。本棚と机以外の家具が一切ない家、という風情だ。押し入れやクローゼットと思しき場所にも、びっしりと本が置かれている。

田中さんによれば、宮古の店は道路拡張に伴い、移転せざるを得なくなってしまった。だが宮古島には親族がすでになく、子どもは那覇に住んでいて、店を引き継いでくれる人もいない。そこで那覇市内に引っ越し、自宅兼店舗にて営業を再開したという。

一瞬インターフォンを押すのをためらいそうになるが、ためらってはいけない。

「今は郷土史関係がメインで、10トンコンテナ6台分を持ってきたけれど、これでも10分の1しか持ってこられなかった。残りは宮古島の倉庫に置いていて。赤川次郎は在庫が豊富にあるから、100円で売っています」

そんな話をしていると、2階から妻の雅子さんが降りてきた。

家に本しかないとこうなるのかなあ……と、なんとなく考えてしまった。

中学生が中国の詩人の本を探しに

「若い頃は京都にいたのだけど、両親が年を取ったこともあり、島で本屋をやりたいと思ったんです。でも色々な人に相談したら『難しいのではないか』と言われて」

京都にいた頃、職場の近くに「かわい書房」という古本屋があり、昼休みによく通っていた。ある時思いきって古本屋をやりたいと話すと、京都の古書組合を紹介してくれただけではなく、どんな本を置くかを教えてくれ、さらに本を提供してくれた。それで店が始まった。

「そういう縁があったので、本島は土地が高いし本屋を続けられる年ではないと思ったんですけど」、夫婦2人で店を続けることにしたそうだ。

店内は雑然としているように見えて、ジャンル別にきっちり並んでいる。棚を項目別に分類するのは雅子さんの得意分野で、「売れたら補充するのが好き」と語った。

一見さんがふらっと立ち寄るというより、インターネットなどで聞きつけ、店を目指してくる客が圧倒的に多い。ある時台湾から来た客が、「イラストレーター・深津真也の画集『ひなたひなた』を探している」と言った。店に在庫はないと思っていたが、探したら見つかった。たまにこういうことがある、と保一さんは笑う。

「最近では中学生が来て、すごい本を買っていったんですよ」

保一さんが見せてくれたのは、目加田誠さんが書いた『屈原』という岩波新書だった。屈原は楚時代の政治家で詩人なのだが、実はこの瞬間まで私は屈原のことを名前すら知らなかった。確かにすごい……。彼は李白や、辛亥革命についての本も買っていったとか。中国の歴史に興味があるのね。

来客がない時は2階で韓流ドラマを見て、チャイムが鳴ったら降りていく。そんな2人が目下、気にしているのは、宮古島のプレハブ倉庫に残してきた在庫のこと。2018年の台風で雨どいが飛んで行ってしまったけれど、もう2年行けていない。そしてかつての店舗を描いた絵を見せてくれながら「寂しい」とつぶやいていたのが印象的だった。

麻姑山書房の、かつての店舗を描いた絵。田中さんご夫婦は残念ながら登場NG。

探していた大城立裕の小説をレジに持っていくと、1000円と書いてあったがまけてくれた。店内に「付値より安くできる本がたくさんあります」とあったので、ちょっと期待はしていた。とはいえ全てをまけてくれる訳ではないので、そこは田中さんご夫婦次第だ。

欲しい本があったら臆せず、値段を聞いてみよう。

イラストも描けば古本も売る

本のジャングルを抜けて最後に訪ねることにしたのは、浦添市にある小雨堂だった。隣の市ではあるが、麻姑山書房から車で10分程度の場所にあった。本と書棚に圧倒された麻姑山書房とは対照的に、くまとカエルのゆるっとした看板が目に付いた。

小雨堂の入口。かわいいイラストがお出迎えしてくれる。

やっぱり靴を脱いであがると、レジ前にはネコがメインの動物フィギュアが並び、本もあるけれどフィギュアやトイも売られている。おにく店長こと新垣英樹さんと、妻のミキシズさんの趣味が存分に活かされた空間に見える。

限られたスペースを活かし、本をぐるりと見て回れるレイアウトになっている。

新垣さんは沖縄出身で、ミキシズさんは兵庫県の生まれだ。そんな2人が出会ったのは、漫画家の高橋葉介さんの福岡オフ会のこと。2001年に結婚し、2012年に小雨堂をオープンさせた。

店長の新垣英樹さん。

「沖縄の古本屋の中でも、ちゃんとしていないことにかけてはうちが一番」と言うが、沖縄関連本から絵本や児童書まで、品揃えはなかなかだ。サイババの本も200円で売られている。そして他店と違うところは、ミキシズさんがイラストレーター&切り絵作家として活動し、ボーダーインクから本も出していることだ。

なかでも沖縄のママたちのあるあるネタをまとめた『まんが琉球こどもずかん』は、笑いなくては読めない1冊になっている。34歳の「おばあちゃん」(ママは17歳)や、父親の違う兄弟がいつの間にかできていたなど、見ようによっては沖縄の負の側面とも言えるエピソードにも触れている。が、明るく笑えてしまうのは、ミキシズさんの筆力によるものだろう。

ミキシズさんのイラストが、あちこちに飾られている。

古本屋に新刊ではなく、新刊書店に古本屋が

国際通りで別れることにした私たちは、その前にジュンク堂書店沖縄店とリブロリウボウブックセンター店に立ち寄った。まずはジュンクからと思い1階を流していると、榕樹書林の武石和実さんが座っていた。ジュンク堂で、出張榕樹書林をしていると語った。チェーン系新刊書店の中に、イベント出店する古書店。こんなコラボは、本土の書店ではそうお目にかかれるものではない。棚を眺めてみると、埴谷雄高の9万円の『闇のなかの黒い鳥』や芥川龍之介の初版本など、希少な本が並んでいた。

さらに次に訪れたリブロでも、本格的な古書店による即売イベントが開催されていた。ウララ、小雨堂、くじらブックス、ちはや書房、言事堂と、今まで訪ねた古書店がワゴン出店していたのだ(あともう1軒出店していたダムダムブックスは、ネット販売オンリーの書店)。もうこうなると「新刊か古本か」というこだわり自体が、意味を持たないことのように思えてくる。読みたい本がある本屋が、その人にとっての「いい本屋」なのかもしれない。

ストイックに本を追及する店もあれば、「本プラス何か」が楽しめる店もある。「本屋」という一言ではとてもくくれない世界が、沖縄の書店で繰り広げられている。1軒見ただけで、その実像はとてもわかるものではない。それに、なくなる店がある一方で生まれる店もある。「これで沖縄の取材は終わり」では、決してないようだ。

出張榕樹書林には『主婦之友懸賞當選歌 婦人愛國の歌』など、なかなか気合いが入った本が。

 

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