(花と暮らす、花を楽しむ)第一園芸の広報担当者がウェブサイトに力を入れる理由

第一園芸株式会社広報部の石川恵子さん(撮影・時津剛)

記念日や特別なシチュエーションだけでなく、気軽にセンスよく花を楽しみたい。そんな人が増えています。食卓に、玄関に、洗面台に、トイレに、さりげなく飾られているだけで、花は暮らしを明るく彩ってくれます。

ひとりの時間を満ち足りた、上質なひとときにするために、花とどう暮らしたらよいのか──。花や緑を愛するプロフェッショナルたちに、その極意を聞き、花と生きる彼らの人生にも迫るこの連載。今回は、第一園芸株式会社の石川恵子さんに話を聞きました。

「花の魅力を知ってほしい」

多くの人に、多様な花の魅力を知ってもらいたいという趣旨で始まった第一園芸株式会社のウェブサイト「花毎(はなごと)」。2018年の立春にスタートしたこのサイトが、先月29日にリニューアルしました。「二十四節気の暦とともに季節の花々を紹介する」というコンセプトはそのままに、デザインや構成をよりわかりやすく、コンテンツもさらに盛り込んで、一層充実したサイトになりました。

この「花毎」の生みの親が、現在、広報部広報課でクリエイティブディレクターを務める石川恵子さん。2011年に入社して以来、商品企画や広報の立場から「どうしたら花をもっと多くの人に愛してもらえるようになるか」ということを考えて企画提案を行ってきました。

「『花毎』を始めようと思ったきっかけは、花が売れないという状況がずっと続いているからなのです。外郭団体による10年以上にわたる調査がありまして、それによると、花の売れ行きのピークは2009年。当時、プレゼントに花を買うという人は、54.2パーセントいたのですが、今年は27パーセント。10年間で半分にまで減ってしまったんです」

花が売れなくなった理由はさまざまあります。各家庭から仏壇が消えたため、お供えの花を買う人が少なくなったことも大きいですし、何といってもなかなか上向きにならない経済状況は、個々の購買力に大きな影響を与えています。

「お花って、言ってしまえば、なくても別に困らない。嗜好品なんです。その意味で、興味のない人にとっては、満足度の低いものなんですね。でもそれはやはり、花を知るきっかけがなかったのが原因ではないかと思うんです。何事もそうですが、知れば知るほど深く味わえるし楽しめる。それならば、ダイレクトに『買う人』を増やす前に、物売りとは切り離して花の魅力を知ってもらうことに力を注ごうと思ったんです」

日本各地の「花の名所」を訪ねて

丁寧に観察し、心動くものがあればすべてカメラに収める。(撮影・時津剛)

このように花の需要は2009年をピークに落ちているのですが、花を見に行く人は増えているという現象が起こっています。たとえば、茨城県の国営ひたち海浜公園では、ネモフィラを見に行く人がどんどん増えていて、この5年間で131パーセントの集客率になっているのです。

「つまり、みなさん花が嫌いなわけではなくて、こちらのアプローチの仕方が時代に合っていないのだと気づいたんです。だとしたら発想を切り替えて、花にまつわるコトに対してイニシアチブを取りたいというところから「花毎」は始まりました。さまざまな角度から花を紹介するとともに、全国の庭園、ガーデンを紹介していく……ということも同時にやっていこうと決めたんです」

企画のスタート時には、スタッフでアイデアを出し合い、トップ画像には二十四節気をテーマにした花の銅版画を置き、花の解説やエッセイ、そして花の名所を楽しむ「花の旅人」という紀行文など、「花尽くし」の内容で愛読者を増やしていきました。

石川さんが特に力を入れてきたのが「花の旅人」です。訪れる場所を決めると一人で現地に赴き、レンタカーを駆使して読者が行きたくなるような、さまざま「庭」を訪ねます。あるときは京都の日本庭園、あるときは北海道の深い森や広大なガーデンと、そのロケーションもさまざま。カメラで植物や風景を撮影し、取材をして、記事を書く。読者に魅力を伝えるべく情熱を傾けてきました。

「今回改めて数えてみたら、2年間で105カ所訪ねていたんです。特に印象に残っているのは、北海道のガーデンでしょうか。何回も通っているうちに、各庭園のガーデナーさんと親しくなったこともあり、思い入れもひとしおになりました。『十勝千年の森』の新谷みどりさんをはじめ、皆さんから、好きな仕事をできる喜びや自然に対する哲学を教えられ、大きな影響を受けました」

アートに夢中な子ども時代

石川さんと花との出合いは、子どもの頃。祖父の庭は滝が流れていたり、石がたくさんあったりするような庭で、知らず知らずのうちに草花や自然に親しみました。子どもながら美しいものに目がなく、母を見て自分も生け花がやりたいと言ったのが小学校5年生のとき。反骨精神もすでに旺盛で、母が池坊だったので違う流派がよいと、小原流を習い始めました。

また雑誌『美術手帖』を手に取っては、ウォーホルやリキテンスタインなどを見てモダンアートやデザインに夢中になったり、小学生の頃からラジオっ子でさまざまな音楽に触れてみたりと、芸術に関しては幅広く接していったのです。

「今にして思えば、嫌みなほど早熟な子どもでした(笑)。当時、神奈川テレビで放送していた人気音楽番組『ミュージックトマト』や、小林克也さん司会の『ベストヒットUSA』を楽しみに見ては、洋楽も邦楽も幅広く吸収していきましたね」

そして10歳のとき、何気なく見ていたテレビで「軽井沢音楽祭」というイベントが放送されていて、そこで松任谷由実さんが「守ってあげたい」を歌っていたのを聴き、大きな衝撃を受けます。

「中1の時にユーミンの自伝『ルージュの伝言』に出会って、さらにのめり込みました。そこには、ユーミンが御茶の水美術学院に14歳だか15歳だかから通い始めたとあった。『なら私も行く』と決めて、15歳でお茶美に通い始めて、美術かデザインの道に進むと決めたんです。学校より予備校が楽しくなってしまい、1年浪人して、やっと桑沢デザイン研究所に入りました」

花に関するデザインがしたい

スーツケースに、愛読書など、今の石川さんをつくっているものたち。撮影・時津剛)

桑沢デザイン研究所でインテリアデザインを学び、デザイン誌AXISの編集部を志して就職活動に行くと、当時の名物編集長に「あんたにはこっちの方が向いている」と言われ、同じビルにあったタイヤメーカーの社外デザイン開発会社に就職することになりました。しかし数年で飛び出すことになります。

「若さゆえの熱量でしょうね。自分の置かれている環境が完璧に整えられた素晴らしい場所で、冒険がしてみたくなったと言いますか……。そこからは派遣社員やフリーランスのデザイナーとして働きましたが、常にデザインの仕事を続けてきました。そして改めて自分がやりたいことって何だろうと考えてみたときに、女性向けのデザインがやりたいと気づいたんです。まず化粧品、そしてお菓子、さらに花。これに関わるデザインがしたいというのが目標になりました」

化粧品とお菓子については、パッケージデザインという形で夢が叶い、残された花に関するデザインをしたいという思いが募りました。そんなときに、第一園芸の募集があり、2011年に入社することになりました。

「何をやらないか」を判断基準に

入社してからは、植物を使った装飾のデザインなどを担当しました。その後は、商品企画を経て広報を担当するようになるのですが、2016年頃からクリエイティブディレクションに関するセミナーに参加することになります。そこでの出会いが契機となって、「花毎」の誕生につながることになりました。

「日本のみならずアジアでナンバー1のクリエイティブディレクターと言われる古川裕也さんのセミナーに参加したんです。そこで、クリエイティブディレクターという仕事の本質を教えていただきました。クリエイティブディレクションは考え方の技術なので、これを使って意外性のある花の見方、つまり『花のコトをデザインする』という仕事に進化させられる…。花毎に至るアイデアを見つけました」

そして石川さんは、クリエイティブディレクションのノウハウをもって「花毎」の設計をスタートさせました。実際に始動させるまでには、経営陣へのプレゼンテーションを何度も行い、準備に2年間をかけました。

「古川さん曰く、クリエイティブ・ディレクションの一番大事な仕事は『何をやらないか』なんです。あとは『ミッションの発見』『コアアイデアの確定』『ゴールイメージの設定』『アウトプットのクオリティ管理』。この4つを永遠に繰り返していく仕事なんですね」

石川さんも、仕事で迷いが生じたときは、「何をやらないか」を基準にジャッジしています。

「『花毎』で言えば、『余白のないこと』、つまり完璧を追いたくない。花の名所を紹介しますが、多くのメディアに登場する名所の写真は、最高の天気で最も花が美しいタイミングで撮られているものです。でも、誰もがそんなタイミングに出会えるわけではないですよね。例えば、雨の日には雨の日なりの楽しみ方があって、その時ならではの良さを見つけられるかな、と思うんです。いまこの一瞬の感覚を大事に、花を通しての文化を、いろいろな考え方を紹介していきたい。それが目指すところです」

オフィスのデスクにて。グリーンのあしらいが花屋さんらしい。(撮影・時津剛)

(プロフィール)
石川恵子(いしかわ・けいこ)。神奈川県川崎市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザインシンクタンク、消費財メーカーのインハウスデザイナーなどを経て、2011年第一園芸株式会社入社。装飾緑化部(現OASEEDS)、商品企画部などを経て、18年より広報部にてクリエイティブディレクターを務める。WEBサイト「花毎」を立ち上げ、花の楽しさ、喜びを伝える活動に邁進している。趣味は花とワイン、選曲とモダンアート。

 

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