ひとり飲みでマリアージュ研究(わいん厨房店主のひとり飲み術・6)

チェーン系居酒屋でマリアージュの定点観測(イラスト・古本有美)

居酒屋にひとり出かけてマリアージュ研究

私は飲食店をやっていますから、飲むことや食べること、味見は仕事の一部でもあります。ワインは主に輸入元さんが開く展示会があり、とにかくたくさん触れて、同じ質ならより安く、同じ価格ならより美味しいものをと、足で稼ぐのみです。料理は「オリジナリティを駆使して」と言いたいところですが、他人の料理を食べてアイデアに気づかされるのが正直なところです。

もう1つ、本連載でお話ししてきた食とワインの相性(=マリアージュ)があります。いろいろとノウハウはあるのですが、できるだけ身近な食べ物と身近なワインとで、多くの人が驚くような組み合わせを「創る」ことができたら、皆がもっともっとワインを飲んでくれるのではと思っています。

相性論はグルメとかガストロノミーの世界で展開されることがまだまだ多いですから、日本の日常により近い食生活のなかでのマリアージュを求めて、連載第4回目でお話しした、チェーン系で魚をウリにしている居酒屋に定点観測も兼ね、ひとり出かけました。

このお店の定番メニューはだいたい頭に入っているので、新規のものと季節メニューから、店のワインと合わせられそうな料理を選びます。料理とワインが運ばれてくると、まずは撮影です。そして食べ出すのですが、例えば尾頭付きの魚や三枚おろしの半身ですと、部位によって味わいが変わりますから、端からというよりいろんなところをつつきながら、ワインとの接点を探ります。

付け合わせと一緒に食べてみたり、ときおり備忘録として撮影したり…。使う調味料や薬味、スパイスなどを変えてみたりもします。店員さんにわがままを言って、醤油が出てきていてもポン酢をください、ケチャップであればマヨネーズをください、という具合です。

はたから見たら、挙動不審の変なオジサンでしょう。入店時、座席指定がない限り、なるべくポツンとひとりになれる席を選ぶのですが、店の都合で群れの中に座ったときに、隣の学生とおぼしき若者からの視線を感じたこともあります。なので、この手の研究は、連れなしの「ひとり」が良いでしょう。ワインを置く飲食店は増えましたが、大衆店になればなるほど出番は少ないようです。相性が論じられることも少なく、こんなことをしている人間も少ないでしょう。

イワシの梅揚げとチリ産カベルネ・ソーヴィニヨン

今回紹介するのは、梅雨どきに旬のイワシを開いて梅肉を巻き込んで唐揚げにした「イワシの梅揚げ」です。青魚を使った料理は鮮度や状態により、またワインによっては、口の中で合わせた時に「生臭さ」が発生することがあるのですが、

・魚料理は「油」を使うことでワインを飲んだときの生臭さを感じる具合がぐっと減るが、衣を含めてこの料理は油がある

そして、

・梅肉の酸味がワインの酸味と重なり合って気持ち良い
・旬のイワシは脂も乗っているのでこのグラス赤ワインの渋味が拭ってくれる

という期待があります。ここのグラスの赤ワインはチリ産カベルネ・ソーヴィニヨンでしたが、試してみました。

イワシの梅揚げとチリ産カベルネ・ソーヴィニヨン。

まず料理ですが、ジューシーなイワシで脂も乗っています。脂とイワシ独特の風味を梅肉の酸味が受けとめて、料理単体でも優れものです。ここでチリカベ(チリ産カベルネ・ソーヴィニヨン)を含むと、酸味同士が重なり脂がゆすがれて、料理だけでもないワインだけでもない感覚が現れます。うまく表現できませんが、私はこれを「第三の感覚」と呼んでいて、マリアージュのひとつだと思っています。

ちなみに、ご説明した「生臭さ」はこの組み合わせでは感じられなかったようです。ただし、惜しむらくは、チリ産は果実味豊かで「甘い感じ」がありますから、もう少し果実味が控え目のワインならば文句なしであったでしょう。カベルネ・ソーヴィニヨン種のワインには青味が感じられますから、例えば青しそ・大葉なども巻き込んであると、より良いマリアージュだったでしょうか。

比較として、純米酒をぬる燗にしてもらい、試しました。イワシの風味を穀物風味が打ち消し、くるむような作用はあります。でも脂を拭ったり切るような力は日本酒には無いようですし、酸味も少ないですから、マリアージュに関してはこの料理にはワインがよろしいと感じました。

このイワシの料理は、イタリア・シチリアの郷土料理「ベッカフィーコ(イワシに詰め物をして焼いたもの)」を彷彿させます。シチリアと同じ南イタリア産の赤ワインで、プリミティーヴォというぶどうから造ったワインがスーパーでも千数百円で見つけられるのですが、持ち込みできるなら改めて試してみたいところです。

狙いを定めた料理とお店のワインで、これから進むべき道が見え、達成感手前ですが、少し仕事ができたようです。またの出会いを求めて、足で稼いで参ります。

 

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