中村医師哀悼の歌も…13年ぶりのU2ライブ圧巻の2時間半(エンタメひとり旅)

Photo by ROSS STEWART

U2が13年ぶりに来日公演を行なった。世界中で大ヒットしたアルバム、ロックの金字塔『ヨシュア・トゥリー』のリリースから30年を記念して2017年に開始された今回のツアー。名盤『ヨシュア・トゥリー』を完全再現する。そのライブは、単に懐古的なだけでなく、もの凄く進化した驚愕のステージだった。今回は曲にまつわるエピソードとともに2時間30分のパフォーマンスを振り返る。

ボノ「この会場を大聖堂に変えよう」

13年前この場所で観た『ヴァーティゴ・ツアー』。レーベルの人にメンバーに会えるからと言われ、楽屋口でボノとエッジに挨拶したことを思い出した。12月5日、開演の1時間前、その楽屋口にある喫煙所にU2のアダム・クレイトンの姿があった。道路に面した柵があるだけの場所でタバコを吸う彼に気づくひともいなかった。私もスタッフかと思った。これから3万人もの観客の前で演奏する前の一服かと思うと、すごく粋に見えた。

開演時間の19時30分を少し過ぎて、会場のSEがイギリスのバンド、ウォーターボーイズの「The Whole of The Moon」に変わると歓声が起こった。ドラムのラリー・ミューレンが最初に登場。俳優としても活躍するU2一の二枚目。今回のツアーのシンボルである『ヨシュア・トゥリー』の形のせり出したステージにアダム、エッジ、ボノが続く。13年待った日本のファンはすでに興奮状態。

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ラリーのドラムで鳴り響く。3枚目のアルバム『WAR』から「Sunday Bloody Sunday」。北アイルランド紛争の悲劇「血の日曜日」を歌った行進曲調の曲。初期の名曲で始まったライブは、まるでU2自身がオープニング・アクトのようだ。「Gloria」「New Year’s Day」「Bad」と初期の名曲に客席が沸く。

照明が落ちて、「この会場を大聖堂に変えよう」とボノが観客のスマホのライトを点灯するよう呼びかける。前日にアフガニスタンで殺害された医師・中村哲さんを追悼。曲はキング牧師への賛歌「Pride (In the Name of Love)」。「命を奪っても誇りを奪うことはできない」と歌うボノは「テツ・ナカムラ」と何度も叫んだ。

ここまでは、まだ4人が『ヨシュア・トゥリー』のあの木と出会う以前、モンスター・バンドになる前夜の名曲たち。

U2 アルバム「ヨシュア・トゥリー」(1987)

『ヨシュア・トゥリー』完全再現 驚愕の巨大スクリーン

そして、U2を世界のモンスターバンドに押し上げた名作『ヨシュア・トゥリー』完全再現が始まる。横幅約60m高さ約13mもある8KハイレゾLEDビデオ・スクリーンの驚愕の迫力と映像の綺麗なこと。ステージの下手には巨大なスクリーンよりも高い『ヨシュア・トゥリー』のあの木が浮かび上がる。

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「Where the Streets Have No Name」のイントロが流れ、4人はメイン・ステージへ移動。真っ赤になったスクリーンに4人のシルエットが映し出される。エッジのギターとアダムのベースにラリーのドラムがヘリの旋回音のように響く。長いイントロ~「I want run」ボノが叫ぶ! この瞬間、興奮は最高潮に達した。

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「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」、巨大なスクリーンに映る砂漠と青い空、映像が美しい。U2と一緒に旅をしているかのようである。「With or Without You」。曲順はもちろんアルバム通り。リリース当時のアメリカ大統領レーガンを皮肉った「Bullet the Blue Sky」。ヘルメットを被った様々な人種の人たちが星条旗のバックに立っている映像は今のアメリカの状況を訴える。アムネスティの活動を通じて知った当時の南米や中南米の状況がこのアルバムには反映されている。ボノは照明が付けられたカメラを担ぎステージの様子をスクリーンに映す。ヨシュア・トゥリー・ツアー(1987)の様子が収められたアルバム『魂の叫び』のジャケットのようだ。

ヨシュア・トゥリー国立公園(撮影:喜久知重比呂)

アルバムではスライド・ギターが印象的だが、ギターのエッジがピアノで「Running to Stand Still」を演奏。個人的には一番好きな曲だ。以前、俳優ユアン・マクレガーがバイクで大陸を横断するドキュメンタリーの中で、ウクライナである家に泊めてもらったとき、夜、この曲をギターで弾き語りするというシーンがあった。私は暗くなった「ヨシュア・トゥリー」の砂漠でカーステレオでこの曲を聴いた。旅の空にあまりにもカッコよくハマる曲に震えるほど感動した思い出がある。

今回のツアーまでライブで演奏されたことがなかった「Red Hill Mining Town」、そして「In God’s Country」。1987年にレコードを買ってから何度も何度も聴いた曲たちが演奏される。

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このあたりで、アントン・コービンが客席に姿を見せた。アントンは今回のツアーで巨大スクリーンに映し出される映像のプロデュースと演出を担当している。会場で販売されていたパンフレットによると、アントンはアルバムのジャケットの舞台となったデスバレーやザブリスキー・ポイントを再び訪れて映像を撮影したという。彼は下手からステージを見ながら歩いてきた。身長が高いからすぐにわかった。スマホでステージの写真を撮りながら、気づいたファンの声には照れくさそうだった。彼とU2との関係も40年近い。人生の半分以上を彼らは共に歩んできたのだ。

「Trip Through Your Wires」のあと赤い月がスクリーンに現れた。『ヨシュア・トゥリー』の発売前に事故死したローディー、グレッグ・キャロルに捧げた「One Tree Hill」。タイトルはニュージランドのマオリ族出身のグレッグが、ボノを連れて行った場所の名前。ボノからもらったバイクで事故死したグレッグとの思い出を書いた曲だ。赤い月の前でベースを演奏するアダム。

「ドナルド・トランプは嘘つきだ」の寸劇が流れ、左右の指に「LOVE」「HATE」の映像が現れる。これはカルトな映画『狩人の夜』(1955)のパロディ。映画には神の正義の名の下に殺人を犯す偽伝道師が出てくる。

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長らく封印されていた「Exit」。この曲はトルーマン・カポティの「冷血」などに影響を受けて作ったサイコ・キラーの心理について書いた曲。アルバム内でも異色だ。1989年ロサンゼルスで起きたストーカー殺人事件。容疑者が精神科医にU2の「Exit」という曲に影響を受けたことを語ったため、メンバーもショックを受け、事件以降ライブで演奏していなかった。1997年のヨシュア・トゥリー・ツアー、ボノが「チャールズ・マンソンがビートルズから盗んだ曲を取り戻した!」と叫び、ビートルズの「ヘルター・スケルター」を歌う。この模様はアルバム『魂の叫び』に収録されている。チャールズ・マンソンはこの曲に影響され、シャロン・テート事件をはじめとする一連の事件を起こした。ビートルズはこの曲を封印した。それと同様の悲劇がU2にも起きたのだ。『ヨシュア・トゥリー』全曲再現ライブを行うことで、因縁の曲を解放した。

『ヨシュア・トゥリー』のラストはスクリーンにはろうそくを手に並ぶ女性たちの映像が美しかった「Mothers of the Disappeared」。「Desire」でメンバーは一旦ステージを後にした。

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再びステージに登場した4人。「Elevation」前日会場に姿を見せたブラッド・ピットの元妻アンジェリーナ・ジョリーが主演した映画『トゥームレイダー』(2001)の主題歌だった曲。

巨大な渦巻の映像に目が回りそうだった「Vertigo」。13年前の日本でのライブはヴァーティゴ・ツアー。当時U2がこの曲とともに出演していたのは、音楽再生機iPodのCM。スマホでステージを撮影している多くの人を見ていると、13年という年月と技術の進化を感じる。メンバー紹介の流れからエッジの鋭いギターで始まった「Even Better Than the Real Thing」。エッジは今回のオフの時間、アントン・コービンと豊洲の「チーム・ラボ」に足を運んだようで、ツアー中も最新の映像技術の研究に余念がないことを思わせる。このあとも「The Best Thing」「Beautiful Day」と『ヨシュア・トゥリー』以降の曲が続く。

「Ultraviolet (Light My Way)」ではスクリーンに女性たちの顔と名前が次々と映し出された。グレタ・トゥーンベリ、エマ・ゴンザレスなどの活動家や、オノ・ヨーコ、トークショーでお馴染みのエレン・デジェネレス、日系アメリカ人の人権活動家コチヤマ・ユリ。そして、草間彌生、紫式部、佐々木禎子、川久保玲、伊藤詩織、石川優実と日本の女性が登場。これは貧困救助のための非営利団体「ONE」の“Poverty Is Sexist Campaign”の活動の流れからの映像。登場女性たちは公演を行う国によって変わる。彼らのリサーチにも感心する。

ボノが息子たちと自分に向けて歌った「Love Is Bigger Than Anything in Its Way」。ライブの最後は「One」。レコーディング当時、解散危機にあったというU2だが、結果この曲が4人を再び結びつけたようだ。

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終わった瞬間、これがたった4人のパフォーマンスだったんだと気づく。U2の4人は高校生の頃から約40年、ともに歩んできた。その歴史を辿るようなライブ。演出は最新の技術を使ったもの。驚きと感動の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」な2時間30分だった。

12/05 (木) さいたまスーパーアリーナ セットリスト

1. Sunday Bloody Sunday
2. Gloria
3. New Year's Day
4. Bad
5. Pride (In the Name of Love)
6. Where the Streets Have No Name
7. I Still Haven't Found What I'm Looking For
8. With or Without You
9. Bullet the Blue Sky
10. Running to Stand Still
11. Red Hill Mining Town
12. In God's Country
13. Trip Through Your Wires
14. One Tree Hill
15. Exit
16. Mothers of the Disappeared
17. Desire
アンコール
1. Elevation
2. Vertigo
3. Even Better Than the Real Thing
4. The Best Thing
5. Beautiful Day
6. Ultraviolet (Light My Way)
7. Love Is Bigger Than Anything in Its Way
8. One

 

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