気高く生きるおひとりさま動物を愛でにいく(かわうそ一人旅・2)

王子動物園のコツメカワウソ・サンゴ。園の案内板によると、石が大好きなのだそうだ

ひとりで動物園に行く。その理由は以前の記事にも書いたが、自分の好きな動物を好きなだけ自分のペースで見ることができるからだ。動物園は「誰かと一緒に過ごす」ためのきっかけ作りの場所ではない。動物を愛し、動物に愛を送る場所なのだ(私見)。

多くの動物園が動物の研究や調査機関を兼ねていることや習性を尊重して、住んでいる動物は基本的にカップルだったり家族だったりするのだが、なかにはおひとりさまもいる。単独生活を好む動物や都合で単身滞在している動物はもちろん、子どもやパートナーが別の場所に移されたり、亡くなってしまうケースもあるからだ。

カワウソとパンダがともに、おひとりさま状態で暮らす動物園があることをご存じだろうか。兵庫県神戸市の王子動物園だ。

JR灘駅を降りると、中華風のパンダイラストの道案内が

24歳のパンダ・タンタン

神戸市立王子動物園は、1946年に閉園した神戸の諏訪山動物園を引き継ぐ形で1951年3月に開園した。以来、神戸市民はもとより、多くの人に親しまれている。その理由はパンダとコアラの両方を見られること。まさに上野動物園と多摩動物公園の良いとこどり! なのだが、イマイチ関東圏ではメジャー感が薄い。それはひとえに、和歌山のアドベンチャーワールドのように「パンダの赤ちゃんが生まれました!」的なニュースがないことだと思われる。

王子動物園のタンタンは1995年9月16日生まれのおとめ座で、24歳を迎えたメスのパンダだ。アドベンチャーワールドの永明より3つほど若いが、パンダ年齢的には結構なアダルトだ。とはいえ2016年に香港で亡くなった世界最高齢パンダのジァジァは38歳だったので、まだまだ現役と言えるだろう。

タンタンは、1995年の阪神淡路大震災で被災した神戸の子どもたちのために、2000年7月に王子動物園にやってきた。一緒にコウコウというオスも来たけれど、このコウコウとはカップリングがうまくいかず、彼は2002年12月に中国に戻ってしまった。それもそのはず、実はコウコウはメスだったので、のちに中国で出産している。

そして初代と入れ替わりで訪れた2代目コウコウとの間にできた赤ちゃんはいずれも、死産と生後4日の命という悲しい運命をたどっている。その2代目コウコウも2010月9月に亡くなり、本人、もとい本パンダの意志とは無関係ながらも、タンタンはおひとりさま生活を送っているのだ。

エントランスにもパンダ

嗚呼、タンタン。子どものいないシングルの彼女が、なんだか愛おしくてたまらない。正面ゲートを抜けてフラミンゴやクジャクの檻を過ぎると、すぐにパンダ舎が見つかったので、一目散に駆け込む。この日のタンタンは屋内におり、約15人ほどの人に見守られていた。

悠然と歩くタンタン様

部屋の中をぐるぐる徘徊するタンタンは、意外と小さく見えた。飼育担当者に質問したところ、以前は100キロを超えていたが、今はやせてしまい80キロ台なのだという。70歳過ぎの我が母も最近体重が落ちてきたので、なんだか他人事とは思えない……。お尻を振ったり、頭を八の字に振ったりしながら歩くタンタンは、悠然として見えた。

後ろ姿も愛くるしいタンタン様

「お嬢様」と呼ばれるタンタン

平日の午後ということもあり、人垣ができることもないので、飽きるまでタンタンを眺めることにした。1時間はいただろうか。すると、あることに私は気が付いた。ガラスに張り付いてタンタンを見守るメンバーが、全然変わらないのだ。それも女性ばかりが見入っている。

もちろん子供連れやカップルなど、訪れては「パンダ~!」と声を上げて別の動物に移動する人たちもいた。しかしガラス面の最前列は、不動のメンバーで固められていたのだ。そして「今日はお嬢様、よく動いてるねー」などと和やかに会話している。先ほどの飼育担当氏によれば、毎日のように様子伺いに来る常連さんもいるそうだ。

15時20分頃、にんじんやペレット、竹などのお食事がタンタンに捧げられた。この竹は神戸産の孟宗竹や唐竹、淡竹(はちく)がメインで根曲がり竹、矢竹などもあるが、シーズンになると雌竹(めだけ)や四方竹(しほうちく)なども用意されるという。そしてペレットはゴリラ用のもので、他の園にあるようなパンダ団子は与えられていない。ガラス越しなので音はしないが、さきいかのように縦に割かれては噛まれる竹から、バサッバサッという響きが聞こえてくる気がした。

ただエサを食む。それだけで皆さま方の視線を独り占めのタンタン様
竹を召し上がるタンタン様

お食事を見守る皆さま方の目が、タンタンにくぎ付けになっている。そう、おひとりさまだとかそんなことは関係ない。タンタンはいるだけで見る人をほっこりさせてくれるし、それゆえに深く愛されているのだ。もはや存在自体が宝なのだ。

どうかいつまでもお元気で、ジァジァの記録を更新して欲しい。そう願ってやまないのは、私だけではないはずだ。

おひとりさまでも元気なサンゴ

パンダ舎からコアラ舎がある「動物とこどもの国」を目指す。なぜならここには、カワウソがいるからだ。3年前にも訪れたことがあるが、カップルと思しき2匹のコツメカワウソがくるくると動き回る、至福の空間(私見)だったことが今も記憶に刻まれている。

待っておれと言わんばかりにカワウソ舎にたどり着くと、どこにもカワウソはいなかった。しかしドンゴロスがもぞもぞと動いているので、中にいるのだろう。ここで諦めてはカワウソ一人旅の名折れであると思い、待機しているとすぐに姿を現した。

ドンゴロスから出てきてくださったサンゴ様

彼女の名前はサンゴ。今はおひとりさまだ。連れのアトム君は2019年9月、13歳で亡くなっている。
嗚呼、サンゴ。勝手に寂しくなる筆者をよそに、サンゴはのびをしたりキョロキョロしたり動き回ったりと、とにかくせわしない。しかし私はその理由を、3年前に聞いて知っている。閉園するとすぐに、お食事タイムがやってくるからだ。今の彼女にとって、近づいてくるホモサピエンスは、食事を持って来るか来ないか、ただそれだけのようだ。

動くたびに「かわいい~!」と騒がれるサンゴ様

サンゴのお食事はアジやどじょう、ワカサギだという。それって下手すりゃ私の日常より豪華……。しかしサンゴも、いるだけで訪れた人を笑顔にする。そんな尊い存在なのだから、ワカサギなど安いものである。

王者の風格で「何見てんだよ」的な表情を浮かべる、コアラのピーター様

1日600円で何度も楽しくさせてくれるだけでなく、気高く生きるおひとりさま動物にエールを送ることもできる。そんな王子動物園に今度いつ行けるか、今のところはまだわからない。けれど遠い街に、ひとりで行けるお気に入りの場所ができることは、とても幸せなことではないかと思う。かわうそ一人旅、まだまだ続きます(多分)。

 

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